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2024年2月号トピックス1情報通信

「ローカル5G」が作業現場と地域を変える

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2024.2.1

モビリティ・通信事業本部井上 岳

情報通信

POINT

  • エッセンシャルワーカーの業務支援に「ローカル5G」が有用。
  • 物流現場では長年の課題に道筋が拓ける。
  • 費用の課題も克服。地域課題解決DXも後押し。

慢性的な担い手不足の処方箋

運輸や物流にかかわるエッセンシャルワーカーの慢性的な不足が深刻になった。人の手で行われるべき、替えの利かない重要な業務に集中してもらう環境を構築すべく、業務プロセスの改革が不可欠だ。中でもDX推進、自動化や遠隔化による生産性向上への期待は高い。

その際、作業上の適用領域をいかに広げるかが改革の成否を左右する。注目すべきは映像技術との組み合わせだ。現場の環境認知が劇的に向上し、より柔軟な業務プロセス改革を促せる。

ここで効果を最大限に引き出すのが、高速大容量・低遅延で映像を無線伝送する5Gネットワークだ。通信事業者でない企業や自治体が、自己の建物・敷地などで5Gネットワークを自営する「ローカル5G」への期待が大きい※1。通信リソースが第三者と共有分散される公衆5Gと違い、企業や自治体が、多数の移動端末を含め特定の用途にカスタマイズした高速大容量ネットワークを占有できる利点がある上に、無線LANと異なり、セルラー方式のセキュアな運用が可能である※2

大阪「夢洲」を舞台にローカル5Gを実証

一例として大阪港での社会実証を紹介したい。大型コンテナ船の寄港時、貨物の積み卸しに要する時間を最小化するには、広大なヤードに分散して専用クレーンを操るオペレーターの協調作業が必要になる。大阪・関西万博の開催地「夢洲」では、長さ1,350m×奥行500mの広大な敷地内にビル4~5階分の高さのコンテナが積み重ねられた閉塞環境で、高速大容量・低遅延の5Gネットワークをくまなく構築できることを実証した※3。全業務従事者が可視化された作業計画・予測に、リアルタイムにアクセスできる効果は大きかった※4

他の地域・企業のDX推進にも、「センサー×通信」「映像×通信」といったソリューションをより容易に提供することが可能になる。現場の長年の悩みだった、機器の接続や稼働状況の全方位的な把握、温度などの環境測定の自動化・一元管理化などを解消する道が拓けたといえる。

地域課題解決型ソリューションに昇華

費用面でもローカル5Gを活用したソリューションの導入ハードルは下がりつつある。要因の1つはサブスクリプション制の導入に伴う低廉な機器のリリースだ。ただしさらなる社会実装に向けては、一企業内に閉じた「現場課題解決型」のソリューションにとどめてはいけない。多様な主体が容易に連携できる5Gの特徴を最大限活かし、防災・農業・医療などの「地域課題解決型ソリューション」へと昇華させることが期待される。

導入・運用全体のライフサイクルコストをあと一段低減する努力も必要である。プロジェクトファイナンスやソーシャルボンド、通信インフラのシェアリングモデルを推進すべく、従来の座組みとは別の法律家、金融機関、地方公共団体、NPOなど地域コーディネーターの相互かつ多様な連携が、地域課題を解決に導くだろう。

※1:2023年9月号「企業のDXを加速するローカル5G」。

※2:より柔軟な運用に向け総務省は、自己土地外で電波を優先的に利用できる「共同利用」の概念を制度化。

※3:総務省(2023年6月5日)「令和4年度課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」。

※4:アプリケーションの使用感や負担軽減は現場従事者にも好評だった。出所:5Gに関する総務省の情報公開サイト「GO! 5G」。