コラム

経営戦略とイノベーションテクノロジー経営コンサルティング

グローバルな技術動向

リアルへの還流がもたらすバーチャルエコノミーの将来 第3回

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2023.3.31

経営イノベーション本部松浦泰宏

中井亮太朗

経営戦略とイノベーション
本連載は、当社が国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から受託した『第3期「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」課題候補に係るフィージビリティスタディ』(第3期SIP「バーチャルエコノミー拡大に向けた基盤技術・ルールの整備」)の調査結果を、全3回にわたり紹介するものです。

最終回となる今回は、世界のバーチャルエコノミー関連技術の動向について紹介します。特許出願状況の観点から分析を行い、これからの日本および国内企業が注力すべき技術・市場について考察します。

概観:世界の特許出願数は増加傾向が続く

まず、グローバルな動向を、特許出願の観点から概観します。近年、世界全体でバーチャルエコノミー関連の特許出願件数は増加傾向にあります(図表1)。2017年まで増加を続けた後に落ち込みましたが、再び増加に転じました。
図表1 【グローバル】バーチャルエコノミー関連特許出願件数推移
【グローバル】バーチャルエコノミー関連特許出願件数推移
出所:NEDO『第3期「戦略的イノベーション創造プログラム」課題候補に係るフィージビリティスタディ』の調査結果を基に三菱総合研究所作成
2010年以降のグローバル特許出願を、キーワードの類似性でクラスタリングしてマップ化したものが図表2です。拡張現実(AR)・仮想現実(VR)や、画像処理・ヘッドマウントディスプレイ(HMD)、視覚以外のセンサー、デジタルツインのようなサイバーフィジカルシステムズやスマートシティなどの9領域に大きく区分できました。現在までの総出願件数を見ると、特にVRや画像処理・HMD、データ/データ処理領域に関連したキーワードで多くの特許が出願されており、関連技術の研究開発が進んでいることが伺えます。
図表2 バーチャルエコノミー関連特許の分類 俯瞰図
バーチャルエコノミー関連特許の分類 俯瞰図
出所:NEDO『第3期「戦略的イノベーション創造プログラム」課題候補に係るフィージビリティスタディ』の調査結果を基に三菱総合研究所作成

経年推移:2019年以降は広域・集団でのサイバー空間利用の技術開発が活発に

9つの技術開発領域における特許出願数をさらに詳しく見ていきましょう。図表3は、年代ごとに注目領域がどう推移してきたかを示しています。2018年まではAR/VRおよびそれらに重要なHMDや画像処理のような個人向けのサイバー空間利用と、個々のデバイス関連の技術開発が中心であることがわかります。

2019年以降は、VRやHMD、画像処理など視覚に関連した技術開発は既にピークを過ぎて減少傾向にあります。また、触覚以外の感覚に関するセンサー・デバイスの技術開発はいまだ活発ではありません。一方で、デジタルツインやスマートシティのような広域・集団でのサイバー空間利用の技術開発が活発化し、注目される技術開発領域が個人・個々から広域・集団にシフトしています。

そして、デジタルツインやスマートシティ領域の出願件数が本格的に増えるのはこれからです。リアルタイム性やデータ基盤・デバイスの安全性など、社会実装に向け解決しなければならない課題がまだ多いものと考えられます。今後は、より多くの企業が関与しながら研究開発が加速していくものと予想されます。
図表3 【グローバル】バーチャルエコノミー関連特許出願状況 経年推移
【グローバル】バーチャルエコノミー関連特許出願状況 経年推移
注:直近2年間は公開前の特許が多いため、2019-2022の4年分を実質3年分とみなす。

出所:内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) バーチャルエコノミー拡大に向けた基盤技術・ルールの整備 社会実装に向けた戦略及び研究開発計画(案)」
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sip_3/keikaku/12_virtualeconomy.html(閲覧日:2023年3月24日)

主要国動向:中国、米国に大きく引き離される日本

それでは、バーチャルエコノミー関連の技術開発が進んでいる国はどこでしょうか。

主要国別(出願人国籍別。以下同様)に現在までの総出願件数を見てみると、1位中国、2位米国、次いで日本、韓国、欧州、ドイツと続きます(図表4)。日本は3位ではありますが、2強である中国・米国との差は非常に大きいことがわかります。

また、主要国別に出願件数の推移を見ると、2010年代前半までは米国が最も多かったものの、2015年以降は中国がトップを維持し続けています(図表5)。
図表4 【主要国別】バーチャルエコノミー関連特許総出願件数
【主要国別】バーチャルエコノミー関連特許総出願件数
出所:NEDO『第3期「戦略的イノベーション創造プログラム」課題候補に係るフィージビリティスタディ』の調査結果を基に三菱総合研究所作成
図表5 【主要国別】バーチャルエコノミー関連特許出願件数推移
【主要国別】バーチャルエコノミー関連特許出願件数推移
出所:NEDO『第3期「戦略的イノベーション創造プログラム」課題候補に係るフィージビリティスタディ』の調査結果を基に三菱総合研究所作成
続いて上位4カ国の、技術開発領域別の出願状況に着目してみます(図表6)。中国の技術開発は9つの領域に満遍なく広がっており、特にデジタルツインやスマートシティなど広域・集団でのサイバー空間利用の技術開発に注力していることがわかります。

一方、米国は集団・広域利用領域が少なく、AR/VRやウエアラブル、触覚デバイスなど個人・個別利用領域に集中しています。日本はHMDや画像データ表示に集中しており、この領域では中国・米国に匹敵していることが伺えます。また、他国であまり活発ではない触知センサーの技術開発も相対的に進んでいることがわかります。韓国は拡張現実や画像情報、車両などのキーワードに関連する一部領域で特許出願が進んでいるものの、それらの領域も中国・米国ほどの出願件数には至っていません。
図表6 【主要国別】バーチャルエコノミー関連特許出願状況
【主要国別】バーチャルエコノミー関連特許出願状況
出所:内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) バーチャルエコノミー拡大に向けた基盤技術・ルールの整備 社会実装に向けた戦略及び研究開発計画(案)」
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/sip_3/keikaku/12_virtualeconomy.html(閲覧日:2023年3月24日)

日本が注力するべきは「デジタルツイン」と「センサー・デバイス」

今回は、各国の特許出願状況に着目し、バーチャルエコノミー関連の技術開発動向を紹介しました。

バーチャルエコノミーは今後も世界的にさらなる拡大を遂げていくことが予想されますが、特に「市場成長が見込まれるデジタルツインに関連する技術」および「世界的にまだ手薄なセンサー・デバイスを中心としたインターバース関連技術」では必要な技術レベルに達していないことが伺えます。

デジタルツイン領域は、特許出願数こそ増加傾向にあるものの、世界的に未完成の市場と捉えられます。センサー・デバイス領域については、視覚以外の五感を活用した技術開発がいまだ発展途上であり、一部センサーに強みを持つ日本に参入機会があります。これらの領域こそ、今、日本および国内企業が注力すべき領域であると考えられます。