マンスリーレビュー

2023年12月号特集2テクノロジー経営コンサルティング

生成AIによるビジネスのオーダーメード化

2023.12.1

生成AIラボ勝山 裕輝

テクノロジー

POINT

  • 生成AIは複雑化するホワイトカラー業務を強力に支援できる。
  • 作業を支援する「後輩」にも、創造的業務を相談できる「先輩」にもなる。
  • オーダーメードなサービスの低コスト提供でビジネスモデル変革を。

対応が求められる非定型業務の負荷増加

近年の急速な社会変化と技術進展により、ビジネス環境は不確定要素に満ちている。特に複雑化の著しいホワイトカラー業務では、何をすればよいかが不明確になり、個人の負担が増加している。

定型業務については、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)や経費精算システムなどのITツールが導入され、効率化が進んできた。一方、毎回やり方が異なる非定型業務は引き続き、ホワイトカラーにとって負担となっている。ChatGPTをはじめとする生成AIは、複雑化する業務を支援する強力なパートナーとなる。

生成AIは非定型で創造的な業務を強く支援

生成AIの役割の一つは、非定型な業務を自動化し、煩雑なタスクから人間を解放することだ。その際は業務をプロセスごとに分解し、期待どおりの結果が得られるよう誘導することが重要となる。

例えばメール文面を作成するには①用件を整理し、②内容をインプットして文案を考え、③読み手に合わせて文面を整え、④内容を校正する、という4ステップを踏むことで、伝えたい内容を含めつつ、相手に合わせた文章を作り出せる。

業務プロセスを整理し、どの情報をインプットし、どのようなアウトプットを得たいかを生成AIに入力して、時には人手やRPAも組み合わせれば、企業は業務プロセスを再定義できる。

生成AIは創造的な業務の相談相手にもなる。広く流通している豊富な情報をもとに、アイデアを数多く出すのが得意だからだ。複数の立場や観点からの評価や、業務を進めるプロセスを尋ねることも可能だろう。

実は本稿も、内容の草案をもとに生成AIに構成を考えてもらい、活用事例のアイデアを提示させ、レビューを経て完成した。ただしAIの答えには誤りも多いため、最終的な決定は人間がすべきだ。業務の方針や戦略を共に考えれば、ビジネスの意思決定の高速化につながる。

生成AIは日々の作業を任せられる「後輩」のような存在にも、創造的で答えのない業務を相談できる「先輩」にもなる(図)。必要に応じて役割を分担させればプロセスに沿って情報収集を行わせ、分析・考察してもらう、などの使い方も可能だ。
[図] 先輩AIと後輩AIによる業務の変革
[図] 先輩AIと後輩AIによる業務の変革
出所:Adobe Fireflyの画像生成結果をもとに三菱総合研究所作成

生成AIとの協業でオーダーメードの価値提供を

営業・マーケティング、企画立案、調査分析の各分野について、具体的な活用例を紹介する。

<営業・マーケティング>

この分野ではデータ分析や顧客ニーズ把握に役立つ。ChatGPTのAdvanced Data Analysisなどの生成AIであれば、従来はデータサイエンティストが担っていた顧客データ分析や購買予測も、自然な言葉で指示するだけで行える。

個別マーケティングや効果的な営業活動にも貢献できる。例えば、営業時のヒアリング内容を、生成AIが予算、決裁者、ニーズなどの項目別に整理して、営業日報システムに自動登録することも可能だろう。さらに、顧客ニーズを的確に把握して、成約率を高める戦略も提案してもらえる。

<企画立案>

新事業企画、DX企画などの立案業務においても生成AIは有用である。情報収集、アイデア出し、検討プロセスの提示、多様な視点からのレビューを通じて素早く効果的な企画立案を支援する。企画の初期検討期間が短縮されれば、複雑な市場環境や多様なステークホルダーに対して、人間は迅速かつ的確な意思決定を行える。

<調査分析>

変化の激しいビジネス環境の把握には継続的な情報収集と分析が重要だ。生成AIは収集した膨大なデータを分析・要約して適切な知見を提示する。当社は自社開発のWebサーベイAI「ロボリサ®」※1を数百人の研究員が利用し、年間4,000時間超の業務効率化がもたらされたと推定している。

調査・分析の自動化は業務効率化にとどまらない。従来は専門スタッフが担っていた情報収集・分析を役員などの意思決定者が短時間で正確に直接実施すれば、企業全体が急速な市場変化にも素早く戦略的に対応できるからである。


人間と生成AIとの協業で市場動向を素早く捉え、個別の顧客ニーズに合わせて企画立案を何度も実施し改善すれば、顧客ごとにオーダーメードのサービスを低コストで提供可能になる。

画一的なサービスを大規模に提供する時代は終わった。ビジネスの個別最適化こそが次の時代の武器となる。企業は生成AIによる飛躍的な効率化を通じ、ビジネスモデル変革も進めるべきだ。