コラム

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ASEAN地域での官民連携による低炭素技術の普及

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2019.9.27

環境・エネルギー事業本部才村綾美

環境・エネルギートピックス
2019年9月5日、ASEAN+3※1エネルギー大臣会合がタイで開催された。この会合において、日本により提案されたCEFIA(セフィア:Cleaner Energy Future Initiative for ASEAN)が各大臣から歓迎され、2019年11月27-28日に第1回CEFIA官民フォーラムをフィリピンで開催することが共同声明に盛り込まれた※2。CEFIAは、経済成長が著しいASEAN地域において、エネルギー転換と省エネルギーの推進による低炭素化をビジネス主導で実現する官民協働の取り組みであり、低炭素技術の導入と諸制度の設計・整備をセットで進めることで、ビジネス環境を整備していくこととしている。
低炭素技術の導入と制度整備のセットとは、例えば、高効率カーエアコンや産業用ヒートポンプ、ZEB/ZEH※3、エネルギーマネジメントシステムをはじめとした技術の導入に際して、その技術の普及に資する政策・制度(エコステッカー、省エネラベル、グローバルベンチマークなど)の構築を、技術とセットで相手国に提案するイメージである。CEFIAでは、これまでの取り組みの成功事例を共有することで、低炭素技術の市場拡大を目指している(図1)。
図1 CEFIAの概要
図1 CEFIAの概要
出所:経済産業省「産業技術環境政策について」(閲覧日:2019年9月24日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/pdf/008_02_00.pdf
国際社会が温暖化対策を進めていく上で、民間企業の有する低炭素技術を普及させることが欠かせないが、それを誰が主導して、どのように実現していくかは各国で長らく課題となっていた。この点について、2019年6月に日本が初めて議長国となり開催されたG20大阪サミットでは、(1)イノベーションの推進、(2)民間資金の誘導、(3)ビジネス環境整備という3本柱の重要性が広く認識され、環境と経済をめぐる最新のトレンドにおいて、温暖化対策は、企業にとってコストではなく、ビジネスチャンスと捉えるべきものへと大きく変化しつつある。
CEFIAにおいても、日本企業の有する低炭素技術の海外展開にあたり、ビジネス主導で「環境と成長の好循環」を促進することとなる。すなわち、「民」の海外展開の前提となるビジネス環境整備を「官」が後押しし、そこに「民」が低炭素技術を普及させる。さらには、SDGsやESGに沿った投資を呼び込み、「民」が企業価値を高めるという、新たな官民連携によるアプローチが進められようとしている。
CEFIAはASEAN+3の官民イニシアチブであるが、昨年度はそれに先立つ取り組みとして、タイ、ベトナム、インドネシアのそれぞれで二国間の官民連携ワークショップが開催されている。これらのワークショップでは、低炭素技術に関して、ビジネス環境の整備による市場普及の成功事例やノウハウが共有された(図2)。例えば、インバーターエアコンや高効率カーエアコンに代表される空調機器について、日本の政府と企業が省エネラベリング制度の設計・運用の仕組みづくりを支援することで、高効率空調機器の普及を促進し、効率の悪い製品を市場から排除するとともに、ユーザーの電気料金の削減に貢献してきた事例が紹介された。
パリ協定を踏まえた気候変動対策と、民間資金を呼び込むためのビジネス環境整備の重要性が増している中、相手国政府からは、日本の官民の経験を基にしたグッドプラクティスの共有に高い期待が寄せられている。こうした相手国の声を踏まえ、CEFIAでは二国間の取り組みをASEAN大にも発展させ、ASEAN各国および域内での横展開などの取り組みが進められる予定である。
低炭素技術の海外展開に際しては、相手国の最新の政策動向と最前線でのニーズの把握、それらを踏まえた市場の絞り込みと戦略策定が求められる。こうした戦略も、上記のような官民連携を視野に入れることで、より効果的に低炭素技術の普及を図ることができる。三菱総合研究所では、途上国・新興国のエネルギーセクターにおけるビジネス展開の知見と官民双方へのネットワークを生かし、タイ、ベトナム、インドネシアでの二国間の官民ワークショップに事務局として参画してきた。また、CEFIAの立ち上げ支援にも関わり、わが国の民間企業と連携して各国での低炭素技術の普及展開を支援している。今後とも、各国での経験を生かすことで、官民双方の皆さまとともに低炭素技術の展開を支援していきたい。
図2 二国間ワークショップの様子
図2 二国間ワークショップの様子
出所:経済産業省「産業技術環境政策について」(閲覧日:2019年9月24日)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/pdf/008_02_00.pdf

※1 ASEAN+3:ASEANを構成する10カ国に、日本、中国、韓国の3カ国を加えた13カ国

※2 経済産業省プレスリリース「ASEAN+3及び東アジアサミットのエネルギー大臣会合が開催されました」(閲覧日:2019年9月24日)https://www.meti.go.jp/press/2019/09/20190906003/20190906003.html

※3 ZEB/ZEH:net Zero Energy Building/Houseの略称であり、年間の一次エネルギー消費量がネットでゼロとなる住宅/建築物のことを指す。