自律分散・協調で災害復興への備えと持続可能な地域の両立を

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2021.3.1

スマート・リージョン本部白戸 智

防災・リスクマネジメント

POINT

  • 東日本大震災の復興はハード偏重でコミュニティや産業の再生に遅れ。
  • 次なる大規模災害では地域主導の自律分散・協調型の復興が必要。
  • 「3Xと共領域」による地域の自律・連携加速と国・自治体の役割見直しを。

1. 将来のために復興10年の教訓を踏まえた社会変革が急務

東日本大震災の甚大な被害に対し、国は大規模な財政投入などを通じて復興を支援してきた。しかし、本来地域の自主性尊重を趣旨とする復興交付金に実質上の用途制約が設けられるなど、国主導の仕組みがハード偏重の復興をもたらした。震災10年を経て、コミュニティや産業の再生、被災者支援などソフト面で多くの課題が残されている。

甚大な被害が予想される南海トラフ地震や首都直下地震が起きた場合に、同じことは繰り返せない。今後10年をめどに進めたいのが、防災対策にとどまらない自律分散・協調型の国土・地域づくりと、復興の仕組みを地域主導に転換させることである。

2.地域主導で自律分散・協調型の復興を

東日本大震災では、津波による庁舎被災などで自治体機能が大打撃を受け、行政サービスの著しい低下は住民の避難長期化の一因となった。行政と住民、企業や専門家・研究者などの間で十分なコミュニケーションが行えなかったことも復興の大きな足かせとなった。被災者の移動が広域化した中で、もともと人口減少下にあった各自治体が人を戻す前提の計画しか立てられなかったことが復興の目標を見誤らせた。

地域が正しく復興の方向性を描けなかったこの教訓を踏まえ、次なる大規模災害で地域主導の復興を実現できるよう、平素から行政機能やコミュニティ機能などを強化し、地域の「自律性」を高めておく必要がある。復興に関係する人財・情報などのリソースを一カ所に固めず分散させ、これらを強い連携で協調させる、分散協調型の復興も重要となる。地域の自律や連携が進めば、少子高齢化や人口減少、地域経済の衰退といった長期的課題が解決されるとともに、持続可能な国土の形成にもつながる(図)。
[図] 震災対策を持続可能な国土形成につなげる流れ

3.求められる「3X」と「共領域」の導入加速

こうした自律分散・協調型の復興を実現するには、当社が提唱する3つの革新技術である「3X」※1の徹底活用と、新たなコミュニティ「共領域」※2の構築が不可欠となる。

3Xはデジタル(DX)、バイオ(BX)、コミュニケーション(CX)の各分野を指す。自治体がDX導入を加速させれば、巨大災害後も行政サービスを安定供給できる。BXとCXが進化すれば、遠隔医療や遠隔教育などが浸透し、人口減少や災害復興のもとでも住民の生活安定を実現できる。DXとCXによってリモートワーク普及や仮想空間活用が進み、居住や職業選択の自由度が高まれば、災害危険地域からの移住も容易になる。

共領域は、3Xによって実現する未来型のコミュニティである。地縁・血縁や経済活動をベースとする従来型のコミュニティを補完する、空間の制約にとらわれない、価値観を共有する人同士、主体同士のつながりだ。特に少子高齢化や人口減少が進む地域では、既存の地域コミュニティの活力低下を補う意味でも、物理的な距離を超えた、地域の人や地域を応援したい人との新しい「つながり」の形成が急務となる。

域内外での住民の互助関係が平時から構築されていれば、災害時や復興期においてもオープンな助け合いや協働が可能になる。住民、行政、企業といった多様な主体による復興時の協力も円滑化し、地域の災害対応力や互助機能は大いに強化されていく。自治体同士、地域同士の広域的な連携は、復興時の効果的な協働につながるだろう。

コロナ禍も変革を後押しする。感染防止のための長期行動制限や生活様式の変化を経て、10年前の東日本大震災発生時には考えられなかった変化を、社会全体で受容する意識が強まっている。まさに今が、地域社会の変革に着手するタイミングである。

4.国と自治体の役割分担も見直しを

地域の自律性の強化と並行して、復興時の国と自治体の役割分担についても見直しを図るべきである。巨額な復興財源確保は引き続き国の責務であるが、交付金の用途制約撤廃や、取り崩し型の復興基金の拡充などで、地域が主体的に使える財源を確保するほか、東日本大震災において復興庁が担った財源配分や広域調整などの役割も、地域の自律的復興の支援、地域間の相互調整などにシフトしていく必要があろう。

また、被災者への継続的支援は復興の基礎である。遠隔・長期の避難や震災による移住後も切れ目ない支援を受けられるよう、避難者の登録情報の一元的な管理と国と地域での共有、それに基づく継続的支援の準備を進める必要がある。

南海トラフなどからの復興に備えることは、少子高齢化などの日本の長期的課題にも備えることである。コロナ禍に苦しむ今だからこそ、先手を打って変革に取り組みたい。

※1:デジタル・トランスフォーメーション(DX)、生命科学に関するバイオ・トランスフォーメーション(BX)、コミュニケーション・トランスフォーメーション(CX)から成る。DXとBXの融合でCXが導き出され、時間・空間に依存しない人間同士の「つながり」が実現する。
MRIマンスリーレビュー2021年2月号特集1「未来社会を切り拓く『3Xと共領域』」

※2:「公」と「私」との二元論が限界に達しているとの認識から、その間に強化すべき公私の協調領域として「共領域」を定義した。