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大ミスマッチ時代を乗り超える人材戦略 第3回 2軸・4象限で示す日本の人材ポートフォリオの姿

2030年の人材マッピング

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2018.8.23

政策・経済研究センター山藤昌志

人材
前回の人材需給分析から明らかなように、技術革新を取り込みつつ成長を実現するには、職のミスマッチ解消が不可欠だ。しかし、不足する専門職人材は一朝一夕に確保することはできない。今後備えるべき能力やスキルと現状とのギャップを明確化し、それを埋めるための学びの機会を提供することで、個人の能動的な「学び」と「行動」を促す。ミスマッチ解消の実現には、将来を見据えた戦略的な対応が必要となる。 

必要人材を特定するための分析軸──先行研究の整理

技術革新に伴って必要性が高まる職とは、どのような特性を持っているのだろうか。あるいは逆に、AIやIoE、ロボット技術の普及によって自動化・無人化が進む職の特性には、どのようなものが含まれるのか。

技術進歩が仕事に与える影響を分析する枠組みとしては、Autor, Levy and Murnane (2003)による「タスクモデル」が有名だ。タスクモデルでは、仕事をタスクで捉え、タスクの特性に応じて技術の影響の受けやすさが異なることを示した。そこでのタスク分類は「ルーティン(定型的)かノンルーティン(非定型)か」、「マニュアル(手仕事的)かコグニティブ(分析的・対話的)か」の2軸から構成され、結論として、1960年から1998年の間にIT化が進んだ産業・職業において、ルーティンタスクが減少しノンルーティンタスクが増加したことを実証した。

また、Autor and Dorn (2013)は、タスクモデルの枠組みを踏襲した上で、米国におけるスキル(職別実質賃金で代替される)と雇用シェア変化の関係を定量化した。結論として、1980年から2005年の間に高スキル(=非定型・分析的)タスクと低スキル(=非定型・手仕事的)タスクにおいて雇用シェアが増加した一方、中スキル(定型的な単純作業・事務)タスクでは雇用シェアが減少したことを実証した。これは、米国でのIT化の進展がルーティンタスクの自動化を促進し、結果として定型的タスクに携わる中所得者層の低所得者層への転落を助長したという1990年代以降の「二極化」現象を説明するものとして注目された。

技術革新が仕事に及ぼす影響を示す研究として近年大きく取り上げられたのが、Frey and Osborn (2013) である。同研究では、タスクモデルに準拠した主観予測によって、米国の職業の47%がAIなどの技術で代替される可能性が高いことを示した。同研究の枠組みは日本をはじめとするOECD加盟国や中国、インドにも拡張され、野村総合研究所 (2015) は日本の職の49%が高い代替リスクにさらされるとの研究結果を示している。Frey and Osbornの研究は、新技術の価格予想などが考慮されていないことから、技術革新の影響を過大評価している可能性が指摘されている。

図表3-1に、技術革新が仕事に与える影響について掘り下げた過去の主要な先行研究を示す。ディープラーニングの登場に伴ってAIへの注目度が上がったことにより、2010年代後半以降は多くの研究者がAIと仕事の関係性の定量化を試みている。
図表3-1 技術革新が仕事に与える影響に関する主要な先行研究
図表3-1 技術革新が仕事に与える影響に関する主要な先行研究
出所:各種資料より三菱総合研究所作成

2軸・4象限による人材マッピング

今回の分析では、「職はタスクの集合体であり、タスクはその特性や遂行に必要な能力・スキルによって説明される」というタスクモデルの考え方に基づき、タスクの特性と必要な能力・スキルの情報から人材を定量的にマッピングした。分析の軸としては、前述したAutor, Levy and Murnane (2003) の先行研究に倣い、「ルーティン(定型的)⇔ノンルーティン(非定型=創造的)」と「マニュアル(手仕事的)⇔コグニティブ(分析的)」を採用し、2軸・4象限上で日本の人材ポートフォリオを明確化することを試みた。各象限に対応するタスクの特徴および典型的な職業の事例は、図表3-2に示すとおりである。
図表3-2 2軸・4象限への人材マッピング(イメージ図)
図表3-2 2軸・4象限への人材マッピング(イメージ図)
出所:三菱総合研究所
今回の2軸・4象限への人材マッピングの特徴は、職業分類別のタスク特性に関する数値データを用いて、日本の人材ポートフォリオの姿を定量化したことだ。本来的には、日本の職業データを用いた定量化が望まれるところだが、現時点では国内に適切な職業別データベースが存在しない。そこで、今回は米国O*NET の職業データベースを活用した(具体的な定量化の方法については、下記の囲み記事を参照)。O*NETとは、米国の職業や労働者に関するさまざまな情報を収集・配信する職の情報基盤である(https://www.onetonline.org/)。1998年以降、米連邦労働省雇用訓練局が運用しているO*NETでは、2000年8月以降、22度にわたり職業データベースの更改を行っており、2018年7月現在の最新アップデート(バージョン22.3)では、1,110の職業分類ごとに数百にわたる特性データを誰もが閲覧可能な形式※1で提供している。

米国O*NETの職業特性データを用いた人材マッピングの方法

今回人材マッピングでは、O*NETのバージョン22.3データベースが保持する全37テーブル中の7テーブル・計230項目(Abilities:52項目、Interests:9項目、Skills:35項目、Work Activities:41項目、Work Context:68項目、Work Styles:16項目、Work Values:9項目)の職業別特性データを使用した(図表3-3参照)。職業特性データは、各職業分類に属する就労者へのアンケート調査から作成されており、5段階や8段階で回答した数値の平均値や標準偏差、信頼区間が格納されている。
図表3-3 O*NETが保持する職の属性7テーブル(イメージ図)
図表3-3 O*NETが保持する職の属性7テーブル(イメージ図)
出所:三菱総合研究所
今回は、職業分類別特性データ項目のうち、「ルーティン⇔ノンルーティン」「マニュアル⇔コグニティブ」の2軸を説明する特性として適切な67項目をピックアップし分析の俎上に載せた。具体的には、まずこれら67項目について相関分析を実施し、同一軸には比較的相関の高いデータ項目を集約させた。次に、各軸について選択されたデータ項目を対象に主成分分析を実施し、第1主成分として抽出されたデータ項目と係数に基づいて座標を定量化した。結果として、両軸に選択された職業特性データ項目は、「ルーティン⇔ノンルーティン」軸について16項目、「マニュアル⇔コグニティブ」軸について9項目となった(図表3-4参照)。さらに、米国職業分類(1,110分類)を日本の国勢調査職業小分類(232分類)に対照させ、米国職業分類別に設定した座標軸を日本の職業分類に紐づけた。
図表3-4 今回の分析で選択された2軸の構成要素
図表3-4 今回の分析で選択された2軸の構成要素
出所:三菱総合研究所

日本の現在の人材ポートフォリオの姿──人材は「ルーティン領域」に集中

O*NETの職業データに基づいて職業小分類別の座標軸を定量化し、2015年時点での日本の人材※2を2軸・4象限上にマッピングした結果が図表3-5である。
図表3-5 日本の人材ポートフォリオ(2015年の職業別就業者数)
図表3-5 日本の人材ポートフォリオ(2015年の職業別就業者数)
出所:O*NET、国勢調査などより三菱総合研究所推計
ここでは、職業大分類別にバブルチャートの色を分けて表示している。おおよその傾向としては、黄色の管理職が第1象限、オレンジ色の専門・技術職が第1~2象限、緑色の生産・運輸・建設職が第2~3象限、灰色の事務職が第4象限、そして青色の販売・サービス職は第1~4象限に分布している。また、分類不能の職業を除いた231の小分類別にマッピングした職業の就業者数はバブルの大きさで表しており、最も大きなもので販売店員の343.8万人、最も小さなもので砂利・砂・粘土採取従事者の840人となっている。

また、図中に表示しているとおり、各象限に属する就業者数には偏りがある。第1象限(ノンルーティン・コグニティブ領域)には900万人(全体の16%)、第2象限(ノンルーティン・マニュアル領域)には350万人(同6%)、第3象限(ルーティン・マニュアル領域)には2,450万人(同44%)、第4象限(ルーティン・コグニティブ領域)には1,880万人(同34%)となっており、第3象限は第2象限の7倍に上る就業者を抱えている。

細かな職業別の状況を見ると、同一の業種によっても職種が違えば四象限上の位置づけが異なるケース、あるいは逆に同一職種においても業種が異なることで位置づけが違ってくるケースが見て取れる。例えば、同じ医療・介護業種でも、専門職に位置づけられる「看護師」や「保健師」は第2象限(ノンルーティン・マニュアル領域)に位置づけられるのに対して、「介護職員」は第3象限(ルーティン・マニュアル領域)に属している。また、同じ営業職である「システム営業職」と「一般営業職」は、双方ともに第1象限に属しているものの、システム営業職が上方(ノンルーティン側)に位置づけられていることがわかる。さらに、おおむね第1象限の中に入っている技術職・研究職について、図中では細かく記載していないものの、第2象限(マニュアル領域)に近い位置づけの職(金属技術者、化学技術者など)もいれば、かなりコグニティブ側に寄っている職(情報処理・通信技術者など)もいるなど、比較的大きなばらつきを持っていることも興味深いポイントとして指摘される。

第3回おわりに

「タスクモデル」の考え方と米国O*NETの職業特性データに基づいて、日本の人材ポートフォリオを2軸・4象限上に映し出した。この結果、日本の人材の多くがルーティンタスクの領域に集中していることが示された。

この結果は、今後の第四次産業革命が進む中で、どのような意味を持つのであろうか。また、他国の状況と比して、日本の人材ポートフォリオの構成はどのような特徴があるのか。さらに、第2回の分析で明らかにした2030年にかけての職のミスマッチ状況は、4象限の人材マッピング上ではどのような様相を見せるのであろうか。

次回は、他国の人材ポートフォリオとの比較を行いつつ、日本の人材が将来的にどのような脅威にさらされるかについての考察を行う。また、第2回で明確化した2030年までの人材需給の動きを4象限の人材マッピング上に展開させ、人材の過不足がどこで発生するかを特定する。

※1O*NETのデータはExcel、Text、MySQL、SQL Server、Oracleの各形式が揃っている。過去のデータを含めて「O*NET Database Releases Archive」にてダウンロード可能。
https://www.onetcenter.org/db_releases.html

※2ここでは、2015年国勢調査における職業小分類別就業者(総数5,889万人)を使用しており、労働力調査をベースとした第2回での就業者数(2015年での総計6,376万人)とは集計基準が異なることに留意が必要。

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