サステナブル・サプライチェーンの潮流 第3回:持続可能な調達を目指すサプライヤーマネジメント

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2023.2.10

海外事業本部山添真喜子

POINT

  • サプライヤーマネジメント戦略は、サプライチェーン上流のESGリスクを把握したうえで立案すべき。
  • サステナブルなマネジメント実践は、サプライチェーンに属する全企業の競争力強化に直結。
  • 企業には、ESG対応コストを投資と捉えるビジネスモデルチェンジが求められる。
本シリーズでは3回にわたりサステナブル・サプライチェーンの潮流と日本企業のとるべき方策を考察している。第1回は、主に欧米主導で進むデューデリジェンス(事業活動における人権や環境への悪影響を予防・是正する継続的な取り組み)義務化の流れと日本企業が多数進出する東南アジアにおける動向を整理し、第2回では日本政府の動向とグローバル企業事例を考察した。第3回では、マルチステークホルダーとの取り組みや、サプライヤーマネジメント(自社の方針に適するサプライヤーの特定、調達、提携などの管理方法)について提案する。

調達に関わるルール策定

ライフサイクルの観点からも価値があり、経済のみならず環境・社会にも便益を生む商品・サービスを購入すべきと考える調達を持続可能な調達という。

国際的な環境・人権NGOは、企業が持続可能な調達を行うことへの働きかけを長年重視している。環境や社会配慮を行わない企業による児童労働・強制労働や熱帯雨林違法伐採などの解決のため、そのようなサプライヤー企業(以降、サプライヤー)から調達を行っているバイヤー企業への圧力を強めてきた。広く認知されている事例として、1997年に発覚したナイキの東南アジアのサプライヤーによる児童労働問題がある。NGOが問題提議を行った後、一部の主要市場で同社製品の不買運動に発展したことが知られている。

このように、レピュテーション(世間からの評判、信用)の棄損が財務的なインパクトにつながる事例が顕在化したことから、バイヤー企業はサプライヤーのESG対応を担保する枠組みを作り上げてきた。

その取り組みの1つである持続可能な調達を実現するための調達ルール策定について解説する。

パーム油などの天然材の多くは、大手プランテーションのみならず多くの小規模農家でも栽培され、その後一次加工を経て原材料として企業の手に渡る。栽培地域も広大であり、ESGに配慮した環境で栽培・加工された原材料を調達するのは容易ではない。そのため、農家や一次加工業者、小規模農家支援を実施しているNGOや環境保護団体など、多様なステークホルダーと連携し天然材栽培に関するルール策定が効果的なアプローチ方法として考えられるようになった。

パーム油と同様に、熱帯雨林破壊や人権侵害のリスクが指摘されていた天然ゴムを調達しているブリヂストンは、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)のタイヤ産業プロジェクト(TIP)に参画し、タイヤのサステナビリティに関する科学的な調査や情報開示を実施した。その後TIPを母体として設立された、持続可能な天然ゴムのためのプラットフォーム(GPSNR :Global Platform for Sustainable Natural Rubber)の調達ルール構築に関わる活動でもリーダーシップを発揮した。同社は日本企業唯一のエグゼクティブコミッティーメンバーとして、現在も天然ゴムのサステナビリティに関する基準策定などの活動に関し、同業他社、サプライヤー、小規模農家、NGOなどとの連携や持続可能な天然ゴム調達の普及・高度化に関し主導的役割を担っている※1

サプライヤーのESG対応情報の開示

EUの「企業持続可能性デューデリジェンス指令案」(CSDD案)や経済産業省が公表した「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」のような法規制やガイドライン、国際規格(例:ISO20400)の整備、さらにESG投資家によるエンゲージメント・ダイベストメントなどを通じ、サプライチェーン全体でのESG対応の要請はさらに高まっている。このような背景からも、バイヤー企業によるサプライヤーマネジメントの重要性が認識されるようになった。

自社にとって最適なサプライヤーマネジメントの戦略の1つとして、各サプライヤーのESG対応情報の開示が挙げられるが、製品レベルでESGパフォーマンスを開示した事例として、ウォルマートが構築したサステナビリティ・データ・プラットフォーム「The Sustainability Insight System」(THESIS)が知られている。同社は、自らがリーダーシップを示してその活動を推進してきた食品・消費財業界の「サステナビリティ・コンソーシアム」(TSC)の枠組みを活用し、2009年からサプライヤーへ「エネルギーと気候変動」「原材料の使用効率」「天然資源」「人とコミュニティ」の4分野に関する質問票の送付を開始した。

その後、製品ごとのESGパフォーマンス情報を開示できるTHESISを構築。現在THESISには、ウォルグリーン、クローガー、アマゾン、マークス&スペンサーといった300の小売業者が参加している。サプライヤーはTHESISを通じて製品のESG情報を、小売業者のみならず、投資家・NGO・消費者を含む多様なステークホルダーへ開示できる。そのため、THESISを利用する企業は増え続け、現在では1,800社以上のサプライヤーが参加するに至っている※2

サプライヤーマネジメントのオプション

しかしながら企業規模やグローバル展開状況がまちまちなバイヤー企業が、ブリヂストンやウォルマートのように調達におけるルール策定やサプライヤーのESG対応情報開示などの取り組みを個別に実践するのは現実的ではない。そこで、限られたリソースの中でどう効率的・効果的にサプライヤーマネジメントを実施することができるか、そのオプションについて次の通り整理する。

第1のオプションとして、契約にESG対応に関する項目を組み入れたり、コンプライアンスマニュアルを作成することで各サプライヤーに遵守を求めるなどの対応に加え、自社作成のSAQ(自己問診票)によりサプライヤー評価を実施することが考えられる。しかし、昨今の投資家などステークホルダーからの要請の高まりを受けて、SAQの活用だけでは持続可能な調達の担保には不十分との指摘も強まっている。

そこで第2のオプションとして、サプライヤーのESG評価サービスを提供する「EcoVadis」や「SEDEX」などの第三者専門機関を活用することにより、サプライヤーマネジメントの高度化の流れが加速している。

例えばEcoVadisは、契約を結んだバイヤー企業に代わって質問票をサプライヤーへ送付し回答データの評価・点数付けを行い、バイヤー企業はEcoVadisが提供するクラウドベースのSaaSプラットフォームを通じて評価結果を受け取る。EcoVadisでは産業別・企業サイズごとに質問票を用意しているため、自社SAQより精緻なサプライヤー評価となるケースが多い。評価結果をベースに、不十分な対応しかなされていないESG課題についてサプライヤーに改善を促すことも可能だ。

EcoVadisの評価を受け取ることでサプライヤーも同業界内の自社ポジションが明確になり、ESGへの対応を他社との差別化につなげられる※3

こうしたメリットがある一方で、サプライヤーがEcoVadisからESG評価を受ける際には、評価コストを負担しなければならない。サプライヤーのコスト負担を回避したいバイヤー企業は、そのサービス活用にハードルを感じるケースもあるだろう。また、バイヤー企業がEcoVadisのような外部サービスを活用する時には、優先すべきサプライヤー、地域、ESG課題を明確にしたうえで戦略的にサプライヤー評価を推進することが求められる。

効果的なサプライヤーマネジメント推進方法

このように外部評価サービスやSAQの活用といったオプションが存在するが、最適なサプライヤー評価やマネジメントを実施するためにはサプライチェーンの上流におけるESGリスクとその先にある自社への影響を理解することが必要となる。

そこで提案したいのが、一次・二次(必要に応じて三次)サプライヤーのESGリスク診断の実施だ。ESG課題チェックリストなどを活用し、サプライヤーの環境・社会・ガバナンス課題の対応状況をチェックしたうえで、問題がありそうな①サプライヤーの階層・事業内容、②サプライヤーの存在地域、③具体的なESG課題をそれぞれ特定する。そして、①~③に紐づくリスクを洗い出し、事業や財務への影響を整理・推計することで、優先して詳細評価されるべきサプライヤーの階層、地域、具体のESG課題が浮き彫りとなる。
図表1 ESG課題チェックリストイメージ
ESG課題チェックリストイメージ
出所:三菱総合研究所
図表2 ESGリスク診断結果から浮き彫りになる優先サプライヤーとESG課題イメージ
ESGリスク診断結果から浮き彫りになる優先サプライヤーとESG課題イメージ
出所:三菱総合研究所
依存度の高いサプライヤーやリスクの高いエリアに存在するサプライヤーについては、外部評価サービスを利用したスピーディーな評価も有効だろうが、特にリスクの高いサプライヤーには、自社による現地調査や監査の活用も検討すべきだ。代替がきかない小規模なサプライヤーに関しては、サプライヤー評価費用の発生を避けるために自社作成のSAQを活用して評価することも一案である。

上流サプライヤーに海外の農家等が含まれる場合には、現地の状況に精通した農家支援を行っているNGOなどと協働することも考えられる。

ESG課題リスク診断を実施する際は、サプライヤーの所在地の地政学リスクや国際情勢の分析、経済安全保障の視点から輸出入管理法規制等に紐づくリスク把握も実施できるとより包括的なリスク把握が可能となる。そのため、ESG課題リスク診断を実施する部門には、ESGにプラスし国際情勢に関するインテリジェンス機能をもつことも提言したい。

求められるビジネスモデルチェンジ

ESG対応の向上を目指すサプライチェーンマネジメントの徹底は、バイヤー企業とサプライヤーを含むサプライチェーンに属する全企業の競争力強化に直結する。今後サプライヤーもESG評価を受ける際、コスト負担を強いられるケースが出てくるかもしれない。バイヤー企業からの要請と受け止めるとコストと捉えることになるが、自社の競争力強化につながると考えれば投資と整理できよう。

バイヤー企業も、サプライヤーにESG対応を丸投げするのではなく、ESG対応に関するベストプラクティスの共有など、サプライチェーン全体の価値を高めるための施策を実施することが必要だと考える。

サステナビリティ経営が浸透したことで、サプライチェーン上のESG対応をコストとしてみなし、コストの最小化により生産性を上げる時代は終わった。サプライチェーン全体でのESG対応コストを投資と捉えるビジネスモデルチェンジがバイヤー企業・サプライヤー両方に求められている。

当社はサプライヤーマネジメントの最適化を目的とした、サプライヤーESGリスク診断やサプライチェーンマネジメント戦略立案を支援している。ESGリスク診断をベースとした事業影響の整理や財務的影響の推計も実施可能だ。ビジネスと人権に関しては、人権方針策定や人権デューデリジェンス実施支援を展開しており、サステナブル・サプライチェーン構築を多面的にサポートできる体制を有している。

2023年2月17日には、サステナブル・サプライチェーンに関するセミナー「今、求められるサステナブル・サプライチェーン構築の取り組み」の開催を予定している。サステナビリティ経営が加速的に普及する昨今、当社では本企業の皆さまのご支援を通じて、日本企業の喫緊の課題となっているサステナブル・サプライチェーン構築とその高度化への貢献を今後も目指していく。

※1:経済産業省「令和3年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(世界のサステナビリティに資する経済動向等に関する実態調査)」(2022年3月)
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2021FY/000300.pdf(閲覧日2023年1月13日)

※2:Walmart Sustainability Hub「THESIS Index」
https://www.walmartsustainabilityhub.com/reporting/thesis-index(閲覧日2023年1月13日)

※3:EcoVadis「EcoVadisについて」
https://ecovadis.com/ja/about-us/(閲覧日2023年1月13日)

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