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2024年1月号トピックス2スマートシティ・モビリティサステナビリティ

走行中ワイヤレス給電を脱炭素化の切り札に

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2024.1.1

モビリティ・通信事業本部金子 法子

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 走行中ワイヤレス給電は自動車の脱炭素化を進める鍵になる。
  • 本格普及に向けては技術・制度・経済性の3軸がポイント。
  • 産学官連携のパートナーシップで世界に先駆けた実用化を。

脱炭素化の新たなソリューション

2050年までのカーボンニュートラル実現に向けて自動車分野では、脱炭素化の新たなソリューションとして、走行中の電気自動車(EV)へのワイヤレス給電が注目を集めている。道路側から走行中の車両に送電する技術※1のことだ。

停車して有線で接続する従来のEVとは違い、給電の機会が増えることで、車両のバッテリーを小型化しても航続距離を伸ばせる。このため、バッテリーの材料調達から廃棄までのライフサイクルを通じたCO2排出量削減も期待されている。

2030年代には限定的ながら導入も

国内では、内閣府や経済産業省、文部科学省※2などが研究開発と実証実験に取り組んでいる。すでに柏の葉キャンパス駅(千葉県柏市)周辺で公道実証が実施されており、大阪・関西万博では複数のEVバスによる走行実証も予定されている。

海外では欧米が先行して、公共バス向けの給電や、自動車専用道で高速走行中の車両への給電など、多様な実証実験が進められている。

まずは2020年代後半〜2030年代にかけ、特定施設内のシャトルバスでの運用や、タクシーなど公共交通機関への限定的な導入が進むだろう※3。その後は、これらの導入効果を見極めつつ、公道へのインフラ設置と一般車への普及も視野に入る。

技術・制度・経済性の3軸で本格普及を

国内における走行中ワイヤレス給電の本格的な普及に向けては、技術自体の成熟と制度整備、さらには経済性の確保が重要だ。

技術面では、メーカーや研究開発機関が高機能化と低コスト化を進めている。その中では規格の統一がポイントだ。デファクトスタンダードになる規格があるのか、それとも有線充電器のコネクターのようにエリアごとに違った規格が採用されるのかは現時点では不明ながら、標準化の動向を押さえることが重要だ。そのうえで、ガラパゴス化することを避け、海外の車両・充電器と統一性や互換性をもった開発が行われるべきである。

そして公道へと普及したとき、電動化の促進効果や脱炭素効果は一気に高度化する。都市基盤やエネルギー基盤と密接に結びつく技術であるため、官民で連携したインフラ投資が必要だ。

インフラ整備においては、道路管理者や電力事業者が手を携え、土地利用やエネルギー利用、さらには、施工やメンテナンスについて、ライフサイクルを通じた経済性の確保を目指さなければならない。そのためには、ほかの技術と比較した際の投資規模や脱炭素化への貢献度、技術が普及した場合の経済面を中心とする社会的効果などに関する検証を、絶え間なく続けるべきである。

技術・制度・経済性の3軸について、産学官が連携して世界に先駆けた自動車分野の脱炭素化を進めるには、多様な業界からなる検討体制と、実地での実証実験が不可欠だ。当社としても、政策提言や技術支援を通じて、走行中ワイヤレス給電を社会実装する一翼を担いたい。

※1:海外の実証結果によると有線充電と比べ送電効率は大きく劣らない。

※2:内閣府は戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)、経済産業省はグリーンイノベーション基金事業、文部科学省は科学技術振興機構の未来社会創造事業によって、走行中ワイヤレス給電技術への助成を行う。

※3:特定エリアの走行においては投資規模を抑えつつ技術上のメリットを享受できると試算されている。