コラム

3Xによる行動変容の未来2030テクノロジーデジタルトランスフォーメーション

原義のメタバースシリーズ 第2回:メタバース×生成AI(前編)

クリエイターがメタバースを変える

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2023.11.14

ビジネス&データ・アナリティクス本部髙橋一希

3Xによる行動変容の未来2030
2022年に注目を集めたメタバース、そして昨今話題の生成AI——。

生成AIの登場は、メタバースの今後にどのような影響を与えるのか。前編となる本コラムでは、メタバース上で創作活動を行うクリエイターたちの動向を紹介したのちに、アバターやワールドといったメタバースを構成する要素やそれぞれの作製工程について整理する。後編では、3Dモデルの製作工程に沿って生成AIの活用例を紹介し、生成AIの課題に触れながら「メタバース×生成AI」の将来を展望する。

メタバースのクリエイター

メタバースは、Metaの社名変更をきっかけに大きな注目を集め(詳細は第1回「メタバース利用者の姿」を参照)、日本でも自動車メーカーなど、さまざまな企業によるバーチャル空間がVRChatやclusterなどの既存のプラットフォーム(PF)上で公開された。そうした中、図表1に示すように「メタバース」という言葉の認知度は83%に向上したが、利用者は全体の5.5%にとどまっており、利用者拡大につながるキラーコンテンツは登場していないのが実情だ。
図表1 メタバースの国内における認知率・利用率の経時変化
メタバースの国内における認知率・利用率の経時変化
メタバースの既存ユーザーは、メタバースにどのような価値を感じているのか。筆者は「創作活動を通じた自己実現」がそのひとつであると考えている。メタバースが注目されるより前からバーチャルリアリティ(VR)を活用したコミュニケーションサービス※1は存在しており、一般ユーザーによって独自の文化が生み出されていた。その文化の一翼を担うのは、メタバースを構成する3D空間(ワールド)やアバターなどを作る「クリエイター」である(ワールドやアバターの定義にかかわる詳細は後述する)。

今までのメタバースは、一部のクリエイターが作製した3Dモデルによって構築されてきた。しかし、生成AIの登場により、「(生成AIで)テキストからモノを作る時代」が到来しつつある。

メタバースでは、PCやヘッドマウントディスプレイ(HMD)などのハードウエア、PFにアクセスできる環境がそろえば、創作活動に要する場所や材料などを気にせず、建物、自然など空間を製作し、PF上で場所に限定されず世界中に公開することもできる※2。大体のPFはゲームエンジン※3を使って開発するため、想像できることのほとんど(=ゲームできること)は実現可能であり、創作の自由度は非常に高い。現実世界で空間を創作することに伴う制約を想像すると、制限事項が少ない空間の自由な創作活動はメタバースならではの価値ともいえる。公開した創作物へのオーディエンスのリアクションもまた、PFやSNSを通じた重要な価値のひとつといえる。

メタバースでも「UGC」「クリエイターエコノミー」など、PFのユーザーであるクリエイターによる創作活動とそれに伴う経済活動が注目されている※4。その本質は、メタバースが、ユーザーに「自由な創作の場」を提供した点にある。

メタバース創作活動でのハードル

ユーザーが自由な創作の場を得た一方で、創作に必要となる「モノを形にする技術、知識」などはどうだろうか。以降はメタバースを構成する要素とその製作工程を紹介し、創作活動を妨げるハードルについて考えてみたい。

当社が定義するメタバースは、エージェント(アバター)とオブジェクト、これらを内部に含むバーチャル空間(ワールド)によって構成されており、既存のPFともおおむね共通している。図表2に、MRIが定義する3つの基本要素(①アバター②ワールド③オブジェクト)とそれぞれの3Dモデルの画像を示す。
図表2 メタバースを構成する3Dモデル
メタバースを構成する3Dモデル
出所:①はVroid Studio(ピクシブ株式会社)で筆者が作製。②、③はcluster上の当社バーチャル会議室の画像。
①アバター:物理空間のユーザーが操作するメタバース空間上の分身である(ただし人型に限らない)。

②ワールド:メタバースを構成する空間の3Dモデルである※5

③オブジェクト:アバターやワールド以外の3Dモデルを指す。オブジェクトの扱いはプラットフォームごとに異なり、ワールドに依存する場合、ワールドと分離してユーザーが自由に持ち出したり、持ち込んだりできる場合がある。

多くの既存PFは、三次元の仮想空間をベースとしており、各要素は3Dモデルである。図表3に示すように、各要素の作成工程において、A.準備・構想、B.モデリング、C.マテリアル設定は土台部分であり共通部分が多い。
図表3 メタバースを構成する3Dモデルの基本的な作成工程
メタバースを構成する3Dモデルの基本的な作成工程
出所:三菱総合研究所
A.準備・構想:現実世界での創作活動と同様に、製作するモノの参考になる情報・画像を収集し、完成像を描く。

B.モデリング:Aでイメージした完成像に向けて3Dモデリングソフトウエア等で3Dモデルの形状を作る。その際、Aで準備した画像を下絵として用いることもある。

C.マテリアル設定:Aで作成した形状に、3Dモデリングソフトウエアやゲームエンジンなどで、質感、色味などの見た目の情報を設定する。

上記工程で個人が製作する場合、規模によるが数日から数カ月の時間を要することが一般的である※6。また各工程を理解するには、3Dモデリング、3DCG、ゲームエンジン、プログラミングなど広い領域の知識が必要であり、それぞれの学習コストも高い。こうした理由から、メタバース上の創作活動における技術・知識的なハードルは高いといえる。

生成AIが創作活動に与える影響

ここまで紹介してきたように、メタバースは、ユーザーに自由な創作の場を提供したが、ユーザーに必要な技術・知識的なハードルは高い。一方で、近年の生成AIの進歩により、こうした認識は着実に変化しつつある。画像生成AIによる2D画像の自動生成、GPTなどの大規模自然言語モデルによるプログラム作成支援など生成AIがメタバースの創作活動における一部を簡略化し始めた。さらには、テキストから直接3Dモデルを生成するAIも発表されている。

生成AIの活用については、著作権の扱いなど、まだ議論がなされている段階である。また、生成AIを使った画像、3Dモデルを作るためのノウハウや技術の習得には相応のコストも必要となる。それでも、生成AIの出現と発展は、メタバースでの創作ハードルを低減させることは間違いない。後編では、生成AIの活用事例を紹介しながら、メタバース上の創作活動の変化を知り、メタバース×生成AIの将来について考えてみたい。

※1:ソーシャルVR、VRSNSなどと呼ばれる。代表的なPFであるVRChat(VRChat Inc.)は2017年にSteamで早期アクセスを開始した。

※2:メタバースのPFは、PF内で創作活動を完結できないケースもある。例えばVRChatでワールドやアバターを公開する場合には、PCからPF指定のゲームエンジンで専用のツールを利用してアップロードする必要がある。一方で、cluster(クラスター株式会社)は簡易的なワールド作製機能がPF内にも用意されている。

※3:UnityやUnreal Engineなど、従来ゲームの開発に利用されてきたソフトウエアを指す。例えばVRChat、clusterではUnityを利用している。

※4:メタバース上の創作活動に、経済活動(金銭の授受)が必ず伴うわけではない。

※5:筆者は、「無数のワールドがPFに依存しない形でシームレスにつながる」ことが理想的なメタバースに必要と考えている。その観点では、ワールドは「メタバースを特定のテーマなどで切り出した最小単位」とも言える。

※6:工程を簡略化するために市販の3Dモデルなどを代用する方法もある。その場合、コンテンツマーケットで個人・団体が作成した無料・有料の3Dモデルなどを利用する方法が考えられる。一方で、コンテンツごとに法人が商業利用可能かどうかなど規約・権利周りが整備されていないケースもあり、法人の利用には権利者への問い合わせが必要な場合がある。

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