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2023年9月号トピックス1情報通信

企業のDXを加速するローカル5G

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2023.9.1

デジタル・イノベーション本部伊藤 陽介

情報通信

POINT

  • 地域や企業のニーズに応える「ローカル5G」が実装の段階へ。
  • メリットと効果が明らかになり導入障壁も下がっている。
  • 企業自らが通信を主導することで、DXのさらなる加速を。

注目される「ローカル5G」

第5世代移動通信システム(5G)が商用化されて約3年が経過した。超大容量・超低遅延・多数同時接続などの特性をAIやロボットなどと組み合わせ、従来実現できなかった完全自動化やサービスの創出などを通じ、企業のDXを加速できる。

ただ、通信事業者が提供する5Gサービスは全国でインフラを共用するため、企業が求める要件を必ずしも満たしていない。そこで、企業自らが地域を限定して通信網を構築・運用する「ローカル5G」が注目されている。

見えてきた導入メリットと効果

ローカル5Gの最大の特徴は、企業のニーズに応じた通信網を構築・専有できる点にある。一方、カスタマイズできる分コストが高くなりがちで、導入メリットや費用対効果は不透明である。

しかし、こうした課題は多くの実証を通じて解消され、実装の段階に進みつつある※1

例えば、設備老朽化や人材不足などに悩む工場の場合、AIやロボット、ドローンを活用した車両の入退管理と誘導、巡視点検といった複数の用途にローカル5Gを使えば、精度の高い映像の記録や解析などが可能となり、保安力と生産性の向上に資すると報告されている。

鉄道の例では、車載カメラとAIを活用した設備異常の自動検知によって、従来の目視による検査と巡視の負担を軽減できる。ある私鉄ではローカル5Gの導入・運用経費を年間の費用削減額が大きく上回った。複数の企業間で同システムを共用することでさらなる費用低減が進み、業界が将来直面するとみられる労働者減少や列車の自動運転化に対応できるめども立ってきた。こうした柔軟さは、ローカル5Gだからこそ実現できるものだ。

加えて、利用権への対価を支払うサブスクリプション型サービスや、企業間で設備・機器を共用できるモデルの登場などにより、ローカル5Gを導入・運用する障壁は大きく下がってきている。

企業自らが通信を主導

このように、ローカル5Gは企業の課題解決に資する手段として、導入の環境が整ってきた。しかし、真価はその先にある。

第1に、企業単体に限らないサプライチェーン全体の業務改革や、画期的なサービス開発などを目的として長期的かつ段階的に投資するため、本格的な成長や生産性向上が期待できることである。

第2に、IoTやAIといったデジタル技術を活用して競争力や開発力を向上させる鍵は通信にある。この点で、企業が通信事業者や機器メーカーに委ねず自ら要件を定め、通信基盤やその機能を能動的に選択して主導権を取れる意義は大きい。

第3に、自律的で災害などに対して強靱な社会インフラとして機能すれば、2030年代に期待される6Gの早期実現にも寄与する。

企業がローカル5G普及を主導して事業の競争力向上や新たな事業開発を進めDXを加速させれば、産業や社会全体のDXにもつながるであろう。

※1:5Gに関する総務省の情報公開サイト「GO! 5G」より。