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ポストコロナの世界と日本 ─レジリエントで持続可能な社会に向けて

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2020.7.14

株式会社三菱総合研究所

株式会社三菱総合研究所(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:森崎孝)は、ポストコロナで目指すべき社会を「レジリエントで持続可能な社会」と位置づけ、提言いたします。本リリースはその第一弾として、コロナ禍が経済社会に及ぼした影響を分析し、ポストコロナにおける社会像を描きました。

3つの世界潮流

コロナ禍での経験は、これまでの世界の大きな潮流を変化させた。その変化には、①既に表れていた潮流の加速、②新たな潮流の出現、③価値の再認識、の3通りがある。これらの視点から、ポストコロナの社会を方向づける3つの潮流を抽出した。

第一に、持続可能性の優先順位の上昇である。近年のSDGs(持続可能な開発目標)への関心の高まりに象徴されるように、これは既に表れていた潮流の加速である。第二に、集中から分散・多極に向かう潮流である。パンデミックを契機としたビジネスモデルや暮らし方の変革は、これまでの効率性を重視した集中から分散へと、新たな潮流を出現させたといえる。第三は、デジタルの加速とリアルとの融合だ。人々の価値観の変化と技術の社会実装に対する受容性の向上により、全世界でデジタル化が加速しよう。同時にリアルの価値が再評価されたこともある。デジタルとリアルとの使い分けや、リアルの魅力をより引き出すデジタルの活用といった両者の融合も進むであろう。

「レジリエントで持続可能な社会」の実現

三菱総合研究所は、ポストコロナで目指すべきは、「レジリエントで持続可能な社会」の実現と考える。このレジリエントで持続可能な社会とは、感染症等のショックに対しても柔軟に耐える社会であるとともに、地球環境を維持しつつ、経済の豊かさ、そして個人のウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)を持続的に両立できる社会である。

この社会を実現するための方向性として、(1)レジリエンスを高めるために「自律分散」的なシステム構築を目指すこと、(2)政府、企業、市民が持続可能性を重視し「協調」的な動きを行うこと、の2つの軸を据えた。

国際、産業・企業、社会・個人の3分野において、「自律分散」と「協調」の2つの軸で向かうべき方向性を整理すると、国際分野では、①ルールに基づく国際秩序の再構築、②重層的な国際協調が、産業・企業分野では、③デジタルとリアルの融合による新たな付加価値の創出、④マルチステークホルダー経営が、社会・個人分野では、⑤自律分散による社会の強靭化、⑥利他的視点に立った協調、が鍵となる。

ポストコロナの国際経済社会

国際、産業・企業、社会・個人の3分野ごとに、向かうべき方向性を整理すると、以下のとおり。

国際情勢

  • 米中対立が深刻化し世界のパワーバランスが不安定化するなか、国際秩序を維持するためには、大国の権威に依存することなく、関係国間で国際ルールを定め、自律分散的に活動する体制が求められる。こうしたルールに基づく国際秩序の再構築を、日本および欧州、アジアが連携した第三極が主導していくことが期待される。
  • パンデミック以外にも地球規模の課題は山積している。既存の国際機関が機能不全を起こすなか、多国間合意にかかわらず、特定テーマごとに二国間や複数国間での合意、民間企業や大学、NGOなど政府以外の主体による連携活動など、重層的な国際協調の枠組みが求められる。
  • 日本は、これまで国際社会への貢献を通じてソフトパワーを培ってきており、ルールに基づく国際秩序の再構築と重層的な国際協調において、重要な役割を果たしうる存在である。

産業・企業

  • 世界的に既存市場の需要が大きく縮小するなか、企業にとっては、コロナ禍で生じた潮流への対処や社会課題の解決を、新事業の創出や高付加価値化につなげる視点が重要となる。デジタルの加速とリアルとの融合により、リアル体験を超えるサービス提供や接触回避に向けた最適化・高付加価値化が求められる。
  • コロナ禍では、企業の社会的責任に対する注目度も高まった。マルチステークホルダー(株主、顧客、従業員、取引先、地域社会等)に配慮した経営がより重視される見込みだ。経営者には、ビジョンの提示とともに、急速な環境変化に対応できる柔軟な経営体制、組織のレジリエンス向上、デジタル技術を活用した組織運営が求められる。
  • 人々の価値観の変化や行動変容は、産業構造も大きく変える。特にモビリティ、エネルギー、不動産、シェアリング分野では、地域の自律分散化や循環型経済の進展を踏まえた企業の取り組みが期待される。

社会・個人

  • 人々の働き方・暮らし方の変化や、行政・医療・教育のデジタル化が進展するなか、大都市集中型の社会から自律分散型の社会へ向かう動きが出てくる。こうした自律分散化は、感染症対策のみならず、人口減少や自然災害への対応など社会の強靭化にも資する。一方、デジタル進展に伴い、経済、健康、教育上の格差を生まないよう、社会全体での仕組みづくりも重要となる。
  • コロナ禍において市民は、他者への配慮やいわゆる「エッセンシャルワーカー」の重要性を再認識した。医療分野をはじめ限りある人的・物的資源が社会で適切に配分されるよう配慮するなど、利他的視点に立った協調が、自らのウェルビーイングを高めることにもつながる。
  • 感染拡大防止や経済影響の緩和を志向する市民は、社会の持続可能性を高めるためのデジタル技術導入やデータ共有を積極的に進める意向を持っている。一方、暮らしのなかのサービスにおいて、人々は必ずしもデジタル完結を希望しておらず、デジタルとリアルを使い分ける意識が強い。

日本の「レジリエントで持続可能な社会」の実現に向けて

コロナウイルス感染拡大は日本の経済社会にも大きなインパクトをもたらした。日本がこの難局を乗り越え、未来を切り拓くためには、3つの潮流に対して受け身ではなく変化をチャンスと捉え、「自律分散」と「協調」の2つの軸により、積年の社会課題を解決していく必要がある。次回は、日本の「レジリエントで持続可能な社会」の実現に向けて、具体的な提言を取りまとめる予定である。

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