マンスリーレビュー

2024年2月号トピックス2テクノロジー

物流の未来を「自動運航船」で拓く

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2024.2.1

先進技術・セキュリティ事業本部武藤 正紀

テクノロジー

POINT

  • 物流の2024年問題の解決策として船舶の利用拡大に期待。
  • 一方、船舶サイドにも人手不足の課題。輸送維持への不安も。
  • 持続可能な物流を実現するため自動運航船の実用化を急げ。

物流の2024年問題の解決に船舶が貢献

2024年度から導入されるトラックドライバー総労働時間規制により、いわゆる「物流の2024年問題」※1が懸念されている。解決策として、自動運転トラックによる物流DXなどを通じた効率化の検討が進む中、鉄道・船舶へのモーダルシフト(輸送手段の転換)も注目されている。

ただしトラックの自動運転では、新東名高速道路での専用レーンの導入が計画されている一方で、全国的な普及の見通しは立っていない。鉄道へのシフトでは、JR貨物を中心に輸送力の強化を目指している。しかし輸送ルートを延伸しようにも物理的に路線が限定され、ダイヤの制約もある。いずれにせよ完全な代替には至らない。

そこで陸運で賄いきれない輸送を、海運で補完する。船舶は輸送量が大きく、特にカーフェリーや車両甲板付貨物船(RORO船)への期待は大きい。カーフェリーはトラックドライバーが乗船中に休息しながら長距離移動ができる。RORO船(無人航走)では発地の港で自走乗船したトレーラーごと貨物を着地のドライバーに引き継ぐことで、同一ドライバーの運転時間を短縮。連続運送距離も削減できる。すでに佐川急便が商船三井フェリーなどと連携し九州~関東間の宅配便でRORO船を活用する動きを進めている。

船舶輸送を自動運航技術が支える

一方で海運業界も人手不足の課題を抱えている。内航海運船員の半分が50歳以上という現状であり、経験豊富な就業層の大量離職により将来的に輸送需要を受け止めきれない懸念があるのだ。

解決策の一つに「自動運航船」がある。操船や見張りなど船上タスクを機械が代替することで、船員の労務負荷や事故原因となるヒューマンエラー削減を目指している。技術実証にも成功しており※2、一定の条件下では人の関与がなくとも安全な運航が可能だ。将来の船員不足に際しても、自動化機能が運航を支えることで現在と同程度の船舶輸送の維持が期待できる。

特に内航カーフェリーとRORO船は大型船が主流(平均総トン数が1万トン超)で、長時間運航の場合には交代制を取るため1隻10名程度の船員が規則上必要とされる。自動運航機能の導入により人的タスクの総量を減らすことで、従前より少ない人手で運航できるメリットは大きい。労務負荷の低減により、労働環境に起因する離職・人材流出を防止する効果にも期待が集まっている。

当社参画の利用実証も始動

ただし海路での自動運航技術の社会実装には、技術面の安全性・信頼性を高めた上で、現行規則で求められる船員数を見直すことが条件となる。さらに自動運航システムの導入・運用コストが船主・運航事業者と利用者(荷主・物流事業者)に受容される水準となるよう配慮が求められる。

2025年には自動運航システムを商業運航で利用実証する計画がある※3。当社も参画し、安全面・経済面の課題解決に取り組む所存である。

※1:同年度中には輸送能力が14%不足し(国土交通省試算)、物流停滞が発生するとされる。

※2:2022年に自動運航システムを搭載したコンテナ船が東京湾~伊勢湾を無事故で実証航行した実績がある。

※3:当社ニュースリリース(2023年7月21日)「日本財団の無人運航船プロジェクト 社会実装に向けた第2ステージに参加」。