マンスリーレビュー

2023年9月号特集3ヘルスケアデジタルトランスフォーメーション

女性の健康不安を軽減するフェムテック

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2023.9.1

ヘルスケア&ウェルネス本部前田 克実

ヘルスケア

POINT

  • 女性の健康を守る「フェムテック」に注目が集まりつつある。
  • これまで見過ごされてきた女性の健康データの蓄積にも期待。
  • フェムテック認証の仕組みを通じ、安心・安全な製品の普及を。

光が当たり始めた女性の健康課題

2023年6月、「女性版骨太の方針2023」が策定された。その中には、生涯にわたる健康への支援、特に「仕事と女性の健康課題等との両立」の鍵としてフェムテックの利活用の促進が明記された。

フェムテック(Femtech)は、「FemaleとTechnologyをかけ合わせた造語で、女性が抱える健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービス」※1を意味する。女性の健康課題は、月経関連症状や妊娠・出産、更年期症状などと幅広い。「働き世代」の女性は男性と比較して受療率※2が高く、負担する医療費も高い。医療機関の受診に至らなくとも、月経前症候群(PMS)や月経随伴症状、更年期症状などは、社会生活への影響も大きい。健康課題による1年間の労働生産性損失を約4,900億円とする試算※3もある。また、女性に特有のがんは、ほかのがんと比べて働き世代での罹患率が高い。働き世代の女性の不安抑制や罹患後の社会生活との両立は重要な課題である。

女性特有のさまざまな健康課題がある一方で、社会では男性を標準とするジェンダーギャップが存在する。例えば健康診断では、女性に多い鉄欠乏性貧血を測る検査(フェリチンの測定)は通常の検査には含まれていない。健康診断は一つの例とはいえ、健康課題に悩む女性の実態が見えにくいことが、労働環境や生活上の課題解決を阻害してしまう悪循環をもたらしてきたともいえる。

フェムテック普及への期待

見過ごされてきたジェンダーギャップに光を当てる意味でも、フェムテック普及への期待は大きい。

フェムテックの製品・サービスは、衣類からスキンケア、検査サービスまで多岐にわたるが、特にオンラインで女性の健康管理や医療・健康情報への適切なアクセスを支援するサービスが増えている。例えば、産婦人科医・助産師へのオンライン相談サービスが該当する。これらのサービスにより、これまで許容してきた健康面での負担を、自身の「健康課題」として改めて認識し、適切な対処法を見いだすことが容易になるだろう。

サービスの利用は、目的とする健康課題の解決にとどまらず、データを蓄積する上でも意義が大きい。身体的特徴や生活習慣の違いによる効果や継続利用率が分析可能となり、サービスの質をエビデンスに基づいて向上させることができる。「新たな女性の健康課題」を見いだし、新たな製品・サービスを生み出す好循環の糸口にもなりうる。

データ蓄積に関するジェンダーギャップは、海外でも顧みられている。海外では先行して医薬品開発における治験参加に女性が少ないことが問題視されてきた。米国では、政府資金による臨床試験の参加者に女性を含まないことが違法とされるなど在り方そのものが問い直されている。

安心を分かち合える社会へ

フェムテックの健全な普及に向けた訴求ポイントは3つある(図)。

第1に「安心して使える製品の見える化(可視化)」がある。ここでは課題解決に向けた、認証制度創設を提案したい。フェムテックは、必ずしも医学的な診療への活用を目的にするとは限らない。仮に診療行為であれば、医療機器として厳正な審査を経て公的な認証・承認を得る必要がある。一方で、健康増進を目的とした製品の場合には規制はなく、粗悪品が流通する恐れもある。こうした製品でも品質や安全性に関する一定の基準を満たしているかを業界全体で認証し、利用者が安心して使える環境を整備する必要がある。その際は、業界団体が自主ガイドラインを作成する取り組みが参考になるだろう。

2点目として、「データの蓄積をイノベーションの好循環につなげること」、すなわちデータ管理の問題が挙げられる。フェムテックの利用を通じて蓄積されるデータは機微情報である。データの利用範囲の明確化や安全な管理も求められる。事業者間連携を通じたデータの二次利用も含めた整備が必要となるだろう。

そして3点目が、「新たなテクノロジーやエビデンスに基づき、職場環境や制度を変えていく」ことである。フェムテックを健康経営や福利厚生に活かすことでジェンダーギャップを解消し、ダイバーシティや生産性の改善につなげられる。

また前述のとおり、働き世代の女性は男性と比べて健康課題を多く抱える一方で、公的保険制度下では一律の自己負担が生じる。全世代型社会保障を構築するためには、働き世代の女性の自己負担を、エビデンスに基づく応能負担によって抑制することも一案ではないか。

立場を超えて安心を分かち合える社会へ、テクノロジーによる変革を最大限活かすべきだ。
[図] フェムテック普及に伴う社会へのインパクト
[図] フェムテック普及に伴う社会へのインパクト
出所:三菱総合研究所

※1:経済産業省「フェムテック等サポートサービス実証事業」。

※2:人口10万人当たりの推計患者数。2017年患者調査の性別・年齢階級別受療率を見ると、20〜50代の女性の受療率は、男性と比較して約1.2~約2倍程度高い。

※3:Erika Tanaka, Mikio Momoeda, Yutaka Osuga, Bruno Rossi, Ken Nomoto, Masakane Hayakawa, Kinya Kokubo & Edward C. Y. Wang (2013) "Burden of menstrual symptoms in Japanese women: results from a survey-based study", Journal of Medical Economics, 16:11, 1255-1266, DOI: 10.3111/13696998.2013.830974.

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