マンスリーレビュー

2022年1月号トピックス2デジタルトランスフォーメーションヘルスケア

HACCPによる食品安全管理の将来

2022.1.1

イノベーション・サービス開発本部長田 侑子

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 2021年6月のHACCP本格導入は食品事業者の負担増に。
  • HACCPで先行する欧米では食品安全のDX化が進展。
  • 行政によるDX支援は食品事業者の生産性向上の好機に。

食品事業者をめぐる経営環境はより厳しく

2021年6月1日から食の安全を科学的に確保する国際的な管理手法「HACCP※1」に沿った衛生管理が完全に制度化され、国内全ての食品事業者が対応を求められている。食品事業者は、コロナ禍による収益圧迫にHACCP対応コストが重なり、経営環境がいっそう厳しくなっている。 

人口減少による国内需要減少や人材不足といった長期トレンドも踏まえると、中小事業者といえども、従来の属人的かつアナログな対応を続ければ、事業継続が困難になりかねない。

先行する欧米には豊富なツール

米国では1990年代にHACCPが義務化された後も定期的に制度が見直されてきた。2011年には食品リスクに対する予防管理強化や食品医薬品局(FDA)の権限強化などを定めた食品安全強化法(FSMA)が制定されている。欧州でも2000年代からHACCP義務化が進められてきた。

早期に義務化されたこともあり、欧米ではHACCPや食品安全管理を支援するツールも多種多様だ。記録やHACCPを個別に支援するものから、品質管理のような他のマネジメントシステムと連携するものなど、多様なラインアップがある。

さらに、食品安全も含めた生産管理全体の最適化を図るツールも登場し、食品事業者の品質や生産性の向上に寄与している。

食品安全管理の将来

日本でも制度化を機に、HACCPを支援するツールが多数登場してきている。食品事業者は、欧米の取り組みを参考にすれば、食品安全にとどまらず、生産管理も含めた全体最適化までの道筋を描けるようになっている。この好機に、HACCP対応のみならず、食品安全管理の効率化・高度化やデジタルトランスフォーメーション(DX)活用によって、品質や生産性の向上を一気に進めるべきだ。

ただし、中小・零細企業が多く、日々の業務に追われる食品事業者が、DX化を進めるのはそう簡単ではない。行政が事業者を後押しする仕組みも必要となる。

米国では、2020年にFDAが将来構想「よりスマートな食品安全の新時代※2」の青写真を示し、技術活用を前提とした食品安全の強化方針を打ち出した。この構想のポイントは、規模によらず全ての食品事業者を対象としていることだ。FDAが主導して、民間の力を借りながらトレーサビリティなどのプラットフォームを構築し、必要書類をデジタル化することを想定している。FDAは高リスクな食品を対象にトレーサビリティを義務付けることにより、食品事業者にDX化を促している。

日本においても、行政がHACCP制度化以降の食品安全管理の在り方に関する方針を示し、食品事業者による安全管理のDX化を支援すべきだ。例えば保健所検査をDX化して、食品事業者がその仕組みを利用するように働きかける。行政自身のDX化と合わせたこうした施策が、今後は必要かつ有効となるだろう。

※1:科学的な根拠に基づく危害要因分析により重要な工程を特定することで製品の安全性を確保する衛生管理手法。日本では2018年から制度化が進められてきた。

※2:英文名称は“New Era of Smarter Food Safety”。