デジタル・リアル融合による体験価値の向上

2021.9.1

政策・経済センター木根原 良樹

スマートシティ・モビリティ

POINT

  • 住民の行動拡張は地域経済に新たな需要創造をもたらす。
  • 能動性とカスタマイズを満たす融合サービスが体験価値を高める。
  • 企業や自治体が地域のエコシステムを形成し取り組むことが有効。

行動拡張による新たな需要創造

働き方・暮らし方が変化する中、住民一人ひとりが自身の価値観や生活環境に応じて行動の量と質を最大化(行動拡張※1)することが、新たな消費を生み需要創造につながると期待される。

その実現には、デジタルサービスとリアルな商品・サービスとを連携させる「デジタル・リアル融合」を進め、行動に伴う体験価値を高めることが有効である。

例えば、住民がインターネットを通じて地域の特産品の存在を知り、バーチャルで生産者と農場に関する案内を受けて、農作物を購入する。アバター※2による農業体験にも参加し、オンラインで生育状況を観察する。収穫時にはリアルに農場を訪れて生産者と交流、収穫作業を行うとともに特産品の料理を楽しむ。こうした融合サービスが体験価値の高い行動を誘発し、新たな需要を創造する。

当社がその経済効果を試算したところ、融合サービスを受けることで、健康増進や余暇を楽しむなど住民の行動が2〜5%増え、外食や旅行などの家計支出が3〜5%増えるとの結果を得た※3。地域の企業や自治体が、地域経済の活性化に向けて、デジタル・リアル融合による行動拡張に取り組む意味は十分にある。

能動性とカスタマイズが体験価値を高める

新たな需要創造には、高い体験価値が得られる融合サービスを提供することが重要となる。

近年では、サイトで流行の商品を安価・手軽に入手でき、数多くのレストランから口コミ人気の高い店を選択できる。これまで「安価・手軽」「選択性」という効用を融合サービスが生んできたが、体験価値をいっそう高めるには「能動性」と「カスタマイズ」が重要な要素となる。

能動性とは、自身の価値観や社会意識に基づき主体的に行動を選択することであり、高い体験価値が得られる。例えば、地域活動に関する融合サービスを通じて、地元企業の食品ロス削減の取り組みを知り、商品を購入するなどの応援をする。

カスタマイズとは、一人ひとりの心身状態や活動を踏まえアレンジしたサービスを受けることである※4。例えば、家族の健康状態を踏まえて日替わりでアレンジされた食材配送サービスを受けたり、趣味や嗜好を踏まえて提案されたプランで休日を過ごしたりする。

当社では融合サービスの効用を市民アンケートに基づき定量的に試算した。能動性やカスタマイズを重視する人は現時点では少ないものの、安価・手軽や選択性を重視する人に比べて、例示した融合サービスに対する価値を高く評価する傾向がみられた(図)※5
[図] デジタル・リアル融合サービスの効用とその価値の試算(金額換算)
[図] デジタル・リアル融合サービスの効用とその価値の試算(金額換算)
出所:三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif)」アンケート調査(N=5,000、2021年3月実施)および消費者余剰モデルを用いて試算。
今後、地域で能動性とカスタマイズを満たす融合サービスの提供を進めることで、住民の体験価値が向上していくことが期待される。

地域のエコシステムによるサービス提供

地域での融合サービスの提供には、多業種の企業や自治体が「地域のエコシステム」を形成して取り組むことが有効である。企業・自治体がプラットフォームやデータを共有しつつ、地域に保有するリアル資源(人材や施設)を活かした融合サービスを立案・提供することで、住民の体験価値を高める。

例えば、鉄道会社が自治体や地域企業を巻き込み、交通・小売り・病院・保育・家事など生活全般をカバーする融合サービスを家族の構成や都合に応じてアレンジして提供する。

高齢者世帯の場合は、コミュニケーション端末が家庭内の会話や行動観察を通じて要望を把握する。そのうえでサービス企業が、健康に配慮した食材配送のほか、買い物・掃除・洗濯などの家事代行、病院の予約と送迎などを支援する。

幼児がいる世帯では、コミュニケーション端末が家族の希望をくみ取り、行楽の際にはサービス会社が、施設・食事・交通を一括して手配する。娯楽施設へすぐに入場できたり、幼児が喜ぶ食事メニューがレストランで出されたり、電車での移動中も座り続けられる。その結果、家族全員で休日を楽しむことができる。

同時にエコシステム全体でCO2削減、健康増進といった社会課題に取り組む。その効果を融合サービスで見える化することで、住民は社会課題解決に資する商品を能動的に選択できる。

地域の企業や自治体は、ポストコロナを大きな転換期として捉え、住民の体験価値向上と地域経済の活性化に向けて始動することが期待される。

※1:特集1「ポストコロナの行動拡張改革」参照。

※2:デジタル空間上の分身。

※3:計32のサービス例を設定し、三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif)」アンケート調査(N=3,270、2021年8月)に基づき算出。

※4:カスタマイズは、今後IoT(Internet of Things)やIoB(Internet of Bodies)が普及することで高度化していくと考えられる。

※5:消費者は融合サービスを受け、実際に行動することで、支払額を上回る価値(消費者余剰)を感じる。

バックナンバー

関連するナレッジ・コラム

もっと見る
閉じる