マンスリーレビュー

2021年9月号特集3デジタルトランスフォーメーション経済・社会・技術

行動拡張を支え加速させるデジタルツイン

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2021.9.1

スマート・リージョン本部林 典之

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 人々の行動拡張を実現する「場」としてデジタルツインに期待。
  • デジタルツインは機器・設備・建物レベルから都市レベルに発展中。
  • 社会実装を進めるには推進体制や事業構造の確立などが課題となる。

行動拡張を支え加速させる「場」の必要性

人々が、リアル空間とデジタル空間に広がるさまざまな行動機会から、自らのニーズや状況に合ったものを適切に選択するには、必要な情報をタイムリーに把握・活用できる「場」が必要だ。

こうした「場」は、行動や移動を、都市や地域における空間・機能・サービスと有機的に結びつけ、さらに、都市や地域に関わる主体間の協働・連携や、多分野にわたるデータとシステムの連携を実現する。このような「場」として注目されているのが、技術と事業の面で進展著しい「デジタルツイン」である。

デジタルツインの進展動向と今後への期待

デジタルツインは文字どおり、リアル空間に存在するモノや機能の「双子」をデジタル空間上に作るものである。個別の機器・設備や建物などをデジタル空間に構築する技術の実用化に続き、昨今は情報通信技術の進展ともあいまって、都市レベルでのデジタルツイン構築も加速している。

こうしたデジタルツインでは、リアルの都市と同様、土地・建物や設備だけでなく、各種のサービスや人々の行動、企業活動などを有機的に結合したかたちで再現できる。人々の行動やコミュニケーションの機会を拡大させるだけでなく、都市・地域のマネジメントにも活用が期待できる。また、全体がデジタルデータで構成されているため、人間だけでなく機器やシステムもデータを直接読み取ることができる。

都市レベルのデジタルツインは、ヘルシンキ、ベルリン、シンガポールなどに続き、日本でも取り組みが進展している。国土交通省は「Project PLATEAU」と銘打ち、全国各都市の3D都市モデルデータの整備、ユースケースの開発やオープン化に取り組んでいる。東京都も「デジタルツイン実現プロジェクト」として、都政に関するさまざまな分野のデータを3D空間上に統合して活用する取り組みを進めている。

民間でも建設・不動産、運輸、商業・娯楽などの分野でデジタルツイン活用が進展している。例えば、建設中のマンションからの眺望確認、自動車交通のシミュレーションや自動運転システムへの応用、バーチャル店舗の展開、ゲームやイベントでのデジタル空間活用などは、すでに実用化が進み、評価され始めている。

実現が期待されること

デジタルツイン活用法の一つとして、リアル空間では難しいことをデジタル空間で試行・検証し、結果をリアル空間にフィードバックするパターンが想定される。コロナ禍などで行動が制約される中、複数の訪問先候補をバーチャル体験して現地や移動ルートの状況を把握したうえで、どこに行くか決めるような使い方である。

さまざまな行動を、デジタルとリアルの両方で実施して相互に連携させるパターンもありうる。リアル空間での行動の前・中・後の各フェーズで、デジタル空間に蓄積した情報を活用し、行動をより適切で豊かなものにできる(表)。さらに多様な主体間の協働・連携や都市・地域マネジメントのためのプラットフォームとして、都市全体の活動や機能の最適化にも活用できる。
[表] デジタルツイン活用により実現が期待されること
[表] デジタルツイン活用により実現が期待されること
出所:三菱総合研究所

社会実装に向けて

このようなデジタルツインを社会実装させていくにはどうすればよいだろうか。まず、対象エリアが広範囲にわたり、活用すべきデータも多分野にわたることから、国や自治体などが土台を形成していく必要があろう。特にデジタルツインは、従来はあまり活用されていなかった3次元データ基盤を必要とするため、国などの先導が求められる。

これを土台としつつ、建設・不動産、運輸、情報通信、サービスなどの業種が中心となって、多様な機能やサービスに関する情報とデータを3次元空間上の地物にひもづけて相互連携させ、企業などが活用できる状態にすることが必要である。エリアによっては、企業などが基盤整備から運用までの全体を担うモデルもありうる。いずれの場合も、初期整備した3次元データ基盤を適時・適切に更新していく方策を検討すべきだ。

事業主体の構成も課題となる。リアル空間の都市と同様、インフラ部分は国・自治体などが、個別の機能・サービスは企業などが、それぞれ分担すると想定される。デジタル空間の中で、その線引きを定めていく必要がある。

構築・運用のコストをどう賄うかも課題となる。最終受益者からの直接的な料金徴収に加え、商品・サービス料金への転嫁や、デジタル空間上での広告から収入を得るなどの方策が考えられる。

このほか、デジタルツイン内のデータ資産などに関する権利の取り扱いや、人々の行動に関わるルール作成のような、法的な課題も整理が必要だ。

リアル空間における都市マネジメント方策を参照しつつも、デジタル空間ならではの課題を整理して、解いていく必要がある。