マンスリーレビュー

2023年12月号特集1テクノロジーデジタルトランスフォーメーション

企業は生成AI活用で競争力強化を

2023.12.1

ビジネス&データ・アナリティクス本部中村 智志

POINT

  • 企業における生成AI活用は認知や試用を経て本番段階へ。
  • 顧客体験の改善につながる生成AIの利用を目指すべき。
  • 3つの導入ステップを経て、高い市場競争力の獲得を。

なぜ生成AIが注目されるのか

企業において、生成AIはさまざまな用途での活用が期待されている。無料で利用できる製品を使うだけでも、多くの日常業務に役立つ。社外情報の収集に始まり、メール文案作成や通達の添削、議事録作成、企画立案など、枚挙にいとまがない。全社員が使える可能性があることもあって、導入効果は極めて大きい。

当社は2023年6月に「ChatGPT緊急アンケート調査」を実施した。売上高100億円以上の大企業でデジタル変革(DX)推進に関わる社員902人を対象とし、全員から回答を得た。

デジタル技術への感度が高いと思われる回答者のうち、ChatGPTについて「理解している」の57%と「聞いたことがある」の36%を合わせると、9割強が認知している。また19%が、仕事で実際に利用した経験があると答えた。

「仕事に利用したことがある用途」の内容はさまざまであった(図1)。最も多かったのが、ウェブ検索代わりの「外部情報収集」の53.8%だった。生成AIらしい使い方として、「文章要約・翻訳」48.6%、「レポート作成」40.5%が続く。「議事録作成」「営業資料・パンフ作成」「企画書・稟議書作成」なども30%弱だった。多様な活用法を社内で実際に試している様子がうかがえる。

ChatGPTに限らず、最近では米MicrosoftのOffice製品や検索サービスなど、普段から利用するITツールにも生成AIが活用されている。企業内の生成AI利用はさらに増えるだろう。
[図1] ChatGPTを仕事で利用したことのある用途
[図1] ChatGPTを仕事で利用したことのある用途
クリックして拡大する

出所:三菱総合研究所

DXの課題を解決する切り札に

企業はこれまで苦労してきたDXの課題を解決する切り札として、生成AIに期待している。生成AIの活用を早急に検討しなければ、市場における競争力を喪失する可能性がある。

業務・ビジネスにおけるDXの課題解決に、生成AIはさまざまな効果を果たす。企業はこれまで、AIを社内でフル活用できず、業務効率をなかなか改善させることができなかったからだ。

生成AI活用の重要な効用として期待できるのは①全社員がビジネスに活用可能になる、②自動化の徹底、③顧客体験の革新の3点である。

①「誰でも」「気軽に」「何にでも」

従来の特化型AIは特定業務の限られたデータを学習するだけであり、使うのも該当する業務に携わる一部の社員だけだった。

しかし、ChatGPTのような対話型の生成AIではユーザーインターフェースが自然言語になったため、利用する垣根が大きく下がった。しかも、汎用性が高いため、多様な業務に活用できる。

日常的に利用するITツールにも生成AIを活用した製品が加わったことで、全社員が使いやすくなった。「誰でも」「気軽に」「何にでも」活用できる環境が整ってきたのだ。

②自動化で残された最後のピースを埋める

何十年も前から業務改革の必要性を叫び、近年はDXを進めてきた企業にとって、自動化は最も重要なトピックである。

しかし、直接的な企業価値につながらないノンコア業務には、人間の判断やデータチェックなど、従来の特化型AIでは自動化できないものがある。コア業務の中でも、複雑な企画業務や資料と文章の作成といった、いまだ人間が手掛けている非定型のものを自動化する場合は生成AIが活きる。

ノンコア業務とコア業務とを問わず、これまで人間にしかできないと考えられてきた最後のピースの数々までもが生成AIによって自動化されれば、その企業の競争力は飛躍的に高まるだろう。

③顧客体験の革新

DXは企業内部の業務改善にとどまらない、デジタルビジネスの変革であるといわれ続けている。その第一歩として重視されているのが、顧客体験の革新である。

生成AIは対話を通じて、顧客を多様なかたちでサポートできる。ITサービスやシステムを、メニュー画面に文字を入力するのではなく、自然言語による対話によって使えるようにするため、操作性を飛躍的に向上させられる可能性がある。

そうすれば、従来は対面で接客せざるを得なかったサービスを本格的にオンライン化する道が開ける。リアルに人と接しているかのような対話形式や、整合性があり自然に感じられる受け答えなどもユーザー満足度を高め、真の顧客体験の革新につながっている。

生成AI導入の3ステップ

生成AIは常に発展を続け、新たな活用法が編み出され続けている。このため、企業としては最適な導入の仕方を、走りながら考えるしかない。また、個別企業ごとに優先すべきものも異なる。

しかしこの1年で、生成AI導入に共通するパターンは見えてきた。どのような企業でも一足飛びに生成AIを活用する社内体制が整うことはない。体制構築の前提として、業務内容と技術活用の両面で成熟する必要がある。

当社は、生成AIを3つのステップで導入することが望ましいと考える。そうすれば生成AIのサービスを活かす土壌が社内に整うはずである(図2)。ステップ1では社員の日常業務でのデジタル活用、ステップ2では組織的なデジタル業務改革、ステップ3では真のDXとも言うべき、デジタルビジネス変革を目指す。
[図2] 企業における生成AI導入の3ステップ
[図2] 企業における生成AI導入の3ステップ
クリックして拡大する

出所:三菱総合研究所

【1】社内情報を生成AIが利用できる環境整備

各社が最初に活用するのはOpenAIのChatGPTに代表される対話型生成AIによる、チャット検索であろう。

社員個人が無料版でチャット検索を試すこと自体に問題はない。ただし、自社の秘密情報をプロンプト(質問文)に書き込むと、社外に流出するリスクがある。従って、セキュリティが十分に確保された利用環境を用意すべきである。

そのためには、社内の秘密情報を与えて仕事を任せることができる、法人向け対話AIサービスの導入が不可欠となる。

【2】生成AIで業務を効率的にアシスト

コクヨの調査によると、日本企業は社内文書の検索に1日平均20分、1年間で80時間相当を費やしているという※1。社内規則や過去の実績など特定の情報を見つけたいときだけではない。社内手続きのやり方や、社内システムの操作方法といった、手順に関する知識を探したい場合もあり、ニーズが複合的となっているのが実情だ。

しかし、従来の文書管理システムでは、キーワードを含む文書のリンクを見つけて、該当する箇所を強調表示できる程度である。

ウェブと同様に、社内文書の検索が生成AIとのチャットで可能になれば、まずは情報を得る手間が軽減される。そして、肝心なのは社内文書検索や特定様式の社内文書の下書き作成、メールやスケジュールの要約といったタスクを、生成AIが実行できるようにすることだ。

このステップまで到達すれば、社内業務の多くで自主的にDXを進めていけるようになるだろう。

【3】顧客情報を学習させて自社サービス高度化

最後のステップ3は、自社サービスの高度化である。とはいえ、まったく新しいビジネスを立案するのは難しい。まずは自社の既存サービスへの生成AI適用を検討すべきである。

生成AIを活用したサービス高度化は緒に就いたばかりだが、成功例は出始めている。初期段階では、公開情報や秘密情報を要約して提供する形態のサービスが増える。特定分野に特化した情報の提供はニーズが高いからである。

しかし、この段階ではサービス間の競争が激化していくのに対して、顧客体験(UX)※2の大きな向上が期待できない。そこで最終的に目指すべきは、顧客情報を生成AIに学習させて利用する形態である。顧客情報を活用することで、サービスのパーソナライズが加速し、よりUXを高めることができるからである。


ただし、以上の3つのステップは必ずしも順番に進めてゆく必要はない。並行して行える場合もあるだろう。

生成AIを活用した自社サービス高度化はビジネスモデルさえも変えてしまうような大変革をもたらす可能性もあるため、企業は生成AI導入の3ステップに積極的に取り組むべきである。

成熟と競争力獲得に向けて

企業のDXは、3段階で語られることが多い。データ化やネット化を進めるデジタイゼーション、業務プロセス改革に取り組むデジタライゼーション、ビジネス変革に至るデジタルトランスフォーメーションの順である。生成AI導入の3ステップは、真のDXであるデジタルトランスフォーメーションを企業にもたらす。

生成AI導入の3ステップを経ることによって、企業の現場においても新技術を積極的に業務改善に取り入れる動きが現れるだろう。ボトムアップ的な業務DX活動こそ、企業が成熟し、競争力を獲得した証左である。

VUCA時代の市場環境激変に備えて、企業は生成AI導入を契機に、新技術を自社事業の成長に取り込める社内体制をビルドアップしていくべきである。そのためにも、ぜひ生成AI導入の3ステップを体験していただきたい。

※1:コクヨのニュースリリース(2018年11月5日)「書類を探す時間は“1年で約80時間”」。

※2:User Experience:利用者がサービスや製品を使うことで得られる体験のこと。利用者とサービス・製品との接点を指すUI(User Interface)などとは異なる。

著者紹介