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大ミスマッチ時代を乗り超える人材戦略 第5回 ミスマッチ解消に向けた人材戦略のカギを握る「FLAPサイクル」

2030年の人材マッピング

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2018.9.13

政策・経済研究センター吉村哲哉

経済・社会・技術
前回連載までに、2030年に向けた人材の需給ギャップ(第2回)、タスク起点の人材マッピングによる人材タイプ別の必要量(第3回第4回)を紹介した。また、米国と比べて日本では、職種の「ノンルーティン度」と年収との相関関係が弱いことを紹介した(第4回)。

それでは、2030年の人材ポートフォリオの最適化に向けて取り組むべきことは何か。われわれは、人材流動化の「FLAPサイクル」を早期に形成することが不可欠だと考えている。今回は、FLAPサイクルの視座について述べる。 

人材流動化のための「FLAPサイクル」とは

FLAP(飛翔)サイクルとは、当社の造語であり、
  • 知る【Find】 :自身の特性、適性のある職、職の将来性、などを知る
  • 学ぶ【Learn】 :目指す方向に向けて必要なスキルアップのために学ぶ
  • 行動する【Act】 :目指す方向に向けて行動する(異動、転職など)
  • 活躍する【Perform】 :新たなステージで活躍する
という、人材流動化を促進するための一連のサイクルを指す。

2030年に向けて、人材の大規模なミスマッチの発生が予想される中で、ミスマッチを解消し、人材の力が最大限に発揮されるようにするには、最適な人材ポートフォリオに向け、個々人が学び、行動し、適職へとシフトすることが欠かせない。

FLAPサイクルが効果的にまわることで、個人の適性や志向性と、社会が提供する就労機会が適切に調整される。例えば、「知る」というステージでは、個人が自身の適性を知り、適職を発見するとともに、その職の将来性、スキルアップに必要なことなどを把握することが重要である。その上で、個人が将来の職に向けて学び直しを進め、スキルアップ、異動や転職などの行動に取り組めば、社会全体としての人材ミスマッチは解消へと向かっていく。

しかし、現状、日本では、FLAPサイクルの4つの要素のそれぞれに課題があり、全体として機能不全に陥っている。具体的には次のような問題がある(図表5-1)。 

【Find】知る機会が不足

個人が自身の適性、職の将来性、職に必要な要件などを知り、自身のキャリアを展望できる機会が不足。現状でもハローワークや民間事業者によりある程度の支援サービスは提供されているが、米国O*NET(オーネット)(本コラム第3回で一部紹介)のような詳細かつシステマチックな情報提供がされていないため、個人が自身のキャリアアップに向けて何を学び、行動すればよいかがわからない。そもそも、個人における学び直しや行動が必要になるという危機感も希薄である。

【Learn】学ぶことが次のステップにつながらない

学習の成果が処遇、異動や転職に反映されることが少なく、学習への動機づけがなされない。国際的に見ても、日本の就業者における自己投資、企業の人材育成投資は非常に低く、学びが十分でない。

【Act】行動が進まない

異動や転職にかかるジョブ・マッチングが進んでおらず、時代の変化に応じた人材の再配置が進んでいない。勤続年数に対して累進的に増加する退職金算定制度など、転職すると不利になる制度も残されている。

【Perform】活躍の成果が見えない

どのような人材がどのように活躍しているかというデータ蓄積、分析がなされていない。最近になって一部大企業では、高い業績を上げる人材の特性分析に着手しているが、本格的に活用するにはまだ蓄積が不足している。研修など学習効果の分析も一部では始まっているが、企業が人事戦略として活用するには十分な状況ではない。
図表5-1 日本の現状——人材流動化のための「FLAPサイクル」がまわっていない
図表5-1 日本の現状——人材流動化のための「FLAPサイクル」がまわっていない
出所:三菱総合研究所
では、FLAPサイクルを形成するためには、何が必要だろうか。大きくは3つのポイントがある。

【FLAPサイクル形成のためのポイント①】自身でキャリア・デザインする個人のマインド

産業構造が急速に変化する中、企業も人材も変化を強いられている。かつては大企業であれば、雇用主が長期間にわたって従業員の職業キャリアの面倒を見ていた時代もあったが、今日では、大企業といえども長期の未来を展望することはできない時代に突入している。2016年施行の改正職業能力開発促進法では、雇用主における労働者のキャリア形成や能力開発の努力義務を規定したが、かつての大企業のように雇用主が従業員のキャリア形成を保証することまではできない。個人が自らのキャリアを自身でデザインすることが以前にも増して重要である。

しかし、日本では個人が自らのキャリアをデザインし、学び直し、行動することが諸外国に比べ遅れている。OECD調査によれば、25歳以上の人の学士課程入学者に占める割合は2.5%と、OECD平均の16.8%と比べて著しく低い。これは、社会人の学び直しが不活発な状況を反映していると考えられる(図表5-2)。個人の自己投資の水準も諸外国に比べて低い。

個人のマインド改革を促し、個人が自ら、知り、学び、行動するようにしなければ、さまざまな支援環境を整備したとしても人材流動化は進まない。第一歩として個人のマインド改革が必要である。
図表5-2 諸外国に比べて「学び直し」が不活発——学士課程入学者に占める25歳以上割合
図表5-2 諸外国に比べて「学び直し」が不活発——学士課程入学者に占める25歳以上割合
注:このデータは社会人であるかどうかを区別していないが、年齢から社会人が多いと類推。
出所:OECD Education at a Glance(諸外国、2016年)および「平成28年度学校基本統計」(日本)をもとに文部科学省が集計

【FLAPサイクル形成のためのポイント②】知る、学ぶ、行動する、活躍する、それぞれの支援環境の整備

次に、FLAPの4要素それぞれについてレベルアップさせることが重要である。官民それぞれが役割を果たしながら、日本全体としてFLAPサイクルの完成を目指すべきである。


【Find】職業情報の見える化を進めよ


先述のように、現状、個人が自らのキャリア設計をしようとしても、世の中にどのような職があり、その待遇、適性、必要スキル、将来性はどうかといった点の情報を得にくく、個人の学び直しや転職行動の阻害要因となっている。

日本よりも転職市場が発達している米国では、職業情報の提供、マッチングサービスが充実している。民間の人材関連サービス業が多数あるのみならず、官による詳細な職業情報提供がなされていることに注目すべきである。

特に、米国労働省が1998年に提供開始した職の統合データベース「O*NET」(オーネット)は、ウェブサイト上で約1,000種の職種の詳細なガイド情報を提供しており、求職者だけでなく、将来のキャリアを考える個人、人材関連サービス業者にとっても有用である。O*NETには、利用者が自身のスキルや性格を入力することで、適性のある職種を推薦してもらえる機能もある。

現在、日本政府は、米国の取り組みを参考に「日本版O-NET」を2020年度に運用開始すべく準備中であり、日本版O-NETを軸に職業情報の見える化を進めることが重要である。


【Learn】潜在的な学びの意欲を顕在化させよ


現在、日本における個人の自己投資、雇用主による人材育成投資は、かなり低い水準にあるが、潜在的には個人が人材関連サービスを利用する意向は低くない。転職や学び直しに関するサービスの利用意向について三菱総合研究所が実施したアンケート結果(2018年4月実施、全国の20~60代の男女3,000人対象)によれば、学習サービスなどの利用意向は、過去の利用経験に比しておおむね2倍程度もある(図表5-3)。このうち、新たな学習サービスとして注目されるEd Tech(エデュケーション・テクノロジー)について見ると、過去の利用経験者が約6%と少ない一方、今後利用意向がある者は約18%となっている。

Ed TechやHR Tech(ヒューマン・リソース・テクノロジー)など、最新のICTやAIなどの技術を駆使した人材関連サービスが登場している中、これらサービスの充実が期待されるとともに、個人がいかに効果的に活用するかが課題となる。 
図表5-3 転職や学び直しに関するサービスの潜在的な利用意向は高い
図表5-3 転職や学び直しに関するサービスの潜在的な利用意向は高い
注1:過去の利用経験は、転職経験者のみに尋ねた結果である。今後の利用意向は、転職意向の有無に関わらず全員を対象にした集計結果である。
注2:MOOC=Massive Open Online Courses
出所:三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif)」アンケート調査(2018年4月実施、全国の20~60代の男女3,000人対象)より作成

【Act】ジョブ・マッチング機能を高めるとともに、転職者が不利になる制度の改善を

近年、さまざまなHRテクノロジーが進展している。例えば、企業側へのサービスとして、自社に適した人材の採用に向けて、社内の高業績者の分析をもとに自社に適性のある人材の要件を抽出し、採用活動の際に就職希望者に示すことで要件に応じた人材を募集するのに役立てるといった取り組みが始まっている(例:Institution for a Global Society社のサービス、アクセンチュアにおける自社活用など)。一方、転職希望者などの個人に対するサービスの整備は相対的に遅れている。

今後は、企業向け、個人向けの双方において、異動や転職にかかるジョブ・マッチング機能のさらなる充実が求められる。

また、社会制度として、退職金算定など転職すると不利になる制度も残されている点も課題である。近年、勤続年数とともに累進的に増えるという退職金算定の仕組みを改定する企業も増えているが、そうした取り組みが普及することとあわせて、退職金への過度の優遇を改め、転職への阻害要因を減らしていくことも期待される。


【Perform】個人の力を引き出すマネジメント、ポテンシャルある人材を惹きつける待遇改善を

人材の学びや行動は、最終的には職場で活躍し、業績を上げることに結びついていなければならない。

個人が能力を発揮するには、業務ごとにそれらを効果的に遂行できる資質のある個人を雇用主が選ぶとともに、個人の能力が最大限に発揮されるようなマネジメント、さまざまな能力を持つ個人に最適な組み合わせることによるチーム編成が求められる。

特に、業務の高度化をけん引することが期待される「ノンルーティン度」の高い人材については、その職に向けて人材が学び、行動するためのインセンティブを十分付与する必要がある。しかし、日本では、職の「ノンルーティン度」と年収との関係が相対的に弱く(第4回連載の図表4-5参照)、ノンルーティン度の高い人材を惹きつける待遇面での魅力が欠けている。今後、日本の人材市場においても国際的な賃金相場の影響は強くなると予想され、ノンルーティン度の高い職にはより高い待遇を提供することが不可欠になるだろう。 

【FLAPサイクル形成のためのポイント】③人材の業績データを軸とした効果検証

FLAPサイクルを全体として機能させるためには、FLAPのそれぞれの段階においてデータを収集、分析し、その結果をもとに改善措置を講じ、全体としてレベルアップを図る必要がある。

特に重要なのは、人材の「活躍」にかかるデータ蓄積である。個人の「活躍」の状況を測定できれば、個人の属性(学習や業務の経験、能力など)、チーム編成、人材育成経歴などのさまざまな要素と組み合わせた効果検証が可能となり、人事戦略への活用が大きく進むだろう。図表5-4のように、人材の業績データを軸として、適性のある人材の発見、学習支援、チーム編成など、さまざまな展開が考えられる。

しかし、現状、一部の大企業では高業績者のデータをもとに非認知能力の面からの適性、履歴との関係性の分析などに着手しているが、人材戦略に十分活用する段階ではない。また、「活躍」をどのような指標によって把握するのかという点についても課題もある。人事評価の評点については、上司との相性の問題があるほか、目標管理型の人事評価の場合には目標対実績比をもって個人の「活躍」度の指標にできるのかといった問題もある。
図表5-4 人材の業績データを軸とした効果検証、戦略的対応のイメージ
図表5-4 人材の業績データを軸とした効果検証、戦略的対応のイメージ
出所:三菱総合研究所
このような個人の業績と他の因子との関係を総合的に分析しようとすれば、大企業といえども1社だけでは限界がある。サンプル数が限られる上に、企業特殊的な要因もあることから正確な分析が困難である。複数の企業が人材データを匿名化した上で何らかの機関に集約し、企業横断的に人材データを分析・活用するような仕組みの構築を主導する企業が現れることが期待される。

第5回おわりに

理想的な「FLAPサイクル」を形成するには、さまざまな取り組みを同時並行で進めていく必要がある。2020年度に運用開始予定の「日本版O-NET」の整備に期待するともに、さまざまなEd TechやHR Techの発展も期待されるところである。目標とするFLAPサイクルのイメージを図表5-5に示す。

次回以降はFLAPサイクル形成のための条件について述べる。第6回では職の情報の見える化と活用を、第7回では学び直しをテーマにする。
図表5-5 【目標】「FLAPサイクル」による人材流動化エコシステム
図表5-5 【目標】「FLAPサイクル」による人材流動化エコシステム
出所:三菱総合研究所

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