コラム

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下水道事業における維持管理業務とICT活用

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2020.10.2

サステナビリティ本部高田 一輝

環境・エネルギートピックス
日本の下水道施設は1970年代より着実に整備され、完成期に差し掛かっているといわれている。国土交通省調査によれば、2019年3月末時点における全国の下水道処理人口普及率(下水道を利用している人口の割合)は79.3%であり、汚水処理人口普及率(浄化槽など下水道以外の汚水処理方法も含めた利用人口の割合)は91.4%である※1。これらの数字から、日本における下水処理の需要はほぼ満たされていると捉えてよいだろう。

これからの下水道事業では、人口減少などにより社会状況が変化する中、整備された大量の資産をどのように維持し、または再編していくかが課題となる。

本稿では、まず下水道事業において認識されている維持管理上の課題を概観し、望まれる解決の方向性とICTによる解決の可能性を示す。次いで、下水道業界の業務とそこで扱われている情報について紹介し、具体的なサービスの事例をいくつか挙げたい。ICTはさまざまな分野で既に導入され始めており、下水道事業もその例外でないことをご理解いただければ幸いである。

下水道事業における維持管理の課題

下水道事業が抱える課題として、国土交通省では、人、モノ、カネと大きく三つの課題を挙げている※2

人の課題とは、下水道職員の顕著な減少により、下水道事業執行体制の脆弱(ぜいじゃく)化が進行していることを指す。全国の下水道部署職員数は、ピーク時(1997年度)に約47,000人であったが、2015年度には約29,000人にまで減少した。20年前、2人で担当していた業務を、現在は1人で担当している状況である。下水道職員の業務では、技術系に限っても、土木、機械、電気、水質検査などさまざまなスキルが求められるため、少人数でこれに当たることは困難である。もっとも、同時期に民間委託が進められたため、単純な比較はできない。事実、同時期に維持管理に関する民間技術者の数が増加しているというデータもある※3。しかし、民間技術者も高齢化が進んでおり、外部委託により人の課題が解決するとは言いがたい。

モノの課題とは、今後、下水道施設の老朽化が加速度的に増加する見通しであることを指す。下水道施設には、下水道管やマンホールなどの管路施設、下水を処理するための処理場施設、送水機能を補完するためのポンプ場施設の三つがある※4。下水道管路施設は、敷設後50年を経過すると、「古い管路」と見なされ、改築・更新が望ましいと考えられている。日本の下水道管路は2005年から2015年頃に大量に整備された※5ため、今後50年で改築・更新されるべき管路が急増することになる。前述のとおり下水道職員が減少する中、この一斉更新の波に下水道業界が耐えられる保証はない。業務負荷を平準化するためにも、計画的な施設の改築・更新が望まれている。

カネの課題とは、下水道使用料収入の減少を指す。下水道使用料は、各家庭などが使用した水道量から推定で算出されることが多いが、使用される水道量は将来にわたって減少するという推計が示されている※6。人口減少と節水機器の普及により、全国で使用される水道の量は、ピーク時(2000年)の3,900万㎥/日から減少傾向が続いている。これに連動して下水道使用料による収入も減少することが予想されるため、全国の下水道事業者では、経営の効率化も求められている。

望まれる解決の方向性:ICTの活用

人、モノ、カネの課題に対応するためには、大きく二つの方向性が考えられる。

一つは、既存の下水道インフラを維持した上で、業務の省力化・最適化や、さらには下水道を通じて実現できる付加価値を拡大するという方向性である。例えば、昨今、新型コロナウイルスが下水から検出されたことで※7、下水疫学調査への関心が高まっている。ヘルスケア領域と下水道の連携によって新しいサービスを提供する取り組みは、対応策の一つとして検討されてもよいだろう。実例として、下水中のウイルス情報を検知して近隣住民に感染症アラートを発出するサービスが東北大学や仙台市などにより展開されている※8。このほか、水道事業や廃棄物処理事業など、連携の可能性はいくつか考えられる。国土交通省の「新下水道ビジョン」では、このような維持管理と付加価値拡大の二つの方向性を、「持続」と「進化」という言葉で表現している※9

もう一つの方向性は、既存の下水道インフラを再編することである。人口が密集した区域には下水道などの集合処理を導入する一方、人家のまばらな区域には合併浄化槽などの分散処理を配置するなど、地域の特性に応じて下水処理サービスの最適化を図ることで、全体のコストを下げることができると考えられる。分散処理システムは、従来、下水道が整備されるまでの過渡的な措置として考えられることもあったが、近年では、災害時など非常時の汚水処理にも有用であるとして注目を集めている※10。特性の異なる汚水処理を適切に組み合わせることで、既存インフラの維持を基調とするだけでは対応しきれない課題を補完することが可能になるだろう。

以上の二つの方向性を実現するために、有効であると考えられる手段の一つが、ICTの活用である。水道事業におけるICT活用の先行事例では、「クラウド型移行に伴う変革」、「データ流通促進に伴う変革」、「デジタル化に伴う変革」などの効果が確認されている※11

このうち、「データ流通促進に伴う変革」の効果としては、業務に携わる関係者間の情報共有が円滑になることで、連絡業務の省力化が期待される。また、「デジタル化に伴う変革」の効果としては、下水道業界の扱う情報を整理・活用するためのアプリケーションサービスが登場し、さまざまな業務で最適化や意思決定の支援が図られることが期待できる。

下水道業界の業務と扱う情報

本節では、前節を掘り下げ、下水道業界が扱う情報を運転管理、保守点検、財務会計の業務別に整理し、どのようなアプリケーションサービスやデータ流通の在り方が望まれているかを紹介する。

「運転管理」とは、処理場施設やポンプ場施設において、その運転操作を行ったり、運転計画を策定したりすることを指す。ここで取り扱う情報には、現場に設置されているセンサーなどで読み取られた下水の水量・水質に関する情報や、ポンプなどの機器がどのように動いているかという制御状況の情報がある。運転作業員はこれらの情報を勘案して現場の運転操作などを行っている。この業務では、現地の情報を読み取るセンサーの精度向上は当然ながら、得られた水量・水質のデータから最適な処理方法を導き出すようなサービスが望まれている。

「保守点検」とは、上述の処理場施設やポンプ場施設に加え、管路施設において求められる業務である。この業務では、計画により定められた施設の点検・調査・修繕・改築を行うほか、住民からの苦情や事故への対応を行う。また、その過程で新たに取得した資産の情報を台帳に登録する作業も、この業務の一環である。このようにして集められた資産情報や維持管理の履歴などを踏まえ、技術職員や委託を受けたコンサルタントが次年度の維持管理計画などを策定していく。この業務では、下水道事業者が保有する資産の状態から、将来の劣化などを予測して適切なマネジメント方法を提案するようなサービスが求められている。

「財務会計」とは、下水道事業に係る財務諸表などの作成と、それに基づく経営判断・外部説明などの業務を指す。ここでは、下水道料金収入に関する情報のほか、前述の運転管理や保守点検の過程で得られた情報を総合的に勘案した経営判断が行われる。したがって、下水道事業が保有するさまざまな情報から、財政状況の健全度を示すようなアプリケーションサービスが望まれるだろう。

定常業務を効率化したいというこれらのニーズに加えて、インフラ再編のニーズもある。例えば、下水処理業務に係るデータの流通促進を求める声がその一例である。インフラ再編の検討では、現状把握のため技術系・事務系のデータを広く集約する必要があるほか、他の自治体の経営状況を参考にしたいというニーズが生じることもある。広域化・共同化計画の策定が推進されている※12ことから、インフラ再編の必要性はますます高まっており、結果として他の自治体のデータを参照したいというニーズも拡大している。データを共有するプラットフォームの構築は、セキュリティ確保など配慮しなければならない課題はあるものの、避けて通ることはできない検討事項として認識されつつある。高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が掲げている「デジタル時代の新たなIT政策大綱」では、「社会インフラ部門等(水道等)のシステム共通化の推進」の一例として下水道におけるシステム共通化もうたわれている※13

おわりに

本稿では、下水道事業の維持管理業務省力化・最適化や下水道インフラの再編に向けて、どのようなICT活用が見込まれるかを整理した。特に下水道事業を巡る、人、モノ、カネの課題は下水道事業安定のためには乗り越えるべき壁であり、その解決にはICTの導入という選択肢を無視することはできないだろう。また、今後、下水道インフラの再編に係る計画を策定する上でも、ICTを活用した意思決定が有用であると考えられる。

当社では、国土交通省業務の一環として、ICT業界などの異業種と下水道業界のマッチングを目指すイベント「下水道スタートアップチャレンジ」の支援を行っているほか※14、NEDO業務の一環として、下水道事業における情報共有プラットフォーム構築の検討調査を実施※15している。複数の領域にわたって専門家を擁する当社の強みを活かしながら、今後も異業種間のリエゾンとして役割を果たしていきたいと考えている。

※ 1:国土交通省「下水道処理人口普及率と下水道普及率の推移」(2018年度末時点)
http://www1.mlit.go.jp/common/001273126.pdf(閲覧日:2020年9月28日)

※ 2:国土交通省(2018年11月)「10年概成に向けた効率的な汚水処理施設整備」
https://www.mlit.go.jp/common/001265654.pdf(閲覧日:2020年9月28日)

※ 3:国土交通省「下水道事業の事業管理に関する現状分析と課題」
https://www.mlit.go.jp/common/001028150.pdf(閲覧日:2020年9月28日)

※ 4:総務省(2012年2月)「社会資本の維持管理及び更新に関する行政評価・監視」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000144896.pdf(閲覧日:2020年9月28日)

※ 5:国土交通省「下水道管理の維持」
http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/crd_sewerage_tk_000135.html(閲覧日:2020年9月28日)

※ 6:総務省(2018年2月)「下水道事業についての現状と課題」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000536241.pdf(閲覧日:2020年9月28日)

※ 7:国立感染研究所(2020年7月)「環境水調査による新型コロナウイルスの下水からの検出」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/9714-485p02.html(閲覧日:2020年9月28日)

※ 8:東北大学、山形大学、仙台市、日水コン「下水中ノロウイルス濃度情報発信サイト」
https://novinsewage.com/(閲覧日:2020年9月28日)

※ 9:国土交通省(2014年7月)「新下水道ビジョンについて(概要)」
https://www.mlit.go.jp/common/001047853.pdf(閲覧日:2020年9月28日)

※10:クライシスマネジメント協議会「分散型上下水道システム研究会」
http://www.crisis-mc.org/project/dws_system/index.html(閲覧日:2020年9月28日)

※11:経済産業省・厚生労働省(2019年4月)「水道情報活用システム導入の手引き」
https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190510002/20190510002-1.pdf(閲覧日:2020年9月28日)

※12:国土交通省(2019年3月)「広域化・共同化計画策定マニュアル(案)」
https://www.mlit.go.jp/common/001282872.pdf(閲覧日:2020年9月28日)

※13:高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(2019年6月)「デジタル時代の新たなIT政策大綱」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20190607/siryou1.pdf(閲覧日:2020年9月28日)

※14:国土交通省(2020年8月)「下水道スタートアップチャレンジ開催! ~下水道を通じたスマートシティの実現~」
https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo13_hh_000452.html(閲覧日:2020年9月28日)

※15:NEDO(2019年9月)「『Connected Industries推進のための協調領域データ共有・AIシステム開発促進事業/データ利活用推進のためのシステム構築促進に向けた方策の検討』に係る実施体制の決定について」
https://www.nedo.go.jp/koubo/IT3_100112.html(閲覧日:2020年9月28日)