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大ミスマッチ時代を乗り超える人材戦略
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大ミスマッチ時代を乗り超える人材戦略 第7回 人材流動化のエコシステム形成に向け、HRTech企業と「日本版O-NET」はどのように連携できるか

2030年の人材マッピング

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2018.10.19

政策・経済研究センター吉村哲哉

経済・社会・研究開発
AI技術の活用により各種のHRテクノロジー(HRTech)が急速に発展している。人材の適職へのマッチングに効果を上げることも期待されている。

そこで、HRTech企業の動向を整理するとともに、日本版O-NETとの連携による人材関連データの蓄積や活用、人材マッチングの機能向上の可能性について述べる。

人材データを扱うHRTech企業の叢生、さらなる発展のための課題

近年、急速に数を増しているHRTech企業の業務は、採用、人材育成(研修)、人材アセスメントをはじめ、人事部の効率化、タレントマネジメント(従業員のスキル把握や開発など)、あるいは健康経営、労務管理に至るまで多岐にわたる。

このうち、人材流動化の「FLAPサイクル」の形成(本コラム第5回)と特に関係が深いのは、①採用支援、②人材アセスメント、③タレントマネジメントといったところである(図表7-1)。

①採用支援:AIを活用して自社に適した人材をリストアップするサービスが提供されている(例:社内の高業績人材の特徴を分析し、その特徴にマッチした人材を抽出)。

②人材アセスメント:社内の人材のコンピテンシー(高い成果を生み出す行動特性)を評価し、採用すべき人材像の明確化、個人ごとに必要な研修を提案するサービスがある。

③タレントマネジメント:例えば、社内の人材それぞれが今後進むべき道をツリー図のような形でビジュアルに描き、キャリアパスの選択肢を示すシステムが提供されている。この分野は、米国系企業が先行している。
図表7-1 人材のマッチングに関連するHR-Techサービスの事例
サービス種別 サービス事例
採用支援
  • 企業が重視するコンピテンシーと、学生のコンピテンシースコアをマッチングし、その企業で活躍する可能性の高い学生をAIが紹介。企業が学生の選考結果をフィードバックするだけで、適合率の高い人材像をAIが学習(Institution for a Global Society(略称IGS)「GROWマッチング」)
  • 社内および社外の人財の情報を一元的に管理し、人材獲得プロセスに役立てる。(ワークデイ「Workdayリクルーティング」)
人材アセスメント
  • 従業員が適性検査を受検し、既存従業員の診断結果に似たポテンシャルをもつ学生を登録学生から探すことが可能。((株)i-Plug「Offer Box プレミアム検索eF-1G」)
  • 社内の人材のコンピテンシーを相互評価し、個人や組織の特徴を明確化する。採用すべき人材像、個人ごとに必要な研修提案が可能。(Institution for a Global Society「GROWマッチング」)
タレントマネジメント
  • 社員のスキル、強みや弱みをもとに、個人の将来のキャリアパスの選択肢を可視化して示す。(コーナーストーンオンデマンドジャパン「コーナーストーン総合タレントマネジメントシステム」)

出所:HRテクノロジーコンソーシアム「HRテクノロジーサービス100選」(2017年9月)を基に三菱総合研究所が作成

HRTechサービスには大きな期待が寄せられており、今後、大きく発展する可能性が高い。ただ、次のようにいくつかの課題がある。

1)個社データだけでの分析の限界

現在、主に従業員数千人以上の大企業を対象に、その企業の人材データを分析し、対応策を提案するサービスが提供されている。しかし、例えば、新事業展開する際に必要な人材の特性抽出、社内風土改革に必要な人材像を明確化するには、既存人材のデータを分析するだけでは困難である。大企業といえども個社のデータ量では、さまざまな分析を行うのに限界がある。

2)個社間の人材データのフォーマットの不統一のため統合した分析が困難

個社を超え複数企業の人材系データを用いることができれば、より多様な分析が可能である。しかし、現状では人材データのフォーマットが各社ばらばらなため、各社データを寄せ集めるだけでは分析が難しい。個社を超えてより大量データでの分析を可能とするためには、HR関連の各種の概念定義の統一、データフォーマットの統一といった「標準化」が求められる。 参考情報であるが、米国では、O*NETを1998年に運営開始する前の数年間、用語定義、定量化の基準などについての検討を行っていた※1。日本の場合、「日本版O-NET」の運営機関が仲介役となって、HR関連の業界における標準化推進を図るといった取り組みが期待されよう。

3)転職前後の人材の活躍状況を把握しにくく転職による人材マッチングの効果検証が困難

転職は、人材の適職へのマッチングの方法の一つだが、データ分析を行うに際しては、転職の前後で情報が途切れてしまい、統合的に情報分析できない点が課題となる。
転職支援サービス企業は、企業側の求人希望、求職者の特性などの情報を有しているが、求職者が実際に前職でどのような業績を上げていたか、転職後の企業でどの程度の業績を上げているかというまとまった情報を保有していない。そのため、前職でどのような経験をし、どのように活躍した人材が転職後に活躍しているのか、といった分析ができない。もし転職前後での継続的な個人の業績データを活用できれば、一層レベルの高いマッチングが可能となるだろう。

以上をまとめると、今後の課題として、①個社を超えたより大量の人材データ収集の仕組みづくり、②転職前後での継続的な人材データ収集の仕組みづくりを挙げることができる。

HRTech企業と日本版O-NETの連携による人材データの蓄積・活用のレベルアップの可能性

日本版O-NETの整備が今後進むことを踏まえ、HRTech企業などとも連携しながら日本における人材データの蓄積と活用、それによる人材マッチング機能を向上させるための全体像を描きたい。

図表7-2に、人材データ蓄積・活用のための関係主体の連携イメージを示す。
  • 人材データ蓄積コンソーシアム【A】:人材関連シンクタンクなどが幹事役となり、データフォーマットの標準化、個人情報管理に関する論点整理を行ったうえで、多くの雇用主企業から人材データを受け取り、企業横断的な人材データのセットを構築する。
  • 人材データ提供者【B】:雇用主企業や教育機関など人材データを保有する機関は、「人材データ蓄積コンソーシアム」に匿名化した人材データを提供する。提供の対価として、分析結果やデータ利用料などを受け取り、自社の人材戦略に活用する。
  • 政府セクター【C】:「日本版O-NET」を運営する。人材データ蓄積コンソーシアムの設置を支援するとともに、職種分類の標準化等の面で連携する。
  • データ分析者【D】:人材データコンソーシアムが蓄積した情報は、HRTech企業や研究者が分析する。
  • 人材関連サービス提供者【E】:データ分析者が分析した成果を用いて、就職支援や教育カリキュラム開発などの人材関連サービスに活用する。 
図表7-2 人材データ蓄積・活用のための連携イメージ
図表7-2 人材データ蓄積・活用のための連携イメージ
出所:三菱総合研究所
人材データ蓄積コンソーシアムを設置するための第一歩としては、例えば、従業員1万人以上程度の大企業が先行して匿名化した人材データを集約し、その人材データをHRTech企業や研究者が解析し、結果を各社に還元するといった取り組みが考えられる。この領域は、人材サービス関係企業が競争する領域ではなく、業界として協調して発展させるべき領域であるため、関係各社の連携が可能だろう。一部では、すでに企業間での共同検討が試行されているが、本格的な展開はまだこれからであり、より多くの企業が関与していくことが望まれる※2。

さらにこうした取り組みを全国的に広げ、個人、教育機関、雇用主企業や人材関連サービス企業との間でデータ連携を進めていけば、個人(匿名)のキャリア全体を一気通貫でカバーすることが可能となる。例えば、受けた教育と将来のキャリアの関係、学び直しとその後のパフォーマンスの関係をひもづけることができれば、貴重な情報である。それにより人材育成機関における教育、雇用主における採用・処遇・育成等が個人の適性に即したものへと最適化され、個人のキャリア形成が一層充実したものになると期待される(図表7-3)。

その際、匿名化データの扱いのルールや個人情報の管理体制など、安心してデータ活用するための取り組みも重要である。
図表7-3 日本版O-NETを軸とした個人のキャリア形成(理想像)
図表7-3 日本版O-NETを軸とした個人のキャリア形成(理想像)
出所:三菱総合研究所

第7回おわりに

本コラム第6回と第7回では、日本版O-NETの推進の必要性と、HRTech企業との連携による職業・人材関連の情報の蓄積と活用の可能性について記した。職業・人材関連の情報は、FLAPサイクルの4要素「知る(Find)、学ぶ(Learn)、動く(Act)、活躍する(Perform)」の全てで求められる。

ただ、実際に個人が行動を起こすには、ウェブサイトで情報を得るだけでは不十分である。職業についてアドバイスを受ける機会(キャリア・コンサルタントなど)、実際に職を体験してみる機会の拡充などもあわせて必要となる。例えば、近年、関心が集まっている副業制度は、個人が新たな職に触れ、自身の可能性を認識する機会ともなろう※3。

次回は、FLAPサイクルの、「学ぶ(Learn)」の要素について、リカレント教育(学び直し)とそれによる人材シフトの可能性という面から考察する。

※1独立行政法人労働政策研究・研修機構「仕事の世界の見える化に向けて─職業情報提供サイト(日本版O-NET)の基本構想に関する研究─」2018年3月

※2例えば、2018年初に設置された(一社)ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会は、各社連携のもと、人材関連の各種の分析プロジェクトを進めようとしている。

※3例えば、企業の現役の従業員によるスポットコンサルティングのためのプラットフォームを提供している株式会社ビザスクでの動向が注目される。同社は、さまざまな業界の企業等に属するアドバイザー(主に現役社員)6万人を登録し、専門的な知見や助言を得たい企業に1時間単位で紹介している。これらアドバイザー本人においては、自身の知識を必要とする業界があることを知り、自身のキャリアプランの検討に役立つという副次的効果があるとのことである(同社インタビューによる)。

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