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大ミスマッチ時代を乗り超える人材戦略 第4回 ルーティンタスクに偏る日本の人材:国際比較から見る傾向と対策

2030年の人材マッピング

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2018.9.6

政策・経済研究センター山藤昌志

経済・社会・技術
技術革新の歩みとともに、日本の仕事は質・量ともに大幅な変化を余儀なくされる。第3回では図表3-5で示される2軸・4象限上に日本の職業別就業者数をマッピングすることで、日本の人材の8割弱がルーティン(定型的)タスクの領域に集中していることを示した。第4回では、これをベースに今後日本の人材がどのような脅威にさらされ、またどの方向に変わっていかなければならないのかを示す。

あらかじめ結論を言えば、2030年にかけて不足する専門・技術職人材の多くがノンルーティン(非定型)領域に集中しており、日本の人材ポートフォリオはこの領域に向かってシフトしていくことが望まれる。

テクノロジーによって攻め込まれるルーティン人材

第四次産業革命の技術シナリオを取り込んだ当社の長期未来予測は、2020年代前半以降、RPA(Robotic Process Automation、ソフトウエアロボットによる業務自動化)をはじめとする「特化型AI」が、事務職を中心としたルーティンタスク(第4象限)を代替していくことを想定している。

また、2020年代後半以降は、AI・IoT・ロボット技術が融合した「汎用型AI」が、自動運転や介護ロボット、料理ロボットといった特定領域において、農業、建設、運輸といったマニュアル領域のルーティンタスク(第3象限)を徐々に代替していくと見込まれる。さらに、5Gをはじめとする情報通信技術の進展が物理的な制約を取り払っていく中、コグニティブ型タスクは国境なきグローバル競争を通じて脅威にさらされる。図表4-1が示すように、テクノロジーによって3方向から攻め込まれる人材にとって、唯一のブルーオーシャンとして残るのが上方のノンルーティン(非定型な)タスクとなる。
図表4-1 テクノロジーによる人材への浸食(イメージ図)
図表4-1 テクノロジーによる人材への浸食(イメージ図)
出所:三菱総合研究所
日本の人材は、ブルーオーシャンであるノンルーティン領域への移動を着々と進めているのであろうか。前回の記事で、2015年時点の人材ポートフォリオにおけるノンルーティン領域人材のシェアが22%にとどまっていることを示した。4象限別のシェアの動きを欧米諸国と対比してみると、日本の人材を巡る厳しい状況が浮き彫りになる。図表4-2は、日・米・英の3カ国※1について4象限別シェアの時系列推移を比較したものである。ここから見て取れるのは、ノンルーティン領域に属する日本の人材シェアが米国の3分の2、英国の2分の1に過ぎず、かつその差が年を経るごとに拡大しているという現実である。特に、ノンルーティン・コグニティブ(第1象限)を見ると、米英両国で着実にシェアが増えている一方、日本でのシェアは伸び悩んでいることが分かる。ルーティンタスクの人材がノンルーティンタスクへとシフトしなければ、日本の人材の8割近くがAIやロボットとの競争にさらされることとなる。
図表4-2 人材ポートフォリオの日・米・英比較(2005~2015年)
図表4-2 人材ポートフォリオの日・米・英比較(2005~2015年)
出所:三菱総合研究所

2030年に求められる人材ポートフォリオ──求められる「職の上方シフト」

技術革新を取り込み、成長を実現させるために、人材ポートフォリオはどのように変わっていくべきなのか。ここでは、第2回で定量化した性別・年齢・産業・職業別の人材需給予測結果を2軸・4象限上に展開し、人材ポートフォリオの変化の方向性を可視化する。

あるべき人材ポートフォリオの姿を見るのに先立って、まずは過去トレンドを延長した「成り行きベース」の人材供給がなされた場合の人材ポートフォリオの状況を確認する。図表4-3は、2015年から2030年にかけての職業小分類別の就業者増減を2軸・4象限上に表示したものである。ここでは、就業者が増える職業を赤い枠線、減る職業は青い枠線で囲んでいる。バブルの大きさが増減の規模、色は職業の大分類をそれぞれ示している。増減の状況を見ると、最も増えているのが第3象限の販売・サービス業だが、最も減っているのも同じ第3象限の生産・運輸・建設職である。第1・第2象限の専門・技術職は増加しているが、その規模は限定的なものとなっている。
図表4-3 職業別の就業者増減:成り行きケース、2015→2030年
図表4-3 職業別の就業者増減:成り行きケース、2015→2030年
出所:米国O*netデータ、英国国民統計局データ、国勢調査などより三菱総合研究所推計
特筆すべきは、相対的に付加価値が低いルーティンタスクの領域において人材の移動が行われており、職の上方シフトが十分に起こっていないことだ。第3象限で増加している販売サービス業は、施設介護職員、訪問介護従事者、看護助手といった医療・介護サービス人材であり、成り行きベースでは2030年にかけて約190万人の雇用増が見込まれる。一方、同じく第3象限における生産職(農業、運転、運搬、清掃を除く)は同時期に約190万人の雇用減が見込まれ、結果として同一象限で人材の入り繰りが発生する形となっている※2。無論、今後の医療・介護サービス需要の高まりを受けて同分野の就業者数が増えること自体は自然である。しかし、ここで問題となるのは、同じルーティン領域に人材がとどまることにより、経済全体としての付加価値増加が実現できない恐れがあることだ。2015年時点での平均賃金で計ると、190万人分の生産職(平均年収415万円)の減少は約8兆円の所得減をもたらす一方、190万人分の医療・介護サービス職(平均年収330万円)の増加に伴う所得増は約6.3兆円にすぎない。

では次に、デジタル技術の取り込みに必要となる人材を確保する「ミスマッチ解消ケース」での人材ポートフォリオの変化を、図表4-4に示す。
図表4-4 職業別の就業者増減:ミスマッチ解消ケース、2015→2030年
図表4-4 職業別の就業者増減:ミスマッチ解消ケース、2015→2030年
出所:米国O*netデータ、英国国民統計局データ、国勢調査などから三菱総合研究所推計
「成り行きケース」との顕著な違いとしては、成り行きベースの就業者増減と比して、第1象限における専門・技術職の増加が目立つことが挙げられる。また、成り行きベースで示したルーティン領域での生産職と医療・介護サービス職での入り繰りは同様に見られるものの、機械化を通じた労働生産性向上を受けて、医療・介護サービス職の就業者増は抑制されている。同じく就業者増減に基づく所得増減を見ると、生産職(290万人減、平均年収415万円)では約12兆円の減少に対して医療・介護サービス職(150万人増、平均年収330万円)では約4.9兆円の増加、そしてノンルーティン領域の専門・技術職(230万人増、平均年収540万円)では約12.6兆円の所得増加が見込まれる。 ミスマッチ解消に向けて人材移動を促すという観点では、付加価値が高い職業により高い賃金が支払われていることが重要なファクターとなる。図表4-5は、日米における「ノンルーティン度(2軸マッピングにおける縦軸の数値)」と平均年収の関係を職業別にプロットしたものである。米国では職のノンルーティン度が高まるほどに平均年収が増加する傾向が表れている一方で、日本では両者の関係が不明瞭である。より高いスキルを得るための学びや、より生産性の高い職への移動を促すためには、仕事の価値に応じた賃金設定がより柔軟に行われることが求められる。
図表4-5 職業別の「ノンルーティン度」と平均年収との関係(2015年)
図表4-5 職業別の「ノンルーティン度」と平均年収との関係(2015年)
注:図表の横軸は、人材マッピングの縦軸(ルーティン⇔ノンルーティン)の数値を示している。 出所:O*NET、米国労働省労働統計局、国勢調査、賃金構造基本統計調査などから三菱総合研究所推計
なお、図表4-5の米国の図表では、平均年収が20万ドルを超える職業が存在しており、回帰の決定計数を低下させる要因となっている。平均年収が高い職業は麻酔科医(Anesthesiologists)の26.6万ドル、外科医(Surgeons)の25.2万ドルを筆頭に、その多くが医師である。日本での最高平均年収は同じく医師の1,233万円であるが、米国の水準とは2倍を超える差異がある。また、年収の高さで話題に上がる米国のCEO(最高経営責任者)については、平均年収は19.6万ドルとなっている。同じく日本の水準(会社役員の1,058万円)の2倍強であるが、中小零細企業のオーナーからグローバル企業のトップまで報酬のばらつきが極端に大きくなっている中、平均値の比較は実質的な意味を持たないものと思われる。

第4回おわりに

技術の進歩は止まらない。私たちは技術とともに進化することが必要だ。こうした分析を踏まえ第5回以降は、人材のミスマッチを解消するための処方箋について検討していく。

なお、人材マッピングの分析を終えるにあたり、ここでは分析結果の評価において留意すべきポイント2点を挙げておきたい。

第一に、今回行った職業別のマッピングがあくまで米国の職業特性データに基づくものであり、同一の職業であっても日米間で仕事の内容や求められるスキル・能力が異なる可能性があることだ。例えば、日本が世界に誇れる存在としてしばしば取り上げられる「ものづくり人材」の多くは、今回のマッピング上では第3象限(ルーティン・マニュアル領域)に位置している。仮に日本のものづくり人材が米国よりも高い創造性や柔軟性を持つ場合、日本独自の職業特性データを反映させることで、これらの人材がより上方(ノンルーティン領域側)に位置づけられる可能性は否定できない。

第二に、定量化のベースとなる米国O*NET職業分類の粒度が日本の4倍に上っており、かつより高頻度※3で更改が行われているため、日米間での職業分類が必ずしも適切にひもづけられていない可能性があることだ。今回の日米職業分類の対照作業では、両者の職務内容を確認し、最も定義が近しい分類についてひもづけを行っている。しかし、より詳細に分類されている米国職業分類の中には、現行の日本の職業分類に該当しない職業が存在する。また、米国の職業分類は3~8年に1回の頻度で更改されており、新設された職業分類についてひもづけが行われていない可能性がある。

※1比較対象として米・英を採用したのは、類似した産業構造を持つ先進国であるという理由以外に、職業小分類レベルでのひもづけが可能だという背景がある。英・米間の職業小分類のひもづけは、Bakhshi, Downing, Osborne and Schneider, ”The Future of Skills: Employment in 2030”. NESTA, 28 September 2017. に拠っている。
https://futureskills.pearson.com/research/assets/pdfs/technical-report.pdf

※2これは、必ずしも両者の間で人材の移動が発生していることを示すものではなく、あくまで結果的に両者の増減数が一致したに過ぎない。事実、近年の医療・介護サービス人材増加の要因としては、新卒からの流入に加えてその他サービス業からの転職が目立ち、製造業からの転職が活発化している兆候は見られていない。

※3O*NETの職業分類体系は、1998年の運用開始時に「O*NET98」が公表されて以降、「O*NET-SOC 2000」「O*NET-SOC 2006」「O*NET-SOC 2009」「O*NET-SOC 2010」「O*NET-SOC 2018」と5回にわたり更改されている。

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