マンスリーレビュー

2022年1月号特集1海外戦略

新年の内外経済展望|2022年

2022.1.1

政策・経済センター森重 彰浩

POINT

  • 2021年の世界経済は、需要不足から一転、供給不足に。
  • 2022年は政策支援が縮小。世界経済は新たな社会経済構築へ進化の年に。
  • 日本経済は、成長と分配の好循環実現に向けて、国・企業・人の変革を。

供給不足の背景に3つの潮流

2021年の世界経済は、変異を続ける新型コロナウイルスの脅威にさらされつつも、全世界で累計90億本※1に上るワクチン接種の進展などにより、先進国を中心として経済・社会活動の正常化が進んだ。

世界のGDP(約90兆ドル)は2020年から一気に約5兆ドル増加※2、世界経済は需要不足から一転、供給不足に陥った。欧米では物価が上昇し、2021年11月の消費者物価は、米国で39年ぶり、ドイツでも29年ぶりの伸びを記録した。原油高を受けたガソリン価格の上昇にとどまらず、広範な品目の物価が上昇した。

供給不足と物価上昇の背景には、需要の急回復とともに、コロナ危機後に強まった3つの潮流が複合的に作用している。

第1はパワーバランスの不安定化だ。米中対立はトランプ前政権下での貿易対立から、バイデン政権下で自由や民主主義をめぐるイデオロギー対立へと発展した。経済安全保障上のレジリエンス(強靱(きょうじん)さ)を高める観点から、戦略物資の中核である半導体の輸出・投資規制の強化、サプライチェーンの内製化を進める動きが米中双方で進展した。半導体の主要生産拠点でもある台湾をめぐる政治的対立も半導体の供給懸念を強める一因といえる。

第2は資本主義の修正だ。近年、格差の拡大による社会の分断が欧米先進国を中心に大きな社会課題となっている。コロナ危機前から、既存の株主第一主義を企業自ら見直す動きが強まってきたほか、コロナ危機による一段の格差拡大を受けて、分断是正が政治的にも喫緊の課題となった。

こうした中、国民の団結を掲げて誕生したバイデン政権は、2021年3月以降、中所得層以下の世帯を対象に1人あたり最大1,400ドルの現金給付を執行。経済が回復傾向にある中での大規模な現金給付が、米国消費を一気に押し上げ、幅広い財で供給不足を招き物価上昇に拍車をかけた面は否定できない。需要が回復する中でも労働供給の戻りが鈍く、人手不足も深刻化した。

第3はサステナビリティ重視だ。気候変動の影響が顕著になる中、すでに136カ国がカーボンニュートラルを宣言した。しかし、その移行過程でゆがみもみられる。欧州は世界に先駆けて再生エネルギーへの電源シフトを進めてきたが、2021年は天候不順によって再エネの発電量が減少。代わりに需要が急増した天然ガスや原油の価格が急騰した。中国でも環境目標達成に向けた石炭火力発電の抑制が、深刻な電力不足と生産減少を引き起こした。

外交、政治、経済、技術、環境問題の相互の連接が強まる中で、世界の課題は複雑化し、企業活動にも影響をもたらすようになっている。例えば、安全保障における経済や技術の重要性はとみに高まっている。気候変動対策では国家の外交戦略、産業戦略と民間の企業活動も密接につながっていく。時代は、そうした変化局面にある。

世界経済展望|新たな経済社会構築へ進化の年

2022年の世界経済は、財政・金融面からの下支え効果が段階的に縮小していく中で、ポストコロナ※3の新たな経済社会に向けて進化を遂げることができるのか。国や企業の「実力」が問われる年となるだろう。

世界経済が乗り越えるべき課題の一つが、供給不足と物価上昇だ(特集2「物価をめぐる3つのシナリオ」参照)。基本的には、供給制約の緩和や需要拡大ペースの鈍化などから、2022年後半にかけて物価上昇が落ち着いていくとみられる。ただし、半導体不足や人材ミスマッチによる人手不足の解消に時間を要するほか、新型コロナウイルスの変異株による経済活動への制約が強まれば、需給逼迫(ひっぱく)の解消が遅れる可能性がある。

米国経済は、供給制約の緩和やコロナ危機下で積み上がった貯蓄が消費を喚起し、2022年は4%台前半の高い経済成長が見込まれる。

ただし課題は山積している。2022年秋に中間選挙を控える中、共和党や民主党左派の強硬姿勢による予算審議の難航、さらには物価上昇率の高止まりなどにより、バイデン政権の支持率は、任期1年目としてはトランプ政権に次ぐ低さとなった。

米国金融政策も危機対応から出口への動きが本格化する。米国FRBの資産規模はコロナ危機前の4.2兆ドルから9兆ドルまで拡大。コロナ危機下の経済を下支えした一方で、米国の株価収益率は1929年の大恐慌直前の水準を超えるなど資産価格も上昇。2022年末にかけて3回の利上げが予想されるが、市場の不安定化を回避できるのか、金融政策運営の手腕が問われる局面となる。

米国と覇権を争う中国は、2022年にかけて5%台前半まで成長減速が予想される中、中国経済のアキレス腱である債務問題のコントロールが重要になる(特集3「中国債務問題の行方」参照)。中国の1人あたりGDPは1万ドル台と米国の約4分の1ながらも、家計、企業、政府を合わせた債務残高のGDP比は300%と米国に匹敵する水準だ。

2022年秋の党大会で3期目入りを狙う習政権は、短期の成長よりも中長期の経済・社会の安定を重視した政策運営へ軸足を移しつつある。不動産部門を中心に債務整理を秩序だって進める一方で、中長期の成長基盤を固めることができるか、中国にとって重要な年となる。

欧州は、防疫と経済の両立進展により2022年は4%程度の成長を見込む。ドイツではショルツ新政権が発足、緑の党が連立入りし環境政策の強化が見込まれる。ECBでも金融政策の危機対応からの出口に向けた議論が活発化するだろう。

また、欧州は、米国と中国に次ぐ世界の第3極として、ソフトパワーで存在感を高めている。欧州は世界に先駆けて気候変動対策に取り組んできた技術的な優位性を生かし、脱炭素社会へのシフトを世界各国の目標に組み込むことで、自らの経済的なプレゼンスを拡大することに成功しつつある。「欧州グリーン・ディール」を包括的に推進するための気候変動対策パッケージ(Fit for 55)が具体化する動きに注目だ。

金融市場では、サステナビリティファイナンスがいっそう拡大するだろう。国際会計基準を定めるIFRS財団のもとに設置された国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)では、気候変動に関する統一的な国際開示基準づくりが2022年に具体的に動き出す。投資家からの企業選別の目は一段と厳しくなる。

脱炭素とともに、高度化するデジタル空間をめぐる主導権争いやルールづくりも加速する。米ビッグテック※4などを対象とする国際デジタル課税は2023年に導入される予定だ。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)とともに、先進諸国では5Gの次の無線通信規格であるBeyond 5G※5に向けた研究開発投資も加速するだろう。

日本経済展望|成長と分配の好循環に向けて

2022年の日本経済は、経済活動の正常化に伴う雇用・所得環境の改善に加え、コロナ危機下で積み上がった約40兆円の過剰貯蓄※6の一部が消費に回るとみられ、潜在成長率を上回る3%程度の成長を予想する。

世界が脱炭素やDXなど新たな経済社会への進化を加速させる中で、日本経済がリバウンドにとどまらず、自律的な成長力を高めることができなければ、ポストコロナにおける海外と日本の成長率の差は一段と拡大する。

IMFによると、日本は依然として世界第3位の経済大国ながらも、1人あたりGDP(PPPベース)では、2009年に台湾、2018年に韓国に抜かれ、アジアで5番目となっている※7(図1)。
[図1] 1人あたり実質GDP
[図1] 1人あたり実質GDP
出所:IMF "World Economic Outlook, October 2021 " より三菱総合研究所作成
岸田政権が掲げる「成長と分配の好循環」の実現に向けての課題は3つである。

第1に成長力の強化、とりわけイノベーションの社会実装である。日本は労働市場が硬直的で企業の新陳代謝も弱い。1990年代に比べれば日本企業にもイノベーションの重要性が浸透し、経営や組織も変わりつつあるが、世界の産業・事業構造転換の動きは、コロナ危機後に一段と加速している。

英Economist誌が2021年11月に公表した「2022年に注目の新興技術22」には、水素燃料電池を動力源とした飛行機、貨物船の燃料消費を削減する帆、コロナワクチンで使われたメッセンジャーRNAのHIVやマラリアへの応用など、将来の市場拡大を見据えリスクをとって先行投資する企業の姿が多く紹介されている※8

日本でも、基礎研究に基づく技術を生かし、社会課題の解決に向けて、ベンチャーを立ち上げ社会実装を進める動きが活発化している。2020年の大学発ベンチャー数は過去最高を更新したほか、大企業からの出資もありスタートアップの資金調達はコロナ危機下でも堅調を維持している。

こうした共創を通じて、人材が組織や国の枠を超えて流動的に動き、多様な知識や経験を積み、異分野の「知の統合」を進めることがイノベーションには不可欠だ。ポストコロナで加速した脱炭素やDXの動きをチャンスと捉え、産業・事業構造の転換を加速する必要がある。

第2に、人材投資による分配の強化だ。過去30年の名目賃金水準の変化をみると、米国が2.5倍、ドイツも2倍に増加する中、日本だけが横ばいだ。前述の成長力の低さとデフレに加え、人材投資の不足も一因だ。日本は1990年代以降、リストラや非正規雇用の拡大で人への投資が停滞してきた。

国際的には、1人あたりGDPが3万ドルを超えたあたりから、所得水準の高い国ほど起業人材比率が高い傾向にある(図2)。一定の水準を超えて国全体が豊かになるには、イノベーションを起こす創造的人材が必要であり、そうした人材を育成するための投資を強化するとともに、創造的な人材や業務に対しては、その成果を賃金として分配していくことが重要だ。
[図2] 起業人材比率と1人あたり実質GDP
[図2] 起業人材比率と1人あたり実質GDP
出所:Global Entrepreneurship Monitor "GEM2019 "、IMF "World Economic Outlook, October 2021 " より三菱総合研究所作成
第3に、前向きに消費・投資できる環境づくりである。家計と企業の現預金は2021年6月時点で1,400兆円に上る。日本経済の成長が期待できず、将来に対する不確実性も強いことが、予備的な貯蓄を増やす背景にある。これらの現預金は、金融機関もリスクをとった運用ができないため、日本経済の成長のために有効活用されず、拡大する政府債務の原資となっている。

当社が毎年3万人に行っている調査によると、人々が感じる社会不安のトップは、2011年の調査開始以来常に「社会保障による財政悪化」である。社会保障制度改革などを通じて将来の不確実性を抑制し、前向きな支出を促す環境を整えることが、成長と分配の循環を促す重要な要素となる。

2022年は寅年である。Tigerの語源はTigris(ティグリス※9)であり、矢のように速い流れを意味するそうだ。世界の変化が加速する中で、日本は成長と分配の好循環を実現し、「レジリエントで持続可能な社会※10」を目指して、寅のように力強く跳躍する年となることを願う。

※1:Our World in Dataによると世界の累計ワクチン接種本数は2021年11月末時点で80億本。

※2:IMFの2019年のドル建て名目GDPを、各国通貨建て実質GDP成長率で延伸して計算。

※3:ポストコロナとは、新型コロナウイルス感染症の致死率などが普通のインフルエンザ並みに落ち着くまでのウィズコロナ期、 およびその後のアフターコロナ期を合わせた期間を意味する。

※4:Google、Microsoft、Apple、Meta(Facebook)、Amazonなど世界的な影響力をもつICT企業の総称。

※5:2030年ごろ商用化される見込みである、無線通信における第5世代(5G)の次の規格。5Gの先という意味でBeyond 5Gと称されることが多い。

※6:コロナ危機下の貯蓄率は、現金給付などもありコロナ危機前の平均的な貯蓄率を上回った。過剰貯蓄は、コロナ危機下での貯蓄率の上振れ分から計算したもの。

※7:1位はシンガポール、2位はブルネイ、3位が台湾、4位が韓国。

※8:The Economist "What next? 22 emerging technologies to watch in 2022 "(2021年11月)

※9:メソポタミア文明を生んだティグリス川は、川の流れが速かったことからTigrisと名付けられたとされる。

※10:当社コラム「目指すべきポストコロナ社会への提言─自律分散・協調による『レジリエントで持続可能な社会』の実現に向けて」(2020年10月19日)