コラム

MRIトレンドレビュー海外戦略・事業サステナビリティ

サウジアラビアの廃棄物管理・リサイクル市場が始動

日本の高度な政策・技術ノウハウを活用して事業機会の獲得を

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2022.12.6

ドバイ支店長遠藤峻

海外事業本部阿部真千子

MRIトレンドレビュー

POINT

  • サウジアラビアでは廃棄物の多くが分別・焼却されることなく直接埋め立てられている。
  • 廃棄物管理・リサイクルの普及に向けて、法制度の整備や技術導入などが開始。
  • 日本の廃棄物管理の技術と実績が、サウジアラビアの廃棄物管理・リサイクル市場創設に貢献するチャンス。
サウジアラビア、カタールなどの中東湾岸諸国では、石油・ガス資源に依存した経済からの脱却を目指し、持続可能な経済・社会への転換を図っている。当社ではこれらの取り組みを支援するために、以前から湾岸諸国政府に対する政策立案支援や日本企業の現地展開支援を実施してきた。2021年2月にはドバイ支店を開設し、環境・エネルギー分野およびヘルスケア分野を当面の対象として、より地域に密着した形で活動を推し進めている。

本コラムでは、複数ある活動の中からサウジアラビアにおける廃棄物管理・リサイクル事業構築の支援に向けた取り組みを紹介する。

始まったばかりのサウジアラビア廃棄物管理

サウジアラビアでは、廃棄物管理・リサイクルがいまだ社会に十分に根付いているとはいえない。家庭やオフィスなどから排出される一般ごみは、十分に分別されないまま収集・運搬され、近郊の最終処分場(埋め立て処分場)に直接埋め立てられている状況である。産業廃棄物の処理や管理の仕組みも未確立であり、不法投棄も問題となっている。

サウジアラビアの経済社会改革のビジョンであるサウジビジョン2030の策定を契機として、サウジアラビア環境・水・農業省(Ministry of Environment, Water and Agriculture: MEWA)は2017年に包括的な国家環境戦略(National Environment Strategy)を策定した。そして2019年には、廃棄物管理政策を立案・推進する政府機関として、MEWAの傘下に国家廃棄物管理センター(National Center for Waste Management: MWAN)が設立された。その後、2021年12月に国家廃棄物管理法が施行され、さらに2022年10月に、廃棄物管理の実施のための具体的な規則を定めた廃棄物管理施行規則が発表された。これらの動きを踏まえMWANでは、廃棄物管理に関するマスタープランの作成や廃棄物管理情報システムの構築に着手するなど、廃棄物管理のための制度整備に向けて活動を始めている。

サウジアラビアにおける廃棄物管理・リサイクルの推進体制を図1に示す。前述のMWANが政府機関として、法制度の整備や許認可の実施などの政策・規制側を担っている。これに対して、廃棄物処理やリサイクル事業の実行の中心となるのがサウジ投資・リサイクル公社(Saudi Investment Recycling Company: SIRC)である。SIRCはサウジアラビアのソブリンウェルスファンド(政府が出資する投資ファンド)であるPublic Investment Fundの100%出資により2017年に設立された企業であり、既存の廃棄物処理・リサイクル事業者への出資や外資企業とのJV(合同企業体)の組成などを通じて同国の廃棄物処理やリサイクルを推進する主体(Enabler)としての役割を担っている。今後サウジアラビアでは、MWANとSIRCが両輪となって廃棄物管理・リサイクルを推進していくことが期待されている。
図1 サウジアラビアにおける廃棄物・リサイクル分野の推進体制
サウジアラビアにおける廃棄物・リサイクル分野の推進体制
出所:各機関へのヒアリングなどを通して三菱総合研究所作成

野心的な計画、求められる海外からの技術導入・投資

MWANによると、サウジアラビアにおける2018年の廃棄物の総排出量は約5,300万トンである。このうち建設廃材が約42%(2,200万トン)、都市廃棄物が約30%(1,600万トン)を占めている。現在、これら廃棄物のほとんどが、中間処理されずに最終処分場で直接埋め立て処理されている状況である。

これに対してMWANは、2035年までに都市廃棄物について94%を中間処理し、直接埋め立ての比率を6%まで縮小するとしている。さらに建設廃材などを含めた廃棄物全体でも82%を中間処理するとの野心的な目標も立てた。これを受けてSIRCは、都市廃棄物に対しては、廃棄物焼却発電、RDF(廃棄物固形燃料化)、MRF(資源選別)、堆肥化などの方法で94%の中間処理を達成するとのロードマップを示している(図2参照)。
図2 SIRCによる都市廃棄物の中間処理のロードマップ
SIRCによる都市廃棄物の中間処理のロードマップ
出所:Saudi Investment Recycling Company, SIRC Introduction & the integrated recycling and waste management solutions, 2021.11.30
MWANとSIRCによる廃棄物処理の活動は緒に就いたばかりである。
今後廃棄物の中間処理やリサイクルを進め、埋め立て処分量を削減していくためには、海外からの投資誘致や技術導入が不可欠である。例えば、同国はいまだ大型の廃棄物焼却施設を有しておらず、大型の廃棄物焼却発電(Waste to Energy)プラントの導入がこれからの重要検討課題となることは必定だろう。

このほかにも「下水汚泥をメタン発酵処理したい」「食品廃棄物を堆肥化したい」「電子機器の貴金属のリサイクルを行いたい」「医療廃棄物を処理したい」「現存する埋め立て処分場のリハビリを行いたい」等々、同国関係者からは廃棄物管理のニーズに関するさまざまな声が聞かれる。廃棄物管理やリサイクルに対するニーズはあらゆる分野にわたっている。図3に、SIRCによって示された、対象となる廃棄物の分類を示す。国がSIRCに要請している廃棄物管理の範囲が非常に多岐にわたっていることが読み取れる。

サウジアラビアの廃棄物管理の課題は、外資企業誘致や技術導入によって、廃棄物処理やリサイクルを進めることにとどまらない。MWAN、SIRCでは、廃棄物管理行政、廃棄物管理事業に携わった経験を有する職員の育成も急務である。さまざまな廃棄物処理技術を比較・評価して適切な技術を選定したり、自国の状況に合わせて適合させたりするためのエンジニアリング力や、調達・プロジェクト管理の経験も不足している。

MWANとSIRCに課せられている使命は、現在ほぼ100%の廃棄物が埋め立て処分されている状況から、2035年までに都市廃棄物の94%についてリサイクルや焼却などの中間処理を行い、直接埋め立て比率を6%にまで下げることである。これを実現するためには、上述のような廃棄物処理・リサイクル関連技術の導入、人材育成、国民の啓蒙、持続可能な廃棄物管理行政の運営などのさまざまな課題への取り組みを同時並行、かつ短期間に進める必要がある。
図3 SIRCの対象とする廃棄物例
SIRCの対象とする廃棄物例
注:MSW: Municipal Solid waste(都市廃棄物)の略
CDW: Construction and Demolition Waste(建設廃棄物)の略

出所:Saudi Investment Recycling Company, SIRC Introduction & the integrated recycling and waste management solutions, 2021.11.30

日本への期待

日本には、廃棄物焼却発電やプラスチックリサイクル、金属リサイクルなど多くの分野で高い技術を持ち、国内外での設備設置や運用実績がある企業が数多く存在する。また家電リサイクル、食品リサイクル、エコタウンなどさまざまな分野で廃棄物処理とリサイクルを進めるための制度を構築し、大きな成果をあげている。

このような蓄積はサウジアラビアが直面している廃棄物管理にまつわる数々の課題の解決にとって、きわめて有効なものといえる。

しかし、サウジアラビアでの事業展開に積極的な日本企業は必ずしも多くないことも事実である。

その理由はさまざまである。日本企業は国内やアジアへの展開に集中する段階であり、地理的にも遠い中東への展開にはまだ至っていない。さらには、サウジアラビアの法制度や廃棄物の収集・運搬などの仕組みが未確立であること、連携できる現地の有力な事業者が育っていないこと、サウジアラビアの商慣習に不安があることなどが、サウジアラビアへの事業展開の障壁となっているとみられる。

こうした状況に対し、日本の環境省は、サウジアラビアの環境・水・農業省との間で2020年に廃棄物管理を含む、環境分野における協力覚書(Memorandum of Cooperation)を締結し、政府として日本企業の事業展開を側面から支援する姿勢を示している。同省はこの覚書に基づき、2021年度にはサウジアラビアの廃棄物・リサイクル政策・技術面でのニーズを確認し、日本企業への情報提供、サウジアラビアに対して提案すべきソリューション構想の作成などを行った。さらに2022年度の事業として、政府間で実施するGtoGの取り組みと民間企業を含むGtoBの協力の2つを実施する。GtoGとしては「サウジアラビアの廃棄物管理に係る課題を特定した上で、これに対して日本が有する、必要な知見をサウジアラビア側に提供する」ことを、またGtoBとして「サウジアラビアにおける廃棄物リサイクル制度や市場に関する情報を本邦企業に提供する」ことを計画している(図4参照)。
図4 日・サウジアラビア間の廃棄物分野の協力枠組み
日・サウジアラビア間の廃棄物分野の協力枠組み
出所:環境省「令和3年度中東諸国における廃棄物・リサイクル分野のインフラ輸出に係る包括的戦略検討業務報告書」(2022.3、三菱総合研究所受託)

当社とSIRCとの間で協力覚書を締結

当社は環境省の上述のような取り組みを支援しながら、サウジアラビアの大きな社会課題である廃棄物管理・リサイクルの推進に貢献するための活動を行ってきた。そして2022年3月31日には、SIRCとの間で、サウジアラビアにおける廃棄物・リサイクル分野での協力覚書を締結した。この覚書に基づき当社とSIRCは協力して、SIRCの研究開発戦略の構想の策定、SIRC職員の廃棄物・リサイクル事業にかかる能力向上プログラムの検討、SIRCと日本の廃棄物・リサイクル分野関連企業とのマッチングに取り組むとともに、将来的な共同事業も検討していく予定である。

当社は今後とも、環境省をはじめとする日本の政府関係機関とも連携しながら、サウジアラビアの政府機関の組織能力の強化や廃棄物処理制度の確立を支援していく。加えて、日本とサウジアラビアの間をつなぎ、日本企業の有する優れた技術や経験をサウジアラビアに導入することで、サウジアラビアの廃棄物管理・リサイクルの高度化と、廃棄物・リサイクル市場の創出、さらには日本企業の海外展開に貢献していきたい。

※:MWAN, From Waste to Resources Saudi Arabia’s Waste Management Sector Transformation November 30th, 2021, 2021.11.30