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内外経済見通し

世界・日本経済の展望|2024年5月

米国の政治経済に左右される世界、賃上げ起点の好循環に向けて岐路に立つ日本

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2024.5.17

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、5月半ばまでの世界経済・政治の状況や日本の2024年1-3月期GDP速報の公表を踏まえ、世界・日本経済見通しの最新版を公表します。
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世界経済

現状の世界経済は大幅な減速を回避し、緩やかながらも成長軌道を確保している。

先行きの世界経済は、24年から25年にかけて底堅い成長が続くと見込む。米国経済は、ハイペースでの移民増や産業政策を追い風とする堅調な設備投資を背景に、既往の金融引き締めによる需要抑制が顕在化するなかでも2%前後の高成長が続くと予測する。欧州経済は、引き締め的な金融環境が継続するが、実質賃金の増加に伴う消費の持ち直しにより、25年は1%台まで回復するだろう。中国経済は、24年は不動産調整長期化の下押しを財政支出拡大で相殺し、政府目標並み(5%前後)の成長となるが、25年は4%台半ばまで低下するだろう。今後の世界経済の注目点は次の3つである。

①米国経済の上振れ

米国経済は高成長が続き、物価上昇圧力が強いことから高金利・ドル高の状況が継続する可能性が高い。米国経済の高成長は米国向け輸出増の経路で各国経済にプラスに働くが、高金利・ドル高の影響は国によって異なる。中国やユーロ圏など貿易黒字国は、自国通貨建てでみた輸出金額増が輸入金額増を上回り、貿易黒字が拡大する可能性が高い。一方、インドや日本など貿易赤字国は、通貨安による輸入金額増が大きく、貿易収支の大幅な改善は見込み難い。

②米国大統領選挙の行方

「バイデン政権×ねじれ議会」をメインシナリオと想定しているが、選挙の結果次第では大きな政策変更が予想される。「トランプ政権×上下院共和党多数」の場合には中国に60%超、その他の国に一律10%の関税措置と移民規制強化が実行される可能性がある。輸入物価高や労働供給減少で再び物価上昇が加速することで、米国経済が下押しされ、各国の米国向け輸出に悪影響が出るだろう。「トランプ政権×ねじれ議会」の場合は一律10%の関税措置は実行されないとみるが、対中追加関税の影響で世界経済が下押しされることは変わらない。

③中国経済の成長の質

中国経済減速の世界経済への影響は、中国経済の減速ペースに加え、中国経済が民間需要主導による自律的な成長へ転換できるかに左右される。民間需要主導による成長は、公的需要主導の成長に比べて他国経済への波及効果が大きい。中国経済が民間需要主導の成長に転換できれば、中国経済減速による他国経済への悪影響が緩和されることが期待される。
上記見通しにおける下振れリスクは主に次の3点が挙げられる。第一に、米欧の物価高の再燃である。米欧での人手不足による根強い賃金上昇圧力、米国での移民の流入下振れ、欧州での過度な賃上げ要求などによって物価高が再燃すれば、高金利が長期化し、世界経済の需要が抑制される。第二に、中国経済の失速である。米中対立の激化などによって幅広い業種で業績が悪化し、不良債権が一段と増加して金融システムの不安定化に波及すれば、中国経済に強い下押し圧力がかかる。世界経済にも、中国向け輸出の減少や株価下落などを通じて悪影響が及ぶだろう。第三に、中東情勢のさらなる悪化である。イスラエル・ハマス紛争やイスラエルとイランの対立が中東産油国を巻き込む事態に発展すれば、原油が高騰し、物価高の再燃リスクがさらに高まるだけでなく、経済の先行きに対する不透明感が強まり、企業の設備投資姿勢が慎重化するだろう。

日本経済

日本経済は、一部自動車メーカーの生産・出荷停止の影響などからマイナス成長に転じ、景気は踊り場と判断される。ただし生産・出荷は段階的に再開されており、先行きは内需主導の成長軌道に復すると予測する。24年春闘における賃上げ率上昇により家計の所得環境は改善し、個人消費は持ち直しに転じるとみる。企業の設備投資は、良好な収益環境や期待成長率の高まりを背景に、拡大傾向が続くだろう。人手不足への対応もあり、デジタル化・省人化投資が見込まれるほか、半導体や脱炭素に関する政府支援も投資の呼び水となる。輸出は、インバウンド需要の拡大や半導体サイクルの好転などから増勢を維持すると想定する。実質GDP成長率は、24年度前年比+0.8%、25年度同+0.8%と予測する(ともに前回3月時点から変更なし)。この間、消費者物価の伸び率は、24年度前年比+2.8%、25年度同+2.0%と物価安定目標+2%程度に収れんするとみており、日本銀行は24年10月と25年前半に0.25%ポイントずつ計0.5%ポイントの追加利上げを実施するだろう。為替レートは、対ドルで24年度末140円台半ば、25年度末130円台半ばと日米金利差の縮小を反映して円安が是正されると想定する。

米国経済

米国経済は、長引く金融引き締めのなかでも、コロナ禍の財政支援などによる家計貯蓄が消費の原資となり、堅調に推移している。先行き、成長率は2%前後の高水準を維持するとみる。家計への財政支援策および資産効果の剝落は、段階的に成長を抑制するものの、ハイペースでの移民増や産業政策による大規模な財政出動が成長を支える。堅調な経済環境下、インフレ抑制には時間を要することから、FRBが利下げに転じる時期は、24年末となるだろう。24年の実質GDPは前年比+2.5%(前回2月時点同+2.1%)、25年は同+1.9%(前回同+1.7%)と、24-25年の移民増加ペースの上振れを映じ、上方修正する。なお、24年11月の米大統領選でトランプ政権が成立した場合、高関税措置により、25年の成長率はメインシナリオ比で0.5%ポイント程度下振れると予想する。仮に所得・法人減税が実施されるとしても、景気浮揚効果の発現は主に26年以降となる見込みである。

欧州経済

ユーロ圏経済には、持ち直しの兆しがみられる。先行きは実質賃金の増加により消費は緩やかに持ち直すとみる。ただし、24年はECBの利下げ転換後も引き締め的な金融環境が継続し、経済活動を抑制するほか、ユーロ圏経済の約3割を占めるドイツの停滞継続から低成長を見込む。本格的な回復は25年以降となるだろう。ECBの金融政策は、24年6月に利下げに転じるとみるが、インフレ再燃への警戒から利下げペースは緩やかなものになるとみる。実質GDPは、24年は前年比+0.6%(前回2月時点から変更なし)、25年は同+1.3%(前回2月時点から変更なし)と予測する。24年6月の欧州議会選挙は、親EU派の議会構成が維持される見込みであり、現行の脱炭素と経済成長を両立する政策路線は継続するだろう。

中国経済

中国経済は、不動産低迷の下押しを景気刺激策で補い、24年の政府目標、前年比+5%前後並みの成長率を確保している。先行きは、緩慢な雇用回復のもと不動産需要や消費の急回復は見込み難いものの、成長目標達成に向けた財政支出拡大、世界の脱炭素関連需要、財需要回帰による輸出回復が成長を下支えすると見込む。24年1-3月期の成長上振れを反映し、24年実質GDP成長率は前年比+4.8%(前回2月時点同+4.6%)へ上方修正する。25年は同+4.5%と予想する(前回2月時点から変更なし)。

ASEAN経済

ASEAN5経済は、輸出回復度合いによって成長の勢いに差はみられるものの、財政支出にも支えられ内需主導でコロナ危機前の成長ペース(前年比+5%程度)を維持している。ASEANが注力しているEVエコシステム構築の取り組みは、ガソリン車生産に強みのあるタイなどの輸出抑制が先行するものの、域内生産拡充を通じて経済成長の安定基盤となる。実質GDPは、24年は同+5.0%、25年も同+5.0%と予想する(前回2月時点から変更なし)。

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