コラム

3Xによる行動変容の未来2030最先端技術デジタルトランスフォーメーション

原義のメタバースシリーズ 第1回:利用者の姿(後編)

捉えられるのはメタバース内の「レンズ」だけか

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2023.8.28

DX技術本部小野寺光己

3Xによる行動変容の未来2030
2021年のMetaへの社名変更から急激に注目が高まったメタバース。前編では普及の段階に着目し、現在から普及拡大期、定着期それぞれの利用者像について述べた。後編では、もう一つの軸としてメタバース特有の「アイデンティティ」の概念に着目し、利用者像を鮮明にしたい。

利用者の姿に影響を与える特有のアイデンティティ

前編では、時間軸・発展ステージごとの代表的な利用者像を考えてきた。ハードウエアなどの制約があるため普及のスピードは異なるものの、スマートフォンやそのアプリの普及と似た道をたどるだろう。だが、メタバース特有の要素もある。筆者は、「アイデンティティ」がこれにあたると考えている。

ほとんどの人は、現実世界でも属するコミュニティによって自分自身の「キャラクター」を多少なりとも使い分けているのではないだろうか。親兄弟と接する自分、学生時代の友人と話すときの自分、仕事のときの自分など、過去に築いてきた関係性や期待される役割などによって自然とその自分という人格を演じているものだ。

現実世界では、基本的に名前や外見は変えられないため、キャラクターを使い分ける程度だが、メタバースでは名前や外見(アバター)も自由に、かつ容易に変更できる。

アイデンティティの3つのバターン

下表でメタバース利用時のアイデンティティの在り方を3つのパターンに整理した。
表1 メタバース利用時のアイデンティティの在り方
メタバース利用時のアイデンティティの在り方
出所:三菱総合研究所
パターン①の同一人格型は、メタバースでも現実世界との一貫性を重視し、同一の人格かつ実名で活動するものだ。原則、実名登録が求められるFacebookを踏襲してか、Metaは今のところ、この同一人格型を前提としたサービスを展開している。

現在のテレビ会議を想像していただけるとわかりやすいが、ビジネス利用では現実の「名刺」との一致が前提となるため、現実世界に拠点を置く仕事ではこのパターンが主流になるだろう。ただし、活動拠点がメタバース内の場合は必ずしも当てはまらない。

また、アバターも現実の外見からかけ離れたものは選択しにくい。MetaのザッカーバーグCEOも、メタバース関連の発表をする際には、現実世界の自身の外見に類似したアバターを利用している。写真からアバターを生成するフォトリアルアバターという技術も存在しており、今後より高精度に再現することも可能になるだろう。

パターン②は、①とは対極的に完全に別の人格で活動するものだ。メタバース内のアバターでは、年齢や性別など現実世界の属性にとらわれず行動できる。人間の姿形である必要性もないため、動物やロボットなどのアバターも選択可能だ。すでに、VRChatなどのソーシャルVRでは、人間型ではないアバターで活動している利用者も存在する。

パターン③は、①と②の組み合わせも含め、2つ以上の人格を使い分ける多重人格型である。筆者は、定着期においては、多くの人が自然にこのパターンを選択することになると考えている。現在も、20代と30代の3割程度は、SNSで複数アカウントを使い分けている。こうした傾向を図1に示す。当社の生活者市場予測システム(mif) が2022年6月に実施した調査結果に基づいており、調査対象は過去1カ月でSNS利用経験がある2万6,376人である。
図1 SNSアカウント使い分けの状況
SNSアカウント使い分けの状況
出所:三菱総合研究所
特にTwitterでは「仕事用」「プライベート用」「ゲーム用」などアカウントを使い分けている人が多く存在する。またMMORPGなどのゲームの世界では、異なるゲームを跨いで同じキャラクターで遊べるものは少ないため、使い分ける方が自然と言ってよいだろう※1。使い分けるそれぞれの人格についてはパターン②と同様、現実世界と同じである必要はなく、コンテンツやコミュニティごとに適した人格を選ぶことになる。

いずれのパターンも、現在のインターネットの世界でもすでに存在するものではあるが、表現の自由度が高いメタバースではそれぞれの人格の特徴が際立つと考えられる。また、アバターによりバーチャル空間内の自己行動が変化するプロテウス効果※2も存在すると言われており、アバターに身を包むことで、それぞれの「アイデンティティ」がより明確になっていくだろう。

利用者像の設定を誤らないために

一般的に、商品・サービスの開発やマーケティング業務では、典型的な利用者像としてペルソナを設定し、そのペルソナのニーズに応えたり、訴求したりすることがある。ここで、メタバース利用者のアイデンティティを取り上げた理由は、前編で述べた発展ステージごとのユーザー像の違いに加え、アイデンティティのパターンによってペルソナが大きく変わる可能性があるからである。

通常ペルソナを設定する際は、現実世界の属性情報を中心として「50代男性東京在住の会社員であるXXさん」のような形になる。しかし、このXXさんが仮にパターン②の別人格型でメタバースを利用していた場合、メタバースに関する商品・サービスを検討する際に、現実世界の属性に依存した意思決定をしないのではないだろうか。

また、前編で「普及拡大期をけん引するのは学生」と述べたが、この設定も実は間違っているのかもしれない。利用者の姿を明確に捉えるためには、現実世界のレンズからではなく、メタバース内のレンズからのぞく必要がある。

本コラムでは2回にわたり、今後のメタバースの発展に伴い拡大・変化していくだろう利用者の姿を、時間軸およびメタバース特有の「アイデンティティ」に注目し考察した。

メタバース関連事業を検討している向きにとっては、現在想定している利用者の姿を見つめなおし、より自信をもって推進するきっかけになれば幸いである。ぜひキラーコンテンツを生み出し、業界としてキャズムを超えることを期待している。

なお、本コンテンツの作成にあたり、一部ChatGPTを利用し、参考にした。ChatGPTを含めた生成AIはメタバースと非常に相性が良く、メタバースの発展に寄与すると思われる。本連載の第2回では、生成AIとメタバースの関係を紹介する。

※1:任天堂が提供するサービスの使用で必要となる「ニンテンドーアカウント」など、メーカーが同じであれば同一のアカウントでプレイすることは可能だが、ゲーム内キャラクターは異なる。

※2:例えば、子供の姿のアバターでは態度や行動が子供のように変化することが検証されている。(Banakau et al.(2013))

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