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動き出した国内蓄電池ビジネス 第2回:需要併設蓄電池ビジネスの展望

8カ年の実証を経た現状と事業検討のポイント

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2024.6.10

エネルギー・サステナビリティ事業本部湯浅友幸

環境・エネルギートピックス
家庭や業務・産業施設において電気料金の削減や災害対策のために設置された蓄電池である「需要併設蓄電池」。現在、この技術を電力系統の安定化に併用する取り組みに期待が高まっている。2023年度末に電力市場への取引参画に向けて国が推進していた8カ年の技術実証が終結しており、今後は実ビジネスに向けた取り組みの具体化が求められる。

そこで本コラムでは、当社が需要併設蓄電池に係る実証やビジネス検討を支援してきた知見を基に、市場環境の展望や事業検討のポイントについて紹介したい。

需要併設蓄電池、実証8カ年の成果

再生可能エネルギー電源普及時の電力システムの安定的な運用のため、第1回で解説した「系統用蓄電池」と並んで、活用が期待されているのが「需要併設蓄電池」である。需要併設蓄電池とは、家庭や業務・産業施設など電力需要家の施設に設置された蓄電池を指す。かつては、夜間や休日などの安価な電力や太陽光発電の余剰電力を充電し、他の時間帯に放電することで電気料金の削減を図ったり、災害時の緊急電源として活用したりするのが主な用途だった。しかし、需要併設蓄電池が電力市場における各種取引に参画できるようになれば、電力の需給バランス調整に貢献し、効率的な電力供給の実現につながる。脱炭素社会に向けた再エネ大量導入を実現する中で、出力変動の調整や余剰電力の活用にも貢献すると期待できる。

このため、「需要併設蓄電池」の電力市場での活用可能性が長く検討されてきた。この取り組みに関する技術や制度、ビジネス面の検証のために、2016年度には「バーチャルパワープラント構築実証事業(以下、VPP実証)」がスタート。その後継として2021年度からは「分散型エネルギーリソースの更なる活用に向けた実証事業(以下、DER活用実証)」が実施された※1。これらの実証では計8年間にわたって毎年数十億円の補助金が交付され、ピーク時は100社前後の事業者が参画した。
図1 VPP実証/DER活用実証の補助交付実績と参画事業者数(直近6年度分)
VPP実証/DER活用実証の補助交付実績と参画事業者数(直近6年度分)
出所:一般社団法人環境共創イニシアチブの公開データ/内訳の存在する直近6年度分の情報を基に三菱総合研究所作成
実証を通じて得られた主な成果は以下の3点である。
  • 電気料金削減などの既存用途と電力市場での用途を両立可能な需要家において、リソース(蓄電池などの設備)を高い精度で制御できれば、電力市場の参画要件を十分満たせると明らかにしたこと
  • 制度上の課題を取りまとめ、国による制度見直しの議論が加速したこと
  • 補助金交付を通じて、蓄電池を中心に今後の電力市場取引での活用ポテンシャルのあるリソースの導入が拡大したこと
制御精度のさらなる向上の必要性や、後述の制度課題の解消といった課題点は残るものの、需要併設蓄電池を電力市場で活用する道筋は見えつつある。実証フェーズの終結に伴い、今後は実ビジネスの取り組み具体化が求められる。

実ビジネスの加速に向けた国の取り組みと課題

需要併設蓄電池の電力市場参画については、これまで事業者の動きが鈍かったものの、2026年度を契機に活性化が見込まれている。これは、VPP実証やDER活用実証で主眼が置かれた「需給調整市場※2」の制度見直しによるものである。「需給調整市場」とは、送配電事業者が瞬時の電力需給バランスをとるために、電源を有する事業者からバランス調整機能(調整力)を調達する市場である。これまで特に市場参画の障壁となった以下の2つの論点について、現在制度見直しの議論が進められている。

①制御量評価の柔軟化

需給調整市場に参画するには、送配電事業者からの指令に沿って需要併設蓄電池を正確に充放電制御することが求められる。しかも現状では、蓄電池の制御量の評価にあたって、設置場所の電力需要の変動も加味しなくてはならない。つまり指令に正確に対応するには、充放電の制御と需要変動の予測を組み合わせた、極めて高度な調整技術が求められる。市場参画の難易度を下げるべく、計測方法の変更により蓄電池の制御量を電力需要の変動によらず充放電量に限定して評価する検討が進んでいる。

②小規模リソースの活用

過去の実証では、家庭用蓄電池などの小規模リソース※3を需給調整市場で活用する効果が検証された。しかし、現行制度では小規模リソースの市場参画は認められていない。仮に小規模リソースが参画した場合、数万件単位のリソース管理が必要となり、現状の市場運営ルールやシステムではこれに対応できないためである。こうした課題を解消し、小規模リソースの参画を許容すべく現在検討が進められている。
以上の制度見直しは、関連システムの改修が進捗することを前提に2026年度に適用される予定※4である。制度見直しに加え、国からの設備導入補助の継続※5も期待されている。こうした国の取り組みを受けて市場の活性化が見込まれる。

ビジネス化に向け期待されるユースケース拡張

需給調整市場への参画には前述した制度上の課題が残るものの、実証も終結した今、事業者は需要併設蓄電池の実ビジネスを段階的に具体化することが望まれる。その際、運用の難易度に応じて以下の3段階でユースケース(利用用途)を拡張することが想定される。

①電力利用の効率化(ベースの利用用途)

蓄電池を設置することで、電気料金メニューに応じた充放電の最適化と、太陽光発電の余剰電力の充放電により、電気料金の削減を図ることができる。また、災害時の緊急用電源としても利用できる。これらは個別の需要家の取り組みやエネルギー事業者のサービスとしてすでに普及が進んでいる。

②電力/供給力の取引(市場活用の第1段階※6

①の効果を維持しつつ、余力のある時間帯で蓄電池から放電した電力を市場で取引する。または、電力システムの需給逼迫時の放電により、供給安定化に貢献することで対価を得る。実際に収益をあげるには電力市場の値動きなどを考慮する必要があるが、制御量の評価が30分単位のため、高速の制御は求められず、技術的な参画の障壁は相対的に低い。

③調整力の取引(市場活用の第2段階)

需給調整市場において調整力を取引する。対応するメニューにより秒単位での高速の制御なども求められるため、②よりも難易度が高い。また、先述した制御量評価、小規模リソースに係る課題も存在する。現状は参画障壁が高いが、それに見合う対価も期待されており、制度見直し後の事業化の加速が期待される。
図2 需要併設蓄電池におけるユースケース展開の選択肢
需要併設蓄電池におけるユースケース展開の選択肢
三菱総合研究所作成

事業検討に欠かせない最適運用ロジックの構築

今後参画する事業者が需要併設蓄電池の活用メリットを最大化するには、ベースの利用用途(①)と市場活用(②③)を両立する運用計画を立てることが重要である。そのためには、設置場所の需要パターンや、併設する太陽光発電の発電パターン、電気料金メニューに加えて、市場の取引価格やルールなど複合的な要素を考慮する必要がある。これらを考慮した最適な運用ロジックを構築することが事業検討の際のポイントになる。

当社では、最適運用ロジックの提供を通じて蓄電池事業の事業性評価や実運用を支援するサービス「MERSOL※7」を提供している。MERSOLでは、独自の蓄電池運用シミュレーターによって、お客さまの運用される蓄電池の条件を細かく設定した上で、最適な設備容量と運用パターンの導出や事業性の試算を行うことができる。
図3 需要併設蓄電池の事業性評価、実運用支援に向けた三菱総合研究所の提供サービス
需要併設蓄電池の事業性評価、実運用支援に向けた三菱総合研究所の提供サービス
三菱総合研究所作成
当社は本サービスにより、蓄電池事業の事業性評価と、実運用における最適な運用計画の策定を支援している。また本サービスは、必要な供給力や調整力などを同時に取引する「同時市場※8」の導入など、将来想定される市場制度の大々的な変更も迅速に反映する予定である。こうした継続的なサービスの改良により、お客さまのニーズに対応し続けることで、今後も日本の蓄電池市場の活性化に貢献していく。

※1:両実証では需要併設蓄電池を中心に、需要施設に設置される多様な分散型エネルギーリソースを電力供給の安定化に向けて電力市場等で活用するための検証を実施した。定置用蓄電池以外のリソース設備としては、自家発電設備、EV(車載蓄電池)、空調設備の需要制御、エネファーム等が対象となった。

※2:短時間での電力需給のバランスをとる能力(調整力)を取引する市場。送配電事業者の指令に基づき、分単位や秒単位等の需給のアンバランスや変動の制御に貢献することで対価を得られる。応答速度等の要件に応じて、一次/二次①/二次②/三次①/三次②の5つのメニューに分かれている。電源を有する事業者は保有する電源の機能に応じて要件を満たすメニューへの参入が可能。

※3:「小規模リソース」とは、電圧区分で低圧と区分されるリソースを指す。

※4:経済産業省「次世代の分散型電力システムに関する検討会 中間とりまとめ」(資源エネルギー庁 2023年3月14日)に基づく。
https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/jisedai_bunsan/pdf/20230314_1.pdf(閲覧日:2024年5月22日)

※5:例えば、経済産業省「経済産業省関係令和5年度補正予算の事業概要(PR資料)」(2023年11月29日)の「家庭用蓄電池等の分散型エネルギーリソース導入支援事業」にて100億円の予算が想定されている。
https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2023/hosei/pdf/pr.pdf(閲覧日:2024年5月22日)

※6:具体的な取引スキームは対象とする蓄電池の運用主体の立場等に応じて変わる。蓄電池の余力の放電量による取引は一般的に電力量を取引する「卸電力市場」で行うことが想定される。電力システムの需給逼迫時の対応は電力の供給能力を取引する「容量市場」を介した取引が想定される。

※7:蓄電池の最適運用パターンや運用収支見込みのシミュレーション、および、実運用における最適運用計画を提供するサービス。
MERSOL(https://mersol-web.jp/)

※8:電力量と調整力を同時に取引する市場。将来の日本での導入を視野に現在経済産業省や電力広域的運営推進機関での議論が行われている。

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