コラム

3Xによる行動変容の未来2030最先端技術

AIロボティックスの社会実装:人と協調するソフトロボット2

自分で日々メンテナンスし人と共生するロボット

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2024.8.21

先進技術センター大山みづほ

3Xによる行動変容の未来2030
人との協調に強みのある「ソフトロボット」は、その柔らかさから特に材料の劣化が課題となっています。日々のメンテナンスや定期交換には、時間や費用に加えて手間もかかります。本コラムでは、壊れかけたら自力で治る「自己修復材料」のロボットへの適用とその未来の姿について考察します。

柔らかい材料の課題は「劣化」

人との共存に適したロボットとして、ソフトロボットが注目されています。工場などで活躍する力強く硬いロボットとは異なり、ソフトロボットは柔らかく「いい塩梅」※1で駆動することから、人との共同作業に向いています。しかしソフトロボットに用いられる柔らかい材料は、一般的に硬い材料よりも劣化しやすいという課題があります。これらの材料を使ったロボットを本格的に利用していくには、劣化への対策が必要です。

消耗品として劣化したパーツを交換することもできますが、コストや環境影響、交換時間などの課題を解決できる、「自己修復材料」が注目されています。

補修する材料、再生する材料

損傷部分を自ら修復できる材料を「自己修復材料」と呼びます。図1のように、自己修復材料を修復メカニズムによって大きく2つに整理しました。1つは損傷部分を補修する「補修型」、他方は損傷部分を再生する「再生型」です。
図1 修復メカニズム別 自己修復材料の整理
修復メカニズム別 自己修復材料の整理
三菱総合研究所作成
「補修型」では熱や空気に反応して固まる薬剤などを、事前に材料内部に仕込むことで、機能が元の状態に戻ります。損傷部分で反応した薬剤が亀裂を埋め、損傷の拡大を防ぎ利用を継続できます。例えば、構造材料の中に薬剤などを事前に注入しておき、加熱により亀裂を充てんするケースや、コンクリートがひび割れると、入ってきた酸素や水分によって、事前に仕込んでおいた「バクテリア」が活動し亀裂を充てんするケースなどがあげられます。別の物質を結晶の境目などに入れているため、元の材料のリサイクル性や強度に課題がありますが、無機材料を中心に比較的広く用いることができる手法です。

「再生型」では、材料自体が持つ特性によって損傷した機能・外見が共に元の状態に戻ります。有機材料が主で、化学反応などによって損傷を元通りにするという手法です。例えば、熱可逆性のある材料で加熱による損傷が冷却によって修復する例や、圧着によりひびが接合するガラスなどがあります。修復のメカニズムの違いを以下に示します(図2)。
図2 修復メカニズムの違い
修復メカニズムの違い
三菱総合研究所作成

人とロボットが共に暮らす未来

現在の自己修復材料は、その多くが部分的な修復にとどまっていること、修復時間が数時間~数日と長いことが問題となっています。これらの解決や緩和が実用化のカギになります。

また、自己修復材料の再生型は、究極的には生物が保有している自己再生能力につながります。例えば、人間の擦り傷が数日で治ることをイメージしてください。熱や圧力などの外的刺激がなくても、損傷部分が自己再生するようになれば、ロボットが自律的に自らを修復し、メンテナンスフリーで駆動することができます。難度は高いですが、生物の自己再生能力を獲得すれば、ソフトロボットの寿命は飛躍的に伸びるでしょう。

すでに、生体を模したドライウェットハイブリッドロボット※2の開発なども始まっています。屈強さが必要な部分は金属など固い材料で作る一方、人と触れ合う部分は有機物など柔らかい材料をベースとし、潤滑剤などをロボットの体に循環させることで、自己修復も可能とする試みです。

材料の自己修復時間の短縮、自己修復能力の向上によって、それらの材料を用いるソフトロボットの利用の姿は大きく変わるとみられます。例えば、損傷しやすいパーツをとりはずせるようにし、そのパーツをリペア液に浸けて修復している間はスペア部品をロボットに取り付ければ、正常状態のロボットをいつでも使うことができます。環境への影響やコストの面でも価値が高いといえます。あるいは、ロボット全体を修復できるようになれば、ロボット掃除機の充電ポートのように、ロボット全体をリペアポートで毎日修復し、少しの破損を日々修復しながら長く使用することもできるでしょう。生物のような自己再生ができるようになれば薬液やポートなどの外部環境も不要になり、ロボットは自力で損傷部分を修復し、自律的に活動することができます。ソフトロボットはより身近な存在となり、介護やコミュニケーションなど人と協調する場面でより普及していくと考えられます。

※1:AIロボティックスの社会実装:人と協調するソフトロボット1 「いい塩梅」の駆動技術で人との共生を目指す(3Xによる行動変容の未来2030 2024.6.28)

※2:国立研究開発法人 科学技術振興機構「人に寄り添って家事や医療・福祉を支援、スマートロボットでつなぐAIと社会」(JST news 2024年3月号)
https://www.jst.go.jp/pr/jst-news/backnumber/2023/202403/pdf/2024_03.pdf(閲覧日:2024年8月19日)

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