コラム

MRIトレンドレビューサステナビリティ海外戦略・事業

世界と日本のESG投資動向

GX推進を契機にESG投資の拡大へ

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2022.11.25

金融DX本部山田晋弘

MRIトレンドレビュー

POINT

  • 世界的には新型コロナに伴う金融緩和により、ESG市場が急拡大。
  • 日本でもESG投資は増えているが、経済規模に比した額はまだ小さい。
  • 国家レベルでのGX(グリーントランスフォーメーション)の推進などを契機に一層の進展を期待。
ESG投資の拡大が続く。2015年末時点で662億ドルであった世界全体の投資額は、2021年末には9,281億ドルへ拡大している。本コラムでは、世界的なESG市場の動向と、その中でのアジア太平洋や日本の存在感を投資規模から測るために、国際NGOのClimate Bonds Initiativeが公開するデータを参照し分析した。

Climate Bonds InitiativeではESG投資をグリーン、ソーシャル、サステナビリティの3つに区分している。ここで言うグリーンとは環境問題を解決することに特化した投資、ソーシャルとは社会課題を解決することに特化した投資、サステナビリティとは環境問題と社会課題の双方を解決することを目的とした投資を指す。この3区分ごとの世界全体のESG投資動向では、グローバルなデータが取得可能となる2015年以降、常にグリーン投資がESG投資全体の半分以上を占めているので、ESG投資の全体額と、グリーン投資額の推移を中心に動向を追った。

欧州が世界のESGをけん引、コロナ禍に伴う金融緩和でESG投資が急拡大

地域別に見ると、図1の通り、全体では欧州がトップで、アジア太平洋、北米と続く。グリーン投資は特に、欧州が2位のアジア太平洋の2倍以上と金額規模では他を圧倒している。ソーシャル投資も欧州が最多であることは変わりないが、特に2019年以降に拡大した。またサステナビリティ投資は、各地域で年々増えているが、多国間での投資が最も多く、2020年以降急速に規模が拡大した。
図1 世界の地域別ESG投資額変化
世界の地域別ESG投資額変化

注:アフリカ:南アフリカ共和国、エジプト、モロッコ、ナイジェリア、ナミビア、ケニア、ガーナ、モーリシャス共和国、セーシェル(9カ国)

アジア太平洋:ニュージーランド、韓国、日本、中国、オーストラリア、台湾、インド、香港、フィリピン、ベトナム、シンガポール、マレーシア、アラブ首長国連邦、フィジー共和国、タイ、インドネシア、レバノン、サウジアラビア、トルコ、カザフスタン、カタール、イスラエル、パキスタン(23カ国・地域)

欧州:ノルウェー、フランス、スウェーデン、ドイツ、スペイン、オランダ、イギリス、オーストリア、イタリア、ベルギー、ラトビア、デンマーク、エストニア、ルクセンブルク、フィンランド、アイルランド、ポーランド、スイス、スロバニア、リトアニア、ポルトガル、アイスランド、ギリシャ、ロシア、ウクライナ、ハンガリー、アルメニア、ジョージア、ガーンジー島、スロバキア、チェコ、セルビア(32カ国・地域)

中南米:ペルー、メキシコ、ブラジル、コロンビア、コスタリカ、チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、バルバドス、パナマ、エクアドル、バージニア諸島、バミューダ諸島、ドミニカ共和国(14カ国・地域)

北米:アメリカ合衆国、カナダ(2カ国)

出所:Interactive Data Platform(Climate Bonds Initiative)より三菱総合研究所作成
欧州に次いで2位のアジア太平洋において、ESG投資額を国別に見ると、1位中国の投資規模は、2位の日本の約3倍に達している(図2)。中国の名目GDPは日本の約3倍ながら、グリーン投資額は日本の5倍である。一方、名目GDPが日本の約3分の1であるオーストラリアは日本の半分程度のESG投資額を有する。日本では経済規模に比して投資が進んでいない状況が見て取れる。
図2 アジア太平洋地域のESG投資額(2021年)
アジア太平洋地域のESG投資額(2021年)
出所:Interactive Data Platform(Climate Bonds Initiative)より三菱総合研究所作成
日本のESG投資の中で最も規模の大きいグリーン投資の業態別内訳を見ると、製造業が最も大きく、エネルギーがこれに続いている(図3)。なお、下図からは、最終的な投資先が識別できない金融業を除いている。
図3 日本のグリーン投資額(業態別、金融を除く)
日本のグリーン投資額(業態別、金融を除く)
出所:Interactive Data Platform(Climate Bonds Initiative)より三菱総合研究所作成
次に世界の地域別グリーン投資の投資元を業態別に見ると、地域ごとの特徴が見て取れる。まずアジア太平洋では他の地域に比べ圧倒的にローンの比率が高く、一般政府からの拠出も世界平均を上回る。これらの特徴はアジア太平洋で最も投資額が大きい中国によるものと考えられる。一方、北米を見ると、アセットバック証券(ABS)と一般政府の比率の高さが目立つ。欧州は国債や国際開発金融機関の比率が高く、政策的な意図を含んだ拠出が多い(図4)。
図4 世界の地域別・業態別グリーン投資割合(2021年)
世界の地域別・業態別グリーン投資割合(2021年)
出所:Interactive Data Platform(Climate Bonds Initiative)より三菱総合研究所作成
世界全体での業態別のグリーン投資額の推移を見ると、特に2021年に金融機関・非金融機関・国債による投資が顕著に拡大した。この背景には2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う各国の金融緩和による影響があると見られる(図5)。
図5 業態別 グリーン投資額推移(全世界)
業態別 グリーン投資額推移(全世界)
出所:Interactive Data Platform(Climate Bonds Initiative)より三菱総合研究所作成
アジア太平洋に絞って推移を見ると、世界全体と同様2021年に金融機関・非金融機関による投資が急伸しており、これも世界的な金融緩和による影響と考えられる。業態別内訳では政府系機関の投資規模が大きい。金融機関による投資は2018年からの米利上げに伴い一時的に急減したものの、2020年以降の金融緩和によって再び増加に転じた。結果的に直近では世界的な投資傾向に近い割合になっている。世界水準と比べて国債を介した投資が少ないのが特徴といえる。
図6 業態別 グリーン投資額推移(アジア太平洋)
業態別 グリーン投資額推移(アジア太平洋)
出所:Interactive Data Platform(Climate Bonds Initiative)より三菱総合研究所作成

通貨別投資規模ではユーロが最大も、米ドルが追随

投資規模を通貨別に見ると、最も用いられているのはユーロで、米ドル、人民元が続く。米ドルベースでの投資額は米国による投資額の倍程度だ。米ドルは米国国内および米国企業が海外で投資する際に用いられることに加え、基軸通貨として第三国における使用も大きいと考えられる。次いで人民元は、主に中国が主導する投資によるものと考えられるが、コロナ禍と時を同じくして一気に規模が拡大した(図7)。
図7 世界の投資規模(通貨別)
世界の投資規模(通貨別)
出所:Interactive Data Platform(Climate Bonds Initiative)より三菱総合研究所作成

国別グリーン投資規模では米国が最大規模も、中国の投資も伸長

グリーン投資額を国別で見ると、米国が世界一、次いで中国、フランス、ドイツとなる。温室効果ガス(GHG)排出量から見れば中国が米国を上回るものの、経済規模などから見れば中国の投資は必ずしも少なくない。一方、日本は世界で11位と、経済規模に比して非常に少ない(図8)。
図8 国別グリーン投資額(2021年)
国別グリーン投資額(2021年)
出所:Interactive Data Platform(Climate Bonds Initiative)より三菱総合研究所作成

投資先別グリーン投資ではエネルギー、建物、輸送で8割を占める

地域ごとにどの投資分野にグリーン投資を用いたかを見ると、どの地域でもエネルギー、建物、輸送への投資が多い(図9)。地域による産業構造の違いがあっても、世界全体で見ると、2021年のグリーン投資の投資先はエネルギー、建物、輸送で8割を占めている。

アジア太平洋ではエネルギーが37.6%(213億ドル)、建物は23.1%(131億ドル)、輸送は23.4%(133.7億ドル)となっている。2020年までは輸送の投資規模が建物を上回っていたが、2021年に建物が逆転した(図10)。

日本の公開データは2020年のものが最新だが、エネルギーは28%(29.7億ドル)、建物は35%(37.1億ドル)、輸送は29%(30.7億ドル)と、建物と輸送の割合が高く、アジア太平洋全体の傾向とは大きく異なっている
図9 地域別・投資先別グリーン投資(2021年)
地域別・投資先別グリーン投資(2021年)
出所:Interactive Data Platform(Climate Bonds Initiative)より三菱総合研究所作成
図10 アジア太平洋投資先別グリーン投資推移
アジア太平洋投資先別グリーン投資推移
出所:Interactive Data Platform(Climate Bonds Initiative)より三菱総合研究所作成

エネルギー、建設、輸送を軸としたESG投資の拡大を

2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って各国中央銀行が行った金融緩和を背景に、世界規模でESG投資は大幅に拡大した。一方で、日本のESG投資の規模は欧米や中国と比べて低水準にあり、世界的にESG投資の半分以上を占めるグリーン投資でも低水準にあることは、本コラムで示してきた通りだ。日本はGDPでは世界3位であるにもかかわらずESG投資額では10位以内にすら入っていない。これを見ても、日本にはESG投資余地が多く残されていると見られる。

他国のデータを見てもわかる通り、ESG投資ではエネルギー、建設、輸送の3分野の寄与が大きい。日本の投資額拡大には、程度や進捗の差こそあれ、この3分野の投資を一層増やすことが肝要だ。

3分野の重要性は、国際エネルギー機関(IEA)などの国際機関におけるセクター別投資規模見通し(例えば “Net Zero to 2050” Figure 2.22)でも示されている。これらの分野における投資促進に加え、国家レベルでGXの推進などを契機に、一層ESG投資が進展することを期待したい。