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大ミスマッチ時代を乗り超える人材戦略 第8回 学び続ける力が弱い日本人、リカレント教育への期待

2030年の人材マッピング

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2018.10.24

政策・経済研究センター木根原良樹

人材
2030年に向け日本としても、世界の潮流に適応した人材ポートフォリオを構築していくことが望まれる。そのためには、日本人の弱点である学び続ける力などの資質を育成すべく、社会人を対象とした「リカレント教育※1 」への期待が高まる※2

日本人はグローバル化・デジタル化に適応する資質が不足

OECDは、グローバルなバリューチェーンの下で就業者が価値創出していくには、読解力、数的思考力、技術的解決力のほか、管理・コミュニケーション力、そして学び続ける力が重要だとしている※3

日本の就業者は、読解力、数的思考力、技術的解決力、組織適応力に優れるが、管理・コミュニケーション力やSTEM※4力はOECDによる調査対象の28カ国中で平均以下であり、学び続ける力は最低レベルである(図表8-1)。また日本の就業者は、仕事の中でICT、STEM、管理、コミュニケーション、マーケティング、会計の各タスクを実行する頻度が少ない、とOECDは指摘している。

日本人が、読解力、数的思考力、技術的解決力といったスキルに優れ、組織適応力といった資質が高いことは、従来の学校教育の成果といえる。しかし、日本人がグローバル化・デジタル化に適応していくには、管理・コミュニケーション力や学び続ける力といった資質が重要である。近年、従来の学校教育や企業内OJTでは身につきにくいことから、これらを醸成するリカレント教育が注目されている(図表8-2)。
図表8-1 OECDによる就業者スキル評価の国別比較
図表8-1 OECDによる就業者スキル評価の国別比較
注:OECDが加盟28カ国について項目ごとに評点付け。その偏差値を計算しグラフ化した。
出所:OECD, “Skills Outlook 2017”のデータを用いて三菱総合研究所作成
図表8-2 学校教育や企業内OJT・研修では身に付きにくいスキル・資質をリカレント教育で養う
図表8-2 学校教育や企業内OJT・研修では身に付きにくいスキル・資質をリカレント教育で養う
注:就業者のスキル・資質の項目はOECD, “Skills Outlook 2017”による。
出所:三菱総合研究所

米国や北欧はリカレント教育により人材を鍛えてきた

米国や北欧を中心に各国では、グローバル化・デジタル化に適応するリカレント教育を実践してきた。就業者の教育・訓練への参加率は、フィンランド80%、米国70%と高く、日本は50%と低い(図表8-3)。
図表8-3 25-64歳の被雇用者のうち1年以内に参加した者の割合
図表8-3 25-64歳の被雇用者のうち1年以内に参加した者の割合
注:①、②、……は28カ国中の順位
出所:OECD, “Skills Outlook 2017”のデータを用いて三菱総合研究所作成
米国では、平均勤続年数は4.2年(2016年)と短い※5。多くの場合、上位のポストにつくには転職が前提となる。ポストごとにジョブ・ディスクリプション(職務記述書)があり、専門の教育を受講・修了することが必要とされる。そのため、MBAに代表される修士課程のほかホテル経営学や映画学など多種多様な職種向けに大学教育が提供されているが、単位取得は難しく費用も高額である※6。一方で、州や地域が運営するコミュニティカレッジも人材育成において重要な役割を果たしている。コミュニティカレッジは全米で1,000校ほどあり、約500万人もの社会人や高校卒業者が学術的な教育や職業能力開発を受けている※7。このように米国では、社会人が新しいキャリアに挑戦するため、リカレント教育に自己投資し、その投資に見合ったキャリアを獲得するサイクルが形成されているのである。

フィンランドは人口約500万人の小国であるが、近年、イノベーション分野で活躍する人材を輩出し注目されている。他の欧州諸国と同様に、義務教育の後、普通科高校・大学か職業専門学校を選択するデュアルシステムを採用しており、公費による職業訓練制度が充実している※8。また、大学の学費も無料であり、職業専門学校を卒業した社会人が大学に再入学することも多く、STEM教育やデザイン思考といった先端カリキュラムをいち早く導入してきた※9。このように、フィンランドでは公的支出を前提としつつ※10、実践的および先端的で質の高いリカレント教育を提供することで、公的支出に見合った人材の成長を実現するサイクルが形成されている。

米国は就業の自由度を重視する自己投資タイプ、北欧はデュアルシステムを前提とした公的支援タイプと、タイプは違うが教育制度や就業慣行を踏まえたリカレント教育を行い、産業や社会が必要とする人材を育成してきたのである。

日本でも高まるリカレント教育への期待

2018年6月に政府が「人づくり革命基本構想」および「未来投資戦略2018」を公表、その中でリカレント教育の量と質の拡充策を提示した。社会人受講者を2022年度までに100万人にするとの目標を掲げ、費用補助や休暇制度に加え、プログラム開発、実務家教員育成などの質の充実を図る内容である。さらにキャリアコンサルティングを受けられる仕組みの普及など教育へのモチベーションを高める施策も含まれる。当社が提案する「FLAPサイクル」を回す施策が網羅されており、その実践と効果が期待されるところである(図表8-4)。

これまでも日本では企業がOJTや社内研修により従業員を教育してきた中、なぜ今、リカレント教育が必要なのだろうか。OJTは現行事業を維持するには有効であるが、OECDが指摘するように、グローバル化・デジタル化といった事業環境の変化に適応する必要なスキル・資質の獲得には不十分である。社内研修については、ビジネスマナー講習などが多く、景気が悪いと研修費が削減されるなど、企業にとって重要なものとは言い難い。一方、米国企業は、優秀な従業員からの要望に応えるかたちで社内研修を充実させ、彼らの活躍を期待している。日本でも、リクルートやファーストリテイリングのように、幹部候補者を選抜し、充実した研修を行っている企業もあるが、まだ少数派である。リカレント教育では、社外の講師・受講生とともに学び、新しい知識を得るとともに、新鮮な刺激により学び続ける力が形成され、多様なメンバーとの協働により管理・コミュニケーション力が培われることが期待できる。
図表8-4 政府「人づくり革命基本構想」の実践による三菱総研「FLAPサイクル」の形成が期待される
図表8-4 政府「人づくり革命基本構想」の実践による三菱総研「FLAPサイクル」の形成が期待される
注:政府「人づくり革命基本構想」で示されている施策から抜粋し、三菱総研「FLAPサイクル」に配置した。
出所:政府「人づくり革命基本構想」、「未来投資戦略2018」(ともに2018年6月)を参考に三菱総合研究所作成
リカレント教育に対する現状と意向について、三菱総合研究所の生活者市場予測システム(mif)アンケートで尋ねた。リカレント教育を受けたことがある者は現状では全体の2割前後に過ぎないが、将来受講したいとする者が全ての職種で5~6割にのぼった。リカレント教育への自己負担額についても、実績は低いものの、将来の支払い意思額は増加する。職種によって違いはあるが、例えば10万円以下では将来の支払い意思は現状の3~5倍にのぼった(図表8-5)。

総じてリカレント教育に対する期待は高く、政府も網羅的な施策を用意している。その実践を進め、着実に効果をあげることができるプログラムの提供が必要である。
図表8-5 リカレント教育への参加意向は高く、相応の費用負担意思もある
図表8-5 リカレント教育への参加意向は高く、相応の費用負担意思もある
注:国内大学、海外大学、短期研修、通信教育 EdTechへの支払額(実績)及び支払い意思額(将来)を集計。
出所:三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif)」アンケート調査(2018年4月実施、回答者3,000人)より作成

第8回まとめ

グローバル化やデジタル化といった世界の潮流に人材を適応させるには、学び続ける力などの資質を身に着けることが重要となる。米国や北欧では、リカレント教育により人材を鍛え、これらの資質を育成してきた。

日本では、こうした取り組みが遅れていたが、力ようやく政府が着手し、社会人の期待も高まりつつある。着実に効果をあげることができるプログラムを提供していくことが重要である。

※1生涯にわたって教育と就労を交互に行うことを勧める教育システム。いわゆる「学び直し」。

※2明治大学小川智由商学部教授、望月利昭氏、琉球大学藤野公子客員教授、日本工業大学小田恭市教授、秋元康男氏、東京工業大学古俣升雄特任助教の各氏にインタビューへのご協力を仰ぎ、本稿とりまとめの参考にさせていただいた。

※3OECD, ”Skills Outlook 2017”(2017年5月)、原文ではLiteracy skills、Numeracy skills、Problem solving in technology-rich environments skills、ICT skills、Marketing and accounting skills、Managing and communication skills、STEM skills、Self-organisation skills、Readiness to learn。

※4Science, Technology, Engineering and Mathematics、2000年代にこれらを重視する教育が米国で始まった。

※5(独)労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2018」、日本の平均勤続年数は11.9年(2016年)。

※6米国のMBAの場合、学費総額は700万円~2000万円程度。

※7一般財団法人海外職業訓練協会HP 人材育成に関する調査研究(アメリカ合衆国編) 第3章 米国の人材養成
http://www.ovta.or.jp/info/investigation/america/pdffiles/america_chapter3.pdf(2018年7月閲覧)

※8欧州共通資格枠組み(EQF)に基づき全ての職種に適応される国家資格制度を導入。上位の国家資格を得るには高等教育や職業訓練を終了する必要がある。

※9フィンランドでは2010年に「21 世紀の教育において身に付けるべき能力」を公表、数学や技術リテラシーといったスキルとともに動機づけや自己管理、適応能力といった資質を重視した教育を実施している。

※10フィンランドでは、GDPに対して税金と社会保障費が44%を占め(2015年)、消費税は24%と高い。(全国間税会総連合会「世界の消費税(付加価値税)152カ国」(平成29年4月版))
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/finland/data.html

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