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カーボンニュートラル時代の原子力エネルギー・サステナビリティ・食農

福島環境再生

最終処分に向けた現況と課題

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2024.3.21

社会インフラ事業本部塚田耕一

カーボンニュートラル時代の原子力
2011年3月の福島原発事故以降、中間貯蔵施設へ搬入された除去土壌等の最終処分が、福島の環境再生にとって重要なテーマの一つとなっている。その解決に向けては、物量面での課題のほか、さまざまなハードルが横たわる。このコラムでは、除去土壌等の減容・再生利用に関する技術開発の状況を概説し、最終処分方式の具体化に向けてやるべきこと、そして残された課題について考えたい。

除染により生じた、膨大な物量の除去土壌等

2024年3月、東日本大震災および福島第一原子力発電所事故の発生から13年を迎えた。事故当時、福島県内外の周辺環境中に放射性物質が放出されたが、2012年に国や市町村による面的除染が行われ、放射性セシウムを含む土壌の除去などが開始された。

その後の2018年3月には帰還困難区域を除いたすべての市町村で除染が完了し、2023年11月には福島県内の特定復興再生拠点区域に指定されていた区域の除染が終わりを迎えた。

ただし、現在も福島県双葉町など7市町村では帰還困難区域が残存しており、2023年12月時点では309㎢、県の面積の約2.2%※1で避難指示が継続している。政府は2020年代にかけて、帰還困難区域のうち「特定帰還居住区域」とよばれる区域の除染を行う方針である。同区域は特定復興再生拠点区域外に住んでいた方々を対象として、帰還とその後の生活再建を目指す区域と位置付けられている。現在でも避難生活を余儀なくされている住民の方々は多く、その対策は先延ばしにできない社会課題である。

除染により生じた除去土壌等の大部分は、中間貯蔵施設および仮設焼却施設などへ輸送済みであり、県内の仮置場のうち95%程度※2が解消されている。中間貯蔵施設へ搬入された物量は、2024年1月末時点で1,376万㎥※3に及び、これは容積にして東京ドーム約11個分に相当する。除去土壌等は、中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を行うことになっているが、処分地を選定する困難さなどの諸問題を解決するためには、減容化や再生利用による物量削減が求められる。

2024年度中に減容・再生利用技術開発にめど

環境省は、2016年に取りまとめた「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略※4」および「工程表※5」に基づき、減容・再生利用に関する技術開発を推進している。土壌の分級処理技術、焼却灰(飛灰)の洗浄処理技術などのさまざまな技術開発が進展しており、工程上、2024年度中には基盤技術の開発を一通り完了する予定としている。その後、最終処分の実施に向けてより具体的な工程を示したうえで、最終処分方式の具体化や最終処分地に係る調査検討・調整が開始される見込みである。

表1に減容・再生利用に関する技術開発の実施状況を示す。
表1 減容・再生利用に関する技術開発の実施状況
減容・再生利用に関する技術開発の実施状況
出所:公表資料を基に三菱総合研究所作成

最終処分方式の具体化に向けて

今後の最終処分方式の具体化に向けて必要なことの第1は、これまでの技術開発・実証試験の成果を踏まえて物質収支やコスト評価の見直しに着手することである。2018年に環境省が実施した試算によれば、熱処理に加えて洗浄処理を行った場合の最終処分量は3.4万㎥になると推計※15されている。前述の減容・再生利用に関する技術開発の結果として、より高い減容化率を達成できる可能性も残されており、試算の前提条件を見直すことによってさらなる処分量の低減が見込まれる。

図1に環境省が想定する減容処理ケース(異物除去・熱処理に加えて、分級処理や飛灰洗浄処理などを実施したケース)での物質収支の詳細を示す。
図1 環境省が想定する減容処理ケースにおける物質収支の詳細
環境省が想定する減容処理ケースにおける物質収支の詳細
出所:環境省「減容・再生利用技術開発戦略進捗状況について」(2018年12月17日)
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_181217_04.pdf(閲覧日:2024年3月8日)
評価結果を見直した後、最終処分方式の決定を行うためには、最終処分量やコストを考慮するだけでなく、処理・処分に要する期間、安全性、社会受容性、環境負荷などについても考慮しなければならない。複数の最終処分シナリオを立案したうえで、これらの評価指標を用いて妥当性・実現性について評価が行われることが今後の方針として想定されるが、特に社会受容性は重要なファクターと考えられる。
 
最後にこれまでの議論を踏まえて、最終処分の実現にあたり残されている主要な課題を列記する。政府は2045年までに福島県外での最終処分を完了する方針を示しているが、その達成に向けては次の課題について早期解決の道筋を探る必要がある。
 
①最終処分地選定
最終処分地の選定にあたっては、地盤の安定性などの特性を考慮する必要があることに加えて、地域住民の理解を得なければならないことが大きな課題である。いわゆるNIMBY(“Not In My Backyard” わが家の裏庭には置かないで、の略語)問題の解決である。
 
②費用
経済産業省は2023年12月に除染・中間貯蔵に要する費用を6.2兆円※16と試算しているが、これに含まれない最終処分に掛かる多額の費用を誰がどのように負担するかは現状不明確なままである。
 
③再生利用
上述の最終処分量は、放射能濃度が基準値(8,000Bq/kg)以下の土壌・スラグなどを土木工事などへ再生利用できることが前提であるが、科学的安全性が実証された、あるいはされつつあるにも関わらず再生利用は進展しておらず、円滑な処分に向けては情報発信・理解醸成の施策が必要不可欠である。

※1:ふくしま復興情報ポータルサイト「特定復興再生拠点区域・特定帰還居住区域とは」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kyoten-kuiki.html(閲覧日:2024年3月8日)

※2:ふくしま復興情報ポータルサイト「除去土壌等の保管状況」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/jyokyodojyotou.html(閲覧日:2024年3月8日)

※3:中間貯蔵施設情報サイト「除去土壌等の輸送」
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/transportation/index.html(閲覧日:2024年3月8日)

※4:環境省「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略」(2016年4月)
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/investigative_commission_text.pdf(閲覧日:2024年3月8日)

※5:環境省「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略 工程表」
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/investigative_commission_process_2003.pdf(閲覧日:2024年3月8日)

※6:環境省環境再生・資源循環局「分級処理技術の評価等について」(2023年2月28日)
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/volume_reduction_technology_230228_02-01.pdf(閲覧日:2024年3月8日)

※7:環境省環境再生・資源循環局「熱処理技術の評価等について」(2023年2月28日)
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/volume_reduction_technology_230228_02-02.pdf(閲覧日:2024年3月8日)

※8:環境省環境再生・資源循環局「安定化処理の評価等について」(2023年2月28日)
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/volume_reduction_technology_230228_02-03.pdf(閲覧日:2024年3月8日)

※9:環境省環境再生・資源循環局「飛灰洗浄・吸着・安定化処理技術実証事業の実施状況」(2023年9月27日)
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/volume_reduction_technology_230927_03-01.pdf(閲覧日:2024年3月8日)

※10:有馬謙一ほか(2020)「福島第一原発事故由来の放射性セシウムによる汚染物の処理・処分方法の総合的比較」環境放射能除染学会誌Vol.8, No.3, 147-159ページ
http://khjosen.org/journal/FullText/Vol8/V8N3-P147-159_Arima_K-full.pdf(閲覧日:2024年3月8日)

※11:環境省環境再生・資源循環局「化学処理の評価等について」(2023年9月27日)
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/volume_reduction_technology_230927_04.pdf(閲覧日:2024年3月8日)

※12:環境省「除去土壌再生利用実証事業について」
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/investigative_commission_wg_09_text.pdf(閲覧日:2024年3月8日)

※13:環境省環境再生・資源循環局(2023年9月5日)「飯館村長泥地区の環境再生事業の実施状況」
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/wg_230905_01-03.pdf(閲覧日:2024年3月8日)

※14:環境省環境再生・資源循環局(2024年1月19日)「福島県(中間貯蔵施設)内での道路盛土実証事業の実施状況」
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/wg_240119_02-02.pdf(閲覧日:2024年3月8日)

※15:環境省「減容・再生利用技術開発戦略進捗状況について」(2018年12月17日)
http://josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/effort/investigative_commission/pdf/proceedings_181217_04.pdf(閲覧日:2024年3月8日)

※16:経済産業省「東京電力の賠償費用等の見通しと交付国債の発行限度額の見直しについて」(2023年12月)
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/kinkyu/pdf/2023/r20231222baisyoutou.jissi.sankousiryou.pdf(閲覧日:2024年3月8日)

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