マンスリーレビュー

2023年12月号トピックス1防災・リスクマネジメントデジタルトランスフォーメーション

防災DXから生まれる新サービスの脈動

2023.12.1

社会インフラ事業本部吉元 怜毅

防災・リスクマネジメント

POINT

  • 住民の安心安全を支える、防災分野でデータ連携基盤の検討が始動。
  • マイナンバーカードを活用した新サービスの創出も期待できる。
  • 防災DX社会実装の鍵は「持続可能なビジネスモデルの構築」。

官民共創による防災DX始動

激甚化・頻発化する災害への住民の安心安全を平時と有事にて支えるべく、デジタル庁は「デジタル社会の実現に向けた重点計画」※1で「住民支援のための防災アプリ開発・利活用の促進等とこれを支えるデータ連携基盤の構築等」に取り組む方針を掲げた。2022年12月に防災DX官民共創協議会が発足。防災DXの取り組みが本格化した※2

各社サービスのワンスオンリーを実現するデータ連携基盤により、デジタル技術を活用した防災、災害時における住民行動のあるべき姿「ToBe像」を実現する新サービスの創出が期待できる。

ToBe像を実現する新たなサービス

当社は新サービスの姿を導出するため、住民行動のペルソナ分析を試みた※3

【平時】防災教育:

実感や切迫感をもって自宅や通勤・通学先周辺の災害リスクを理解できる。台風や集中豪雨の際、どのくらいの雨量や河川水位になれば避難を開始すべきかの避難スイッチ※4を事前に検討できる。

【切迫時】避難スイッチ・避難ナビ:

スマートフォンの位置情報に基づき警報が通知され、避難準備を開始できる。その後も、空間解像度の高い災害予測・観測情報のプッシュ通知を受け、平時に設定した避難スイッチに該当する場合に自信をもって避難行動を開始できる。

【応急時】避難所生活支援:

避難所到着後はマイナンバーカードを活用して入所登録をスムーズに行い、安否を家族などに通知できる。マイナンバーカードとひもづけられた要介護認定や薬剤情報などに基づき、避難所で必要なケアも受けられる。

【復旧・復興時】生活再建支援:

スマートフォンで自宅などの周辺の被害状況、スーパー・コンビニなどの営業状況を確認できる。自宅などの被害状況を入力すると利用可能な支援制度の候補がレコメンドされ、手軽に申請できるなど、生活復旧の早期化につながる。

クリアすべき課題と解決のポイント

ただしToBe像はデータ連携基盤の構築だけでは実現できない。クリアすべき本質的な課題は「持続可能なビジネスモデルの構築」にある。

例えば、データ連携基盤の運用コスト負担の問題。単一の自治体ではなく圏域・流域全体での共同利用によりコスト負担を減らせる。さらに、風水害時に河川上流の雨量・水位情報や過去の被災実績に基づき下流の避難準備をいち早く開始できるなど、広域災害への備えも高度化できる。

ToBe像の実現のためには、①ハザード・対応情報、②パーソナル情報、③地域資源情報のデータ連携が前提となる。①は防災分野に特有だが、②と③は健康・医療・介護、インフラなどの各分野との相互運用性の確保が重要であり、ここからデータ連携基盤にのっとった革新的な住民向けサービスが生み出される。その結果、当該サービスを導入して地域課題解決の取り組みをフェーズフリー※5かつ分野横断で進めることが可能となる。

※1:2023年6月9日閣議決定「デジタル社会の実現に向けた重点計画」。

※2:2023年2月号「動き始めた官民共創による『防災DX』」。

※3:当社コラム(2023年11月)「災害時の『あるべき姿』からデジタル防災実現へ」

※4:避難を実際の行動に移す契機。

※5:日常時と非常時の両フェーズに役立てること。