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目指すべきポストコロナ社会への提言 ─自律分散・協調による「レジリエントで持続可能な社会」の実現に向けて

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2020.10.19

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:森崎孝)は、ポストコロナ※1で目指すべき社会のイメージを「レジリエントで持続可能な社会」と表現し、その社会像を描いた先のリリース(7月14日)※2に続き、実現に向けて速やかに取り組むべきテーマを以下のとおり提言いたします。

レジリエントで持続可能な社会の実現に向けて

世界は、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックとこれがもたらした経済・社会への深刻な影響を経験し、平常時の経済合理性のみを追求した社会は脆弱(ぜいじゃく)であり、ショックの発生も考慮に入れた合理的で持続可能な社会の構築が求められることを学んだ。ポストコロナの時代に向けては、長期かつ質的な成長と持続可能性の大切さを再認識し、行き過ぎた集中を修正する「自律分散」型の経済社会の再構築を計画的かつ速やかに進めなければならない。

技術の進展によりデジタル社会への移行が進む一方、経済社会の各面で分断と不安定が顕在化する時代、人間・個人のウェルビーイングと持続性を両立させることが求められる。それには、政府・企業・市民の各主体が「協調」して行動することが一層強く求められる。

第一の柱:自律分散協調社会を実現する

コロナ感染拡大は、経済・社会の各面が新常態(ニューノーマル)に移行する契機となり、人口移動・分散の動きと産業構造の変化を促す。

地域の自律分散を実現するためには、自治体や地場企業などの幅広い主体が地域のあらゆるサービス領域を横断して連携し、規模と多様性の利益を享受できるネットワークを構築する必要がある。こうした分散型の都市ネットワークに接続することで、地域の希少な資源から新たな価値が創出されるとともに、デジタル・リアルの最適配分を通じて、地域経営が効率化される。

デジタル技術普及の加速を通じ、求められる人材要件と働き方が大きく変化するなか、働き手のキャリアシフトに向けた挑戦を後押しする仕組みが必要となる。職業データベースや学びのインフラ整備、失業やキャリア中断からの復帰を支援するセーフティネットの提供、多様な働き方を包摂する制度設計と組織文化など、個人が自律的にキャリア転換を進める動き(「FLAPサイクル※3」)を後押しするための施策が期待される。

地域社会の自律性促進や個人のウェルビーイング向上には、行政デジタル化を実現しつつ、少子高齢化や多様な働き方に対応した全世代型の社会保障制度の構築に向けた改革が必要だ。また、自律分散協調社会を支える公助の枠組みへの国民の信頼を醸成するためには、財政の持続性の確保が不可欠となる。

第二の柱:新しい社会課題解決を付加価値創出につなげる

企業には、コロナ感染拡大から生まれつつある新常態への対応と社会課題の解決を、新事業や高い付加価値の創出につなげる視点が求められる。同時に、様々な主体との協調の視点から、マルチステークホルダー(株主、顧客、従業員、取引先、地域社会等)に配慮した経営がより重要となる。

新事業の創出や高付加価値化では、コロナ感染拡大によって上昇した「対面などの業務のコスト」を効率化(プロセスイノベーション)するとともに、デジタルとリアルを融合して消費者の本質的な欲求に応える高付加価値化(プロダクトイノベーション)を図ることが求められる。後者のプロダクトイノベーションの実現では、企業の枠を超えてイノベーション・エコシステムを構築することで、多様なビジネスが生まれる環境を創ることが重要だ。その上で、各企業がリアル×デジタルの融合により、①コロナで提供が難しくなったモノやコトに代わる商品・サービスの提供(代替)、②これまでは顧客層となり得なかったすそ野の取り込み、③既存の財・サービスを軸とした高付加価値化を実現することが求められる。

また、マルチステークホルダー経営の実践として、サプライチェーンでは在庫・生産の最適化に加え地球環境・労働環境等への配慮を見える化するなど、持続可能性と倫理的観点を考慮しつつ、取引先と協調できる姿を実現することが求められる。また、人的資本投資ではOJTからOff-JTに人材育成の中心がシフトするなか、人材への投資が企業価値向上につながる経路をあらかじめデザインする必要がある。さらに、社会課題解決と企業収益拡大の両立では、ESGへの取り組みが社会課題をビジネスで解決する企業の活動を促し、日本の社会をより持続可能な社会へ導くように、ステークホルダー間の対話を積み重ねていくことが求められる。

第三の柱:国際ルール形成と重層的協調を主導する

米中対立の激化にコロナ危機も加わり、一段と不安定化する国際情勢の立て直しが急務である。この難局下、経済的・政治的な余裕がなくなることで、自国第一主義的な姿勢を強める国も一部にみられるが、コロナ危機による経済停滞、感染症拡大、気候変動といった地球規模の社会課題はいずれも、国際社会の協調がなければ乗り越えられない課題ばかりである。ポストコロナの国際社会においては、中長期的にルールに基づく国際秩序の再構築を目指すとともに、その基盤として重層的な国際協調を積み重ねていくことが必要である。戦後、日本は多国間主義を掲げ、⼈道・開発⽀援や保健衛⽣、自由貿易などの分野で多国間協⼒を推進してきた。こうした国際社会への貢献を通じて信頼を培ってきた日本は、レジリエントで持続可能な国際社会の実現において重要な役割を果たしうる。

ルールに基づく国際秩序を再構築するためには、国家間の相互理解や信頼性の回復が必要になる。日本の役割としては、価値観を共有する国々と連携し、大国を含む合意形成を粘り強く実現することが期待される。国際社会として実現したい姿が納得感のある形で各国に共有される必要があり、国際社会が訴求すべき共通利益・理念を日本が打ち出し、その実現に向けた技術提供・環境整備等で貢献できる余地は大きい。また、こうした役割を担う上でグローバルに活躍した経験があり、多国間の合意形成に長けた人材の育成が急務であり、多様な価値観に触れるための教育やキャリアパスの多様化が求められる。

重層的な国際協調の形成に向けて、日本は、欧米諸国など価値観を共有する国との間で多面的に協調を深化させるとともに、権威主義国との間でも自由貿易、国際保健協力、気候変動などの個別分野で、機能的に国際協調を進めることが重要だ。日本はこれらをパッケージで推進できる数少ない国の一つである。アジアや欧州と連携を深めながら、各国の利害調整に努め、大国を含むハイレベルな国際協調の実現にイニシアティブを発揮すべきである。また、国際協調は、政府レベルのみならず、民間企業やNGO、地方自治体などマルチステークホルダーによる重層的な連携も強化すべきだ。

ポストコロナのより良い未来

日本がコロナを含む多くの試練を乗り越え、明るい未来を切り開くためには、みえてきた潮流の変化をチャンスととらえ、官民が積極的に行動を起こすことが大切だ。「自律分散」と「協調」の二つの軸により、積年の社会課題の解決を図る。その挑戦の過程で、デジタル技術を積極的に活用しつつ、イノベーティブな新しい社会モデルの創造を目指すことが、持続的な経済成長と豊かさ向上の原動力となる。

※1:ポストコロナとは、世界的なコロナ感染拡大を境に価値観や行動様式の転換が起き、社会に定着する期間を指す。

※2: ポストコロナの世界と日本 ─レジリエントで持続可能な社会に向けて(2020.7.14)

※3:当社の造語で、個人が自分の適性や職業の要件を知り(Find)、スキルアップに必要な知識を学び(Learn)、目指す方向へと行動し(Act)、新たなステージで活躍する(Perform)という一連のサイクルを指す。

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