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内外経済見通し

ポストコロナの世界・日本経済の展望|2023年11月

不確実性が高まる世界、デフレ脱却の重要局面にある日本

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2023.11.16

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、11月半ばまでの世界経済・政治の状況、および日本の2023年7-9月期GDP速報の公表を踏まえ、世界・日本経済見通しの最新版を公表します。
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世界経済

現状の世界経済は減速傾向にある。国際情勢が一段と不安定化しており、不確実性が高まっている。

先行きの世界経済は、不確実性が高い状況が続くなか、過去と比べて低い成長率にとどまると見込む。米国経済は、既往の金融引き締めによる需要下押し効果がタイムラグを伴って顕在化することから、24年にかけて+1%程度まで成長率が減速すると予測する。欧州経済は24年にかけて成長率がやや上向くものの、労働需給のミスマッチなどからインフレ圧力が強く、+1%を下回る成長率が続くとみる。中国経済は、不動産市場の調整と雇用・所得の回復の鈍さを背景に、景気刺激策を加味しても4%台半ばの成長にとどまるだろう。今後の世界経済の注目点は次の2つである。

①中国経済の成長力

中国経済は構造的な成長制約に直面している。具体的には、輸出や不動産投資への依存度が高い従来の成長モデルは、賃金上昇に起因する輸出競争力の低下や債務の積み上がりなどによって持続困難になっている。また、今後期待されるイノベーションを重視する成長モデルへの転換に向けても課題は存在する。米欧の規制強化・デリスキングの動きもあり、貿易・直接投資を通じて海外の技術を取り入れにくくなっているほか、習近平主席の一強体制の強まりが国内のビジネス環境を悪化させている。こうした中国経済を取り巻く環境変化は、各国・地域の中国向け輸出の悪化といった需要面や、規制強化によって中国の部品調達が制約されることによる生産性の悪化といった供給面を通じて、世界経済を抑制するだろう。

②米欧の物価と金融政策の行方

米欧のインフレ率は低下傾向にあるが、インフレ率が2%にまで落ち着くのは25年以降とみる。米国では、FRB(連邦準備制度理事会)がインフレ抑制に向けて当面は5%台の政策金利を維持し、24年後半に利下げに転じると見込む。欧州では、米国以上にインフレ圧力が強く、ECB(欧州中央銀行)の利下げも24年後半となるだろう。引き締め的な金融環境の長期化により、米欧経済は中長期的な実力とされる潜在成長率を下回ると予想する。こうした米欧経済の低成長は輸出の停滞を通じて世界経済を抑制するだろう。
世界経済の下振れリスクは高まっている。理由は2つある。第一は、地政学リスクの顕在化である。イスラエル・ハマス紛争が中東産油国を巻き込む事態に発展すれば、原油価格が高騰しかねない。原油供給に支障が生じた場合には、中東諸国からの原油調達が多いアジア諸国を中心にエネルギー制約が経済の強い下押し要因となろう。また、台湾、インド、米国など24年に相次ぐ主要国・地域の選挙結果次第では、先行きの不確実性の高まりや外交政策変更などが国際政治経済に影響を及ぼす。第二に、不動産市況の悪化に起因する不良債権の増加である。米国は商業用、中国は住宅用で販売・契約が落ち込んでいる。不動産向け融資が不良債権化すれば、銀行の貸出姿勢が慎重化しかねない。金融システムの不安定化に波及すれば、経済活動を一段と抑制するだろう。

日本経済

堂本健太 菊池紘平
日本経済は、物価高や海外経済減速などの下押し要因から回復に一服感がみられる。先行きは、内需主導の成長経路に復すると予測する。個人消費は、24年春闘で高めの賃上げが続くなか、労働者の賃金予想も上向くことで、緩やかに持ち直すだろう。設備投資は、デジタル化・サプライチェーン強靱化・人手不足対応など構造的な課題解決に向け、拡大傾向が続く見通しである。輸出は、財輸出については海外経済減速から停滞が見込まれるものの、インバウンド需要などサービス輸出が拡大し、全体では増勢が続くとみる。消費者物価は、賃金上昇がサービス価格の上昇に波及し、24年度にかけて+2%以上の伸びを見込む。日本銀行は24年春ごろまでにマイナス金利の解除およびイールドカーブ・コントロールの撤廃など金融政策の正常化に着手するだろう。実質GDPは、23年度は前年比+1.6%と、23年7-9月期実績の下振れを踏まえ、前回9月時点(同+1.9%)から下方修正する。24年度は経済対策(23年11月策定)の効果を織り込み、同+1.1%(前回同+1.0%)へ上方修正する。海外経済の不確実性が高まるなか、内需主導の成長の成否がデフレ脱却の実現を左右する重要な局面にある。

米国経済

米国経済は、金融引き締めのなかでも底堅い雇用・所得環境に支えられ、堅調に推移している。先行きは、既往の利上げ効果の顕在化やコロナ禍に実施された財政支援による需要下支え効果の剝落が見込まれ、成長減速を見込む。人手不足による解雇抑制や脱炭素・経済安全保障関連投資などが成長を下支えするものの、潜在成長率(1%台後半)を下回る成長率が続くだろう。FRBは、当面は5%台の政策金利を維持し、利下げに転じるのは、インフレ抑制の目途が立つ24年後半になると予想する。実質GDPは、23年は前年比+2.4%と、23年7-9月期実績値の上振れを踏まえ、前回8月時点(同+1.8%)から上方修正する。24年は、成長減速局面の後ずれを踏まえ、同+1.2%と前回(同+1.0%)から上方修正する。24年11月予定の大統領選挙は、民主党・バイデン大統領、共和党・トランプ氏の接戦が予想され、混迷を極めている。第2次トランプ政権が成立した場合、脱炭素政策の後退のほか、米国第一主義の回帰による国際情勢のさらなる不安定化が予想される。

欧州経済

ユーロ圏経済は、物価高と金融引き締めで内需が弱く、停滞が続いている。先行きは、実質賃金のプラス転換による消費の持ち直しと脱炭素などに向けた財政支援を背景に、経済活動は緩やかに持ち直すとみるが、潜在成長率(1%台前半)を下回ると予想する。ECBの金融政策は、根強いインフレ圧力を背景に、当面は現在の金利水準を維持し、利下げ時期は24年後半を見込む。実質GDPは、23年は前年比+0.5%と前回8月時点から変更なし、24年は引き締め的な金融環境の長期化などを背景に同+0.8%(前回同+1.1%)へ下方修正する。脱炭素の加速に向け、当面は中国依存が避けられず、過度な対中デリスキングは回避するとみる。

中国経済

中国経済は、おおむね政府目標(前年比+5%前後)並みの成長率を維持している。先行きは、都市への人口流入ペース上昇によって消費の底上げは期待できるものの、不動産市場の調整が抑制要因となるほか、23年秋に実行した経済対策の効果が24年には一巡することから、24年にかけて緩やかな成長減速を見込む。実質GDPは、23年は前年比+5.3%と、経済対策による成長押し上げを織り込み、前回8月時点(同+5.1%)から上方修正する。24年は経済対策による成長押し上げ効果の剝落を想定し、同+4.6%(前回同+4.8%)へ下方修正する。30年代半ばまでのGDP倍増という中長期目標の達成に黄信号がともっている。

ASEAN経済

ASEAN5経済は、堅調な内需に支えられ着実に成長している。先行きは、コロナ危機で落ち込んだインバウンド需要の回復継続や良好な雇用・所得環境に支えられた内需拡大を背景に、成長率の持ち直し継続が見込まれる。実質GDPは、23年は前年比+5.0%、24年は同+5.0%と予測する(前回8月時点から変更なし)。

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