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大ミスマッチ時代を乗り超える人材戦略 第1回 三つの潮流のはざまで変わる日本の仕事

2030年の人材マッピング

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2018.7.23

政策・経済研究センター山藤昌志

経済・社会・技術
AI(Artificial Intelligence)、IoE(Internet of Everything)、ロボティクス、3Dプリンター。私たちの暮らしぶりを一変させるようなコア技術が次々と生み出され、すさまじいスピードで進化を遂げている。第四次産業革命と呼ばれるこうした技術革新は、消費者としての私たちの生活を豊かにする一方で、「自動化・無人化による雇用代替」と「新産業による雇用創出」という二つの側面から、就労者としての私たちの仕事や働き方にも無視できないインパクトをもたらす。

翻って日本の人材供給に目を移すと、未曽有の少子高齢化と長寿化が働き手の構成のみならず、日本人の働き方そのものを大きく変えようとしている。より少ない人口がより長く働く社会において、人々は学び直しで自らのスキルをアップデートしつつ、複線的な職業人生を生きなければならなくなる。昨年秋に「人生100年時代構想会議」を立ち上げた政府は、2018年6月に「人づくり革命 基本構想※1」を公表した。そこでうたわれているのは、幼児から学生、就労者、高齢者まで、生涯を通じた切れ目のない人材への投資だ。

仕事を巡るさまざまな状況が大きく転換する中、私たち日本人の働き方は、どう変わっていくのだろうか。また、職業の大転換期において求められるのはどのような人材であり、必要な人材を育てるために、または求められる人材となるために、個人・企業・政府は具体的に何に取り組むべきなのか。

本コラムは、日本の人材需給動向や求められる人材ポートフォリオの姿を定量的に示した上で、2030年をターゲットとして、あるべき人材像を実現するために必要となる施策のロードマップを描くことを目的としている。今回2030年という近未来をスコープとしたのは、定量的な裏付けの下で分析を行うためのタイムスパンとして10年前後が適切であり、かつこの先10年が日本の人材育成の行方を決定付ける重要な時期にあたるという当社の判断にもとづくものである。

日本経済三つの潮流

日本の人材の近未来を予測するにあたり、この間の日本経済を巡る主要な潮流を押さえておきたい。以下に示す三つの潮流は、今後10数年で確実に顕在化、深刻化し、かつ私たちの生活に多大な影響を与えるものであり、私たちの働き方を変革する原動力となるものである。

(1) 技術革新 ~ 人と技術が共進化して新しい市場を創造

第四次産業革命では、さまざまな要素技術が、集合として破壊的なイノベーションをもたらす。中でも中核的な構成要素となるのが「AI(Artificial Intelligence)」「ロボット」「IoE(Internet of Everything)」という三つの新技術だ(図表1-1)※2 。人間に例えれば脳、骨格・筋肉、感覚器・神経系に相当するこれらの技術は、相互に連携しつつ、あたかも地球を覆う新たな巨大生命体かのごとく自ら考え、自ら最適化する。2030年に向けた10数年は、これら三つのコア技術が生活の場に適用され普及していく過渡期にあたる。この間、定型的な事務作業はもちろん、ロボット・IoEとAIの融合が進展するとともに、物理的な作業やコミュニケーションが必要な作業に至るまで、徐々に機械への代替が進むことが見込まれる。

一方で、人間の能力を補完・拡張することを通じて技術革新は、より大きな付加価値を生み出す力を生み出す。AIやIoEがより多くのデータと適切な判断材料を与えてくれることによって、私たちはかつてない生産性で仕事を進めつつ、これまでない新たな市場を創造することができる。そこで必要となるのは、新しい技術を受け入れるための知識と柔軟な考え方、そして社交性や交渉力、決断力といった「人間ならではの能力」だ。歩みを止めない技術進歩が人間の仕事を脅かしかねない今だからこそ、私たちは人間しか持たない能力を研ぎ澄ますことが求められる。
図表1-1 2030年までに普及が見込まれる技術革新のコア要素とその影響
図表1-1 2030年までに普及が見込まれる技術革新のコア要素とその影響
出所:三菱総合研究所

(2) 少子高齢化 ~ 多種多様な人材の混成チームで成長を実現

もう一つの潮流は、人材の供給面で直接的な影響を与える少子高齢化だ。周知のとおり、日本の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに減少に転じており、直近では年間30万人以上のペースで縮小している。働き手という意味でより重要な生産年齢人口(15歳~64歳)は、総人口に先立つこと13年、1995年に8,726万人のピークを記録して以来減少を続けており、2018年初めに7,581万人となった。

人口減少トレンドがもはや不可避となった今、私たちは行いうるすべての対策を講じて人材を確保しなければならない。2000年と2030年の人口ピラミッドを示す図表1-2を見るとおり、今後の生産年齢人口が先細るのは明らかだ。日本の経済規模を維持拡大するには、人口のボリュームゾーンとなるシニア層の就業率向上、いまだ十分に活用できていない女性の労働参加確保、より幅広い分野での外国人材受け入れのいずれか、もしくはすべてを推進する必要がある。先に述べた技術革新による生産性向上が必要な労働力を徐々に縮減していくものの、労働代替のペースと人口減少のペースには相応のミスマッチが伴う(このミスマッチについては第2回に詳述する)。

多様な人材の確保については、多様性そのものがイノベーションを促進し経済成長をけん引するという、積極的な側面があることも見逃せないポイントだ。企業が革新的な製品やサービスを世に届けるには、多種多様なスキルやタレントを持つ人材を集め、混成チームを組む必要がある。多様性は業務効率の阻害要因ではなく成長の源泉であるとの認識を、社会全体が共有することが重要だ。国は多様性を前提とした複線的な人づくりを行うとともに、企業はイノベーションを促し生産性を最大化するようなチーム組成を模索しなければならない。
図表1-2 日本の人口ピラミッドと年齢別の就業者数(2000年・2030年)
図表1-2 日本の人口ピラミッドと年齢別の就業者数(2000年・2030年)
出所:総務省「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」、総務省「労働力調査」より三菱総合研究所作成

2030年の人口は国立社会保障・人口問題研究所の中位推計、就業者数については過去トレンドに基づく三菱総合研究所の想定値。

(3) 長寿化 ~ 個人が長い職業人生の生き方を自律的に選択

ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットンが自著『ライフ・シフト-100年時代の人生戦略-』で提言した100年ライフを前提とした「教育→仕事→引退」の3ステージからの脱却は、シニア層のみならず、将来に備える上での、若手~ミドル層の仕事に対する考え方をも大きく変える。「人生100年時代構想会議」で政府が取りまとめた「人づくり革命 基本構想」は、高齢者雇用促進に加えて、就労者の学び直し(リカレント教育)や大学改革、さらには幼児教育の充実を視野に入れた幼児教育の無償化まで、人生のマルチ・ステージ化を国として支援する姿勢を打ち出している。

もはや一つの会社に「就社」して職業人生を終える時代は終わりを告げており、職業キャリア全般にわたって背中を押してくれる単一の主体は存在しない。国や企業、親族、友人などから得られるさまざまな情報を取捨選択し、キャリアを築いていくのは自分自身である。これからは、国や企業がおのおのの役割に応じて職業情報や教育機会を提供しつつも、長い職業人生の生き方を選択するのはあくまで個人だという認識を持つことが重要になってくる。

本コラムの構成

本コラムの構成は、以下のとおりである。

まず、2030年にかけての日本の人材需給バランスを定量化する(第2回)。ここでは、足もと10年間の人材需給バランスが不足から過剰へと大きく転換すること、そして人材流動化に向けた有効な対策が打たれなかった場合、職業別のミスマッチが100万人単位で発生することを示す。

次に、今後必要となる人材像を明確化するため、職業特性データを用いて日本の人材ポートフォリオを可視化する(第3回・第4回)。ここでは、日本が将来の技術革新を取り込み成長を実現するには、いわゆる「ルーティンタスク」に偏重している人材を、創造性や革新性といった人間ならではの能力が必要な「ノンルーティン領域」に移行させる必要があることを示す。

続いて、ミスマッチ解消に向けた人材戦略の基本形を提示する(第5回)。ここでは、人材流動化を自律促進するために必要なサイクルと、それを機能させるために必要な要件を特定する。また、人材流動化を支える基盤インフラとして、職業情報データベースの整備が極めて重要な要素となることを示す(第6回)。

さらに、人材ミスマッチを解消する上で、国や企業が採用するべき具体策を提案する(第7回、第8回)。ここでは、定量分析を通じて可視化した「成長をリードする人材セグメント」を発掘・強化する方策に加え、人材ポートフォリオにマッピングされた各個人がより高いステージへシフトするため必要となる「学び直しのあるべき姿」を提示する。

最後に、2030年に向けた人材戦略ロードマップを描く(第9回)。ここでは、国・企業・個人が取るべき施策を時系列で示すとともに、施策が講じられた場合の人材流動化の姿を、人材移動マトリクスに基づくシミュレーション結果とともに明確化する。

※1https://www.kantei.go.jp/jp/content/000023186.pdf

※2各々の要素技術の詳細についてはMRIトレンド・レビュー「第四次産業革命②-第四次産業革命の3つの構成要素、AI・ロボット・IoE-」を参照。

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