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政策提言情報通信

情報爆発を支える新たな情報通信基盤の確立策を提言

生成AIで加速するデータ利活用社会に向けて

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2023.9.28

株式会社三菱総合研究所

情報通信
株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:籔田健二、以下 MRI)は、生成AIやメタバース等の技術進展がもたらす2030年代のデータ利活用社会の姿を定量的に予測しました。潤沢で信頼あるデータ流通を実現するための鍵となるデータ連携プラットフォームとネットワークインフラに着目し、あるべき情報通信基盤の確立に向けた施策を提言します。

新ビジネスによる価値創出のためには、信頼あるデータ流通を支える基盤の整備が不可欠

国際経営開発研究所(IMD)が公表する世界競争力ランキング(2023年)において、日本は35位と過去最低を更新しました。競争力の回復のためには企業が生産性を高めるだけでなく、新たなビジネスやサービスで付加価値を創出する必要があります。この成否を分けるのがデータ利活用の巧拙です。デジタル社会の資源であるデータから価値を引き出すためには、多種多様な主体が保有するデータを持ち寄り組み合わせることが重要です。大事なデータが乱用されたり、悪意あるデータに騙されたりする不安があれば、データの共有は進みません。信頼あるデータ流通の実現が不可欠です。

価値創出を牽引するのは、自動運転・メタバース・生成AIなどの分野です。高度なデータ利活用社会では、これらのユースケースによりデータ量が爆発します(情報爆発)。当社予測では国内のトラフィックは2040年には2020年の348倍に達する可能性があり、発生構造も変化します。自動運転や監視カメラなどの映像など、地域内で処理可能な地産地消型のデータが約7割に達し、データ流通の地域分散化が進行します。

新ビジネスの創出と、それがもたらすデータ流通構造の変化を支えるには、新たな情報通信基盤の整備が必要です。具体的には、信頼してデータを預けられるデータ連携プラットフォームと、情報爆発に耐えうる潤沢で安価なネットワークインフラの整備が求められます。
出所:三菱総合研究所

環境規制への対応が、新たなデータ連携プラットフォーム整備の好機に

現在のデータ連携プラットフォームにはさまざまな課題があります。検索やSNSなど消費者向けサービスでは、巨大プラットフォーマーの寡占に対する消費者の懸念が高まっています。例えば、大量に収集されるデータが消費者の管理の及ばないところで利用されることへの不安があり、生体情報など機微データを任せるとなればなおさらでしょう。一方で産業分野に目を向けると、幅広い主体が参加できるオープンなプラットフォームの形成は遅れています。企業間のデータ連携は、多くの場合系列内など限られた範囲にとどまりますが、それは特定事業者の管理するプラットフォームに重要データを預けることへの抵抗感が背景にあるためと考えられます。

データ連携プラットフォームに幅広い参加者が安心して参加できるようにするためには、データや権限を過度に集中させない仕組みが必要です。そのためには中央的な管理者を置かない信頼確保の仕組みを実装するのが理想です。取引の時間的順序を改ざんなく記録し検証することができるブロックチェーンの活用は、その有望な選択肢となります。金融分野ではこの仕組みを応用して、非中央集権的な信頼の確保を一定程度実現し、暗号資産などの新ビジネスの創出につなげました。

産業データ連携プラットフォームでも同様の信頼確保の仕組みへの要請が高まっています。ブロックチェーン技術はまだ未成熟で、過去に多くの試みが失敗に終わっていますが、技術開発の進展により課題解消の道筋が見え始めています。データ連携の推進に際して、中央集権的な仕組みに対する代替的な選択肢を獲得するために、ブロックチェーンを活用したプラットフォームの形成を並行して進めるべきでしょう。

ブロックチェーンの産業データ連携への応用において、現状では暗号資産のような利益を生むビジネスモデルが見えていませんが、期待されるのが、資源循環管理や温室効果ガスの排出量管理など、規制対応の領域です。抜け道のない規制のためには、多様な主体がデータ連携し、改ざん不能かつ検証可能な形で記録を残すことが重要です。この点においてはパブリックブロックチェーンと高い親和性があります。規制対応の領域での社会実装を入り口として、新たな付加価値を創出できる企業間のデータ連携を通じた新ビジネスの創出や、地域データ連携による公共サービスの高度化などに繋がる産業戦略を描くことが重要といえるでしょう。

潤沢でレジリエントなネットワークインフラの整備が、高度なデータ利活用を下支え

ネットワークインフラがひっ迫すれば、高度なデータ利活用は絵に描いた餅に終わってしまいます。

無線通信網では、周波数と投資の確保が最重要課題です。当社では情報爆発が進展した場合に2040年には全国約200万局の基地局を運用するために年間約10兆円の総コストが発生し、業界が大幅な投資不足に陥ると予測しています。そのためインフラ共用や周波数の効率利用によるコスト削減が不可欠と考えています。それでも投資が不足する場合は、無線通信網の整備の遅れや料金高騰が産業全体の機会損失を招くことがないよう、コスト負担について政府と産業横断での合意形成を図る必要が生じると考えられます。欧州などでは通信網への投資に対してコンテンツ事業者等に負担を求める枠組みの是非を巡る議論が行われていますが、そうした議論も参考にしながら客観的証拠に基づく検討を進めるべきでしょう。

データセンターも情報爆発を支えるための大規模な整備が必要ですが、当社の予測では2040年に自然体では通信産業の電力消費が約73テラワット時(2020年の約9倍)に達します。カーボンニュートラル達成への悪影響を避けるため、半導体の省電力化や冷却技術の高度化など、省エネルギー技術の開発が不可欠です。またデータセンターの整備においては、国内分散配置を進めることで紛争や災害等へのレジリエンスを高め、再生可能エネルギーの地産地消に貢献することが可能となります。2040年に地産地消型のデータが約7割に達するなど、情報爆発のもたらすデータ需要の構造変化を先取りし、データセンター分散整備の新たな最適解を政府・産業界が導いていく必要があります。

2つの基盤整備で潤沢で信頼あるデータ流通を実現し、産業競争力の向上を

生成AIやメタバースなど革新的なサービスが社会に浸透すればするほど、それらサービスを支えるデータの信頼性が問われることになります。多様な主体間での信頼あるデータ流通を支えるプラットフォームがなければ、革新的なサービスの普及や、データ連携による付加価値の創出は停滞してしまうでしょう。また、企業や消費者が革新的サービスに必要な大量データを存分に流通させ消費するためには、安価で潤沢なネットワークが供給されなければなりません。

本稿で述べた新たなデータ連携プラットフォームとネットワークインフラの2つの基盤整備による潤沢で信頼あるデータ流通の確保を通じて、生成AI時代の一歩進んだデータ利活用が後押しされることで、今後の日本の産業競争力向上にも寄与すると考えられます。

※:特定の管理責任者を置かず、誰もが許諾なし(パーミッションレス)で参加可能なブロックチェーンのこと。

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