ドバイ万博で変容する中東の環境意識

日本がドバイ万博から学ぶもの

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2022.7.19

海外事業本部林保順

ドバイ支店藤澤沙織

西日本営業本部 万博推進グループ今村治世

MRIトレンドレビュー
新型コロナウイルス感染症の影響で1年延期となっていた、アラブ首長国連邦(UAE)での「2020ドバイ国際博覧会」が無事閉幕した。会期は2021年10月1日~2022年3月31日だった。「心をつなぎ、未来を創る(connecting minds, creating the future)」をテーマに「サステナビリティ」「モビリティ」「オポチュニティ」の3つのテーマ別パビリオンを設置し、万博史上最多となる192の国と地域が参加した中東・アフリカ初の開催となった。本コラムでは万博会場での環境配慮の取り組み、また、そこから見える中東の環境意識の変容を取り上げる。

UAEを含む中東ではドバイ万博開催を契機に環境意識が芽生え初めており、今後日本の環境行政のノウハウや経験が貢献できる可能性が高まる。

ドバイ万博における環境配慮の取り組み

ドバイ万博では、3つの主テーマの1つにサステナビリティが掲げられた。サステナブルな、特に環境配慮に関する取り組みとはいったいどのようなことだったのだろうか。さまざまな取り組みがなされたが、特筆すべきものとして「廃棄物の削減」「水に関する取り組み」の2点について取り上げる。

廃棄物の分別・削減・リサイクル

万博では、会場で発生する全廃棄物の85%以上を再利用することを目標に定め、ごみ箱を①Mixed Recyclables(混合リサイクル)、②Landfill(埋め立て)、③Organic waste(有機廃棄物)の3種類に分類し、分別回収に取り組んだ。現在UAEでは、家庭ごみは全て同じごみ箱に捨てられており、ごみ分別の文化は根付いていない。そのため分類を知らない来場者も多く、会場に設置されたごみ箱は、どのアイテムがどの分類になるのかが絵でわかるように工夫されていた。
会場のごみ箱 誰でもわかる「絵」を通じて分別しやすい設計になっている
会場のごみ箱。誰でもわかる「絵」を通じて分別しやすい設計になっている(撮影:三菱総合研究所)
ごみ箱のほかにも、例えばお土産にはリサイクル素材を活用したTシャツや紙袋が採用された。これらにおいても、わかりやすいイラストやメッセージを通じ、リサイクル素材であることが明示されていた。
ペットボトルからリサイクルされたことがわかる万博オリジナルTシャツ(左) 廃棄物からリサイクルされた素材で製造されたことがわかる紙袋(右)
ペットボトルからリサイクルされたことがわかる万博オリジナルTシャツ(左)と廃棄物からリサイクルされた素材で製造されたことがわかる紙袋(右)(撮影:三菱総合研究所)
ドバイ万博の来場者は、コロナ禍での開催も影響してUAE在住者が多く見受けられた(全体の7割程度がUAE在住者)。前述の通り、UAEでは家庭ごみは分別の必要がないため、リサイクル意識は決して高くない。今回の万博を通じて、分別やリサイクルといった身近な環境行動に意識が自然に向くことが、国内の環境意識を高める契機になったと考えられる。

ドバイ万博の参加者に目を向けると、参加国や商業パートナーには、使い捨てプラスチックの最小化に向けた協力を誓約させ(The Planet Over Plastic Pledge)、パビリオンやレストラン・カフェなど会場のいたるところで包装材を含む使い捨てプラスチック材削減、リサイクル推奨が見られた。

例えばオランダ館では館の資材がリユース前提でつくられていたり、シンガポール館では緑をベースにしたメッセージ性の強い設計がなされるなど、万博の特徴でもあるパビリオン自体で環境意識を感じさせる取り組みがなされていた。

UAEは豊富な資源と土地を有していることから、これまでは廃棄物の処理に対して課題を感じることが少なかったかもしれない。しかし、グローバルトレンドも影響し、今後国家としても廃棄物削減・分別のシステム構築などが大きな課題の1つになっていくと想像される。

水に関する取り組み

会場は日中40度近い気温になることもあり、水分補給についてはいろいろな取り組みがなされていた。飲食施設(カフェ、レストラン、キッチンカー)のほか、万博会場には、多数の水くみ場が設置されており、無料でマイボトルに繰り返し水を注いで飲めるようになっていた(AQUAFINA社の提供する専用ボトルを購入すればさまざまなフレーバーの水が詰め替えできるWater Stationも設置されていた)。

水質維持のため、専門検査員が毎日2回程度水くみ場の水質を検査するなど、安心して利用できる環境が作られていた。この取り組みは、ペットボトル削減に寄与したと思われる。
おしゃれでさまざまなデザインの水くみ場
おしゃれでさまざまなデザインの水くみ場(撮影:三菱総合研究所)
一方で、中東諸国においては基本的に水資源が豊富ではなく、非常に貴重である。神聖なる「水」という表現があるほどだ。そのため、UAE館やサウジアラビア館、DP World(Dubai Port World)館などではあえて水を豊富に、誇らしく使った演出が施されていた。万博ならではの演出の裏には、依然として高い水資源の確保(節水、水リサイクル、海水淡水化など)に対するニーズを感じることができた。

UAEにおける環境意識の変容、これから想定される動き

現在、UAEをはじめとした中東各国は先進国の仲間入りを目指している。ドバイ万博(2021年)やカタールワールドカップ(2022年)、グローバルなアートミュージアムの誘致などもそうした姿勢の表れと言える。UAEでは前述の通り、これまでごみの分別をせず、環境に対する制限が先進国に比べて少なかったが、先進国を目指す中で、カーボンニュートラルをはじめとした環境への配慮も無視できなくなった。

実際にサウジアラビアでは、都市開発が進み従来型の埋め立て一辺倒には限界が見え始めていることもあり、環境問題は国家にとって大きなテーマとなりつつある。UAEはじめ中東の多くの国では国家ビジョンに環境への配慮をうたい、廃棄物への対応も急務とされた。このように、環境、脱炭素、廃棄物削減といったトレンドは、これまで豊富な石油資源と広大な土地をベースに成長してきた国家にとっては大きな転機であり、同時にマーケットが生まれるタイミングであると言える。

これからドバイ、UAE、そして中東はどう変わっていくのであろうか。王族支配の強い中東では、首長が示した野心的な目標を国民一丸となって達成しようとする傾向が強い。そのために、廃棄物管理の法整備・設備導入・意識啓発、あらゆる事業がゼロから急ピッチで行われている。UAEがこの万博を自国民の意識啓発契機として意識していたことは明白である。実際、若い層が遠足などとして何度も万博に足を運び、初めての分別、初めてのリユース、初めてのリサイクルを学んだはずである。

ドバイのシェイク・ハムダン皇太子はまさに万博開催中の2022年2月15日に「Dubai Can」プロジェクトを発足させた※1。これは、市民にプラスチックの使い捨てを削減するよう促し、①使い捨てのペットボトルを詰め替え可能な水筒に変える、②再利用可能な買い物袋を使う、など小さくてもインパクトのある変化を起こすためのプロジェクトである。①ではドバイ市内34カ所に無料の水くみ場を設置した。②では2022年7月1日から、ドバイの全店舗で使い捨てレジ袋の有料化を発表した。

ドバイ万博をきっかけとして在住者の環境意識が向上してきたタイミングに王族主導で「Dubai Can」プロジェクトを発足させたこともあり、今後市民一人ひとりの行動が変化し、習慣として定着していくことが期待できる。ドバイならびにUAEの環境への取り組みは今まさに始まったばかりである。UAEのみならずサウジアラビアやカタールでも同様の廃棄物管理強化の動きが見られており、中東における廃棄物・資源循環マーケットの拡大が今後大きく期待される。実際に設備導入の面では、2020年12月にドバイの廃棄物発電施設を伊藤忠商事と日立造船が受注している。
 
UAEをはじめとした中東各国では市民の意識向上と合わせて、国家主導で大きな環境分野のマーケットが急ピッチで創出されていくことが想定される。当社も日本の廃棄物管理・資源循環政策の立案を支援してきた経験とノウハウを蓄積している。同時に、廃棄物やリサイクルに関連する事業者の戦略立案などの支援も多く行っており、関連するネットワークを豊富に有している。ドバイ支店では、こうした日本での実績で習得したノウハウやネットワークを活用し、現地ニーズに対応していきたい。
DUBAI CANプロジェクトを周知する駅の広告
DUBAI CANプロジェクトを周知する駅の広告(撮影:三菱総合研究所)

ドバイ万博から大阪・関西万博へ

「心をつなぎ、未来を創る」ドバイ万博から、「いのち輝く未来社会のデザイン」の大阪・関西万博へとバトンが渡される。今回のコラムで取り上げた「サステナブル」の観点においては、日本で見たことのないハイレベルの取り組みがあったわけではない。たとえて言うならば、日本のテーマパークのように、イベントを十分に楽しみながら、運営に問題がないレベルでの取り組みであった。

ドバイ万博から日本が学ぶべきものは何か。それは、「万博という契機を最大限に生かして国(市民)の行動変容を促すという考え方・取り組み」ではないか。ドバイ万博では、前述の通り、トップダウン的に「Dubai Can」プロジェクトが開催された。日本でも会期中に、高い水準のサステナブルな取り組みを万博会場外で展開することが重要と言える。具体的に何が必要かを考察する。

高度経済成長を契機に生じた多くの環境課題を、日本は高度な技術やシステムをもって解決してきた。今では当たり前のようにごみの分別と適正な処理がなされ、上下水道や大気汚染対策などのシステムが整えられている。現在は、グローバルな潮流の中、カーボンニュートラルや一層高いレベルでのサステナブルな取り組みが求められている。

このような状況の日本で開催される万博においては、サステナブルで先端的な仕組みをしっかりインストールするとともに、世界に発信していくことが使命であると言えよう。半年の間に先端的なアイデアを提示し、次の社会に求められる仕組みを講じていくことが重要である。

例えば当社からは下記のようなアイデアを挙げる。
Reduce:いらないものはつくらない(リース、レンタルの利用)
Reuse:パビリオンなどの資材を再利用する
Recycle:循環の仕組みを徹底する
Design:ワンウェイ容器やごみ箱など、当たり前にあるものがないシーンを体感し、逆に困ることで、サステナブルな仕組みを体験する(催事など)
Culture:金継ぎ、かやぶき屋根、接ぎ木など、日本の文化的価値の高い作品を発信

これらの高い水準の取り組みを会場内外で打ち出せるような準備をしていくことこそが、日本で開催する万博の成否を握ると言っても過言ではない。

最後に、ドバイと違い日本は万博自体が非サステナブルな取り組みと言われている。ドバイ万博では跡地利用ができるが、大阪・関西万博では、現在さまざまな議論が進んでいるもののあくまで土地は元のさら地に戻すというのが前提になっているためである。

半年限定のイベントをいかにサステナブルに進めていくか、知恵の出しどころである。だからこそ、それをプラスに転換するような、会場外の地域での「高水準のサステナブルな取り組み」「それによる市民の行動定着」を実現していきたい。当社もそこに向けた取り組みを進めていく。

※1:Gulf Business “Dubai Can: Free drinking water to be made available across city”(2022年2月15日)
https://gulfbusiness.com/dubai-can-free-drinking-water-to-be-made-available-across-city/(閲覧日:2022年3月6日)

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