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3Xによる行動変容の未来2030最先端技術

AIロボティックスの社会実装:将来展望2

知能機械が切り拓くDXと自動化のポテンシャル

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2024.6.5

先進技術センター中村裕彦

3Xによる行動変容の未来2030
AIを活用した「知能機械」の登場により、情報関連サービスに加え、モノに関連するさまざまな事業のDX化が加速しています。知能機械は今後、フィジカル空間とサイバー空間を融合させた「サイバーフィジカルシステム」として機能し、DXの可能性をさらに押し広げていくはずです。ただし生産性・利便性の向上には引き続き「人」が大きな役割を果たすと考えられ、機械との適切な作業分担が欠かせません。第2回は、知能機械がDXにもたらす影響や、生産性向上に向けた知能機械導入の指針について解説します。

モノと情報の連動で進むリアルワールドのDX

さまざまな分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けた取り組みが幅広く進められています。DXは、情報のデジタル化はもちろん、デジタル化を活かした新たな製品・サービスの開発や各種プロセスの効率化、さらにはデジタル化を前提とした組織や社会システムの再構築へ、と進展していくことが期待されています。

情報が中心的な財となる保険や金融、映像やソフトウェアなどのコンテンツ産業はDXしやすい領域で、デジタルを活用した新たな商材やサービスの具体化例が豊富に存在します。またデジタル技術の活用で、今まで困難だった個々の顧客との直接的なネットワークが維持でき、継続的なサービス提供に繋がっているといった事例も報告されています。

一方、モノの製造・加工・組み立てや輸送に関する産業の場合、管理業務や設計など、情報の処理・加工が中心となるタスクと、成型・加工、組み立て、流通などのタスクではDXの難易度が異なります。そのため、情報の処理・加工タスクにおけるデジタル化が先行し、モノに関する情報は、検品や出荷段階など、いくつかのチェックポイントで得られる間欠的なものに限られていました。

近年、この状況は変わりつつあります。各種自動化技術の進展により、データの収集・処理コストが大幅に低下したことに加え、原料から最終製品の利用、廃棄に至るライフサイクル全体を見た新たなビジネスへの期待などから、モノにさまざまな情報を紐づけて流通させることが現実的に可能となりつつあります。部品単位で超小型バーコードなどで製造情報を添加する技術、材料自体に不可視の情報を添加物として混合する技術などはその代表例といえます。

近い将来のリアルワールドのDXは、モノと情報が連動してセットで流通するものになると期待されます。

知能機械が加速するサイバーとフィジカルの融合

情報の処理が中核になるようなタスクの場合、自動化の主役はAIになります。データベースやメモリなどから読みだされたデジタルデータはAIによりさまざまな処理が施され、出力されます。この出力データを新たな入力データとすることで、複雑な情報処理を自動化することができます。人が関与するのは最初の実行開始を指示するためのスイッチ操作と、処理結果をディスプレイで受け取る部分のみですので、大幅な省力化が図れます。なお、ここで「スイッチ」は、単純なスイッチに加え、キーボードや音声・ジェスチャーコマンドなど、人が関与する操作一般を意味し、「ディスプレイ」は視覚系の一般的なディスプレイに加え、音響や触覚刺激など、人が認識できるあらゆる形式で情報を表示する機能全般を意味します。
 
一方リアルワールドのタスクの多くはモノの移動や加工が関与しますので、リアルワールドの情報をデジタルデータ化するセンサー、データを処理するAI、処理した出力データをリアルワールドの物理・化学的効果に変換するエフェクタの連動が必須です。モノの状態をセンサーで把握し、状態に応じて必要な処理方法をAIで分析し、分析結果に基づき、エフェクタで処理するという流れで1つのサイクルが完了します。これにより変化したモノの状態をセンサーで把握し、新たなAI処理、エフェクタ処理という新たなサイクルを組み合わせることで複雑な成型・加工・組み立てが自動的に進行します。
 
AIにより柔軟かつ複雑な動作が可能になった機械を「知能機械 」と呼びます。上記の自動化をAIを中心にしたデータの流れから見ると、対象が情報か物質かにかかわらず、知能機械がさまざまなタスクを自動化させ、サイバーフィジカルシステムとして機能していることが分かります。サイバーフィジカルシステムとは、現実(フィジカル)空間と仮想(サイバー)空間をシームレスに融合させたシステムを指します。フィジカル空間で得たデータをサイバー空間で分析し、その結果を再びフィジカル空間にフィードバックするなどにより、新たな価値創造や課題解決に貢献するものです。知能機械の発達は、サイバーフィジカルシステムの可能性を加速していくはずです(図1)。
図1 知能機械のサイバーフィジカルシステム
知能機械のサイバーフィジカルシステム
三菱総合研究所作成

自動化ポテンシャルを広げる「柔軟なAI」の登場

さまざまな産業で生産性の向上を狙い、機械化や自動化が進んでいますが、産業によりその段階は異なります。

最も機械化・自動化が進展している工業の場合、AIが高度になり、柔軟な制御ができるようになるにつれて機械化、部分的な自動化、高度自動化へと自動化のレベルが進展しています。

特に、規格品の工業的な大量生産のような場合、AIが単純制御レベルであっても部分的自動化が実現できており、AIが高度になるにつれ自動化の範囲が拡大しています。

一方、人や自然を相手にする農業などでは自動化の難易度は高く、単純制御レベルのAIでは機械化さえも限定的です。近年まで、機械化ができている部分は、人や自然を均一な工業品的なものとして取り扱うような場合(例えば小麦の大規模収穫など)に限られていました。そのため、永年作物の摘果や採集など、柔軟な操作が必要になるような作業はもっぱら人力に依存していました。最近、柔軟な制御が可能なAIが実用的なものになったことで、機械化できる領域が拡大し、部分的な自動化の段階への移行が進み始めています。

工業分野で多品種・少量生産のような柔軟性のある制御が必要となる領域、あるいは自然物を工業製品的に取り扱う領域は、この中間的な自動化レベルにあります。柔軟な制御ができる高度なAIが成熟するにつれ、多品種少量の中小規模工業や、自然物をある程度工業品的に取り扱えるような領域にも自動化機械の導入が広がり、生産性向上や労働負荷の軽減が進むと期待されます。

この関係を図2に示します。
図2 AIの性能レベル・操作の柔軟性ニーズと自動化の段階
AIの性能レベル・操作の柔軟性ニーズと自動化の段階
三菱総合研究所作成

適切な段階の知能機械で生産性と利便性向上を

多くの産業のうち、最も産業用ロボットの導入が進んでいる領域の1つとして自動車産業を挙げることができますが、この産業でさえも、労働者1万人あたりのロボットの導入数は1,000程度に過ぎないことが知られています。単純な規格品の大量生産であっても完全自動化に至っている製品はほとんどありません。この状況は今後とも変わらないと考えられますので、人と知能機械の適切な作業分担が生産性と利便性向上のカギとなります。

より複雑かつ柔軟な制御が必要となる産業の場合、人の役割が今後とも大きな部分を占めると考えられます。このような状況でも機械化・自動化への指向は重要ですが、急速すぎる移行はかえって生産性を低下させることになりかねません。産業ごと、企業ごと、それぞれの事情に応じた適切な段階の知能機械を導入することが望まれます。

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