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2021年3月号トピックス2経済・社会・技術テクノロジー

デジタル化の先に求められるリアル需要

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2021.3.1

政策・経済センター酒井 博司

経済・社会・技術

POINT

  • コロナ禍で財・サービスのデジタル化が加速し消費者の満足度は増大。
  • デジタル化を進めるだけでは生産者の付加価値が縮小する。
  • デジタルとリアルの融合で消費者・生産者の余剰を共に高めよう。
コロナ禍に伴う外出自粛を背景に、娯楽や教養に関するコンテンツなど、デジタルの財やサービスを購入する消費者が増えている。増加する「巣ごもり需要」をにらみ、企業の側も商品のデジタル化を急速に進めている。

だが、デジタル一辺倒には落とし穴がある。消費者と生産者が市場取引から得る総便益を、消費者が得る満足度を示す「消費者余剰」と生産者が受け取る付加価値である「生産者余剰」から整理すると、デジタルとリアルの差が明らかになる(図)。消費者余剰は消費者が最大限払ってもよいと考える価格と実際の取引価格の差に基づく。価格に比して利便性の高いデジタルの財・サービスの消費者余剰は大きい※1。それに対し、デジタルの生産者余剰は極めて小さい。複製や配送がリアルの商品に比べて非常に容易なデジタルデータの例からも明らかなとおり、デジタルでは取引量の増加に伴う追加的費用である「限界費用」がほぼゼロなため、供給曲線がフラットになるからだ。

商品のデジタル化が進展するに伴い消費者余剰は増加するものの、生産者余剰の縮小は懸念材料となる。利潤や人件費の源泉である生産者余剰の縮小は、企業がデジタル化を推進するインセンティブをそぐほか、新しい財・サービス創出のための開発活動の停滞や従業員の雇用悪化にもつながる。経済が縮小均衡に陥らぬよう、企業はデジタル化のもとでも生産者余剰を増加させる工夫が必要である。

例えば、旅行について仮想ツアーを呼び水としてリアルな需要を喚起したり、家事に関して業種の枠を超えた企業がデジタルでつながり一元的なサービスを提供するなど、いかにリアルの要素を取り込んでいけるかが鍵となる。

デジタルとリアルの融合の概念は以前から、政府が提唱した未来社会のコンセプト「Society5.0」※2などでも示されていた。ここにきてコロナ禍は、教育や医療、娯楽などの分野でデジタルの有効性を認知させる一方、デジタルだけでは満たされないリアル価値の再評価ももたらした。デジタルとリアルの融合を進め、新たな需要を創造する機は熟しているのである。

※1:例えばオランダのオンライン調査からデジタルサービスの需要曲線を導出して消費者余剰を推計したBrynjolfssonらは、WhatsAppのオランダGDPへの寄与度を4.1%、Facebookは同0.5%程度と試算している。               
Brynjolfsson. E, et al.(2019), GDP-B: Accounting for the Value of New and Free Goods in the Digital Economy, NBER Working Paper, 25695.

※2:狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5番目の新たな社会として2016年に閣議決定された第5期科学技術基本計画で示された。仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムによって経済発展と社会的課題の解決を両立させる人間中心の社会であるとされている。

[図]デジタルとリアルの財・サービスにおける消費者余剰と生産者余剰を比較

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