マンスリーレビュー

2022年1月号特集3経済・社会・技術海外戦略・事業

中国債務問題の行方

2022.1.1

政策・経済センター金成 大介

経済・社会・技術

POINT

  • 不動産セクターの信用不安は、経済の安定重視への政策シフトが背景。
  • 経済安定に向けた債務削減は、経済下振れリスクを伴う「諸刃の剣」。
  • 2022年は、中長期的な安定と成長の足場固めができるか政権運営に注目。

デフォルト認定を受け、恒大集団は債務整理へ

中国不動産大手、恒大集団のデフォルト(債務不履行)認定を受けて債務処理の進め方への関心が高まっている。

恒大集団は、中国の名目GDPの2%に相当する2兆元弱の総負債、5,700億元の有利子負債を抱えているほか、直接・間接の雇用者は400万人に上る。中国当局は、こうした恒大集団のプレゼンスを認識し、秩序だった債務整理を目指している。性急な債権回収による債務削減は、存続価値のある関連会社の倒産や失業者の発生、実勢を下回る価格での所有不動産処分による不動産市況の冷え込みなどをもたらすリスクがあるためだ。

恒大集団の倒産が中国発の世界的な金融危機に発展するリスクを懸念する声もあるが、現段階ではその可能性は低い。恒大集団の経営不安は2020年夏ごろから市場で織り込みが進んでおり、債権者も分散している。さらに、世界金融危機時に信用不安の伝播をもたらした連鎖構造もない。低所得者向けローンを束ねたサブプライム証券を担保に投資家が相互に資金調達を行ったリーマンショックとは明らかに様相が異なるためだ。

「短期成長」よりも「長期安定」に軸足

過剰債務問題は、恒大集団という個別企業の問題にとどまらず、中国経済全体のアキレス腱と指摘されてきた。中国の非金融法人企業の債務残高はGDP比150%超と、日本のバブル期を上回る水準となっている。中国政府も過剰債務のリスクを認識しており、2021年8月の中央財経委員会は「重大金融リスクの防止・解消」が最優先課題であると表明している。

中でも中国の総融資の30%近くを占める不動産セクターに対しては規制を強化していた。2020年夏に、負債規模に応じて資金調達基準を厳格化する「3本のレッドライン(三道紅線)」と呼ばれる規制を、不動産セクターを対象に導入したほか、2021年初頭に住宅ローンの総量規制を導入、不動産保有税の導入も検討している。

習政権は、「重大金融リスクの防止・解消」と並んで格差是正を実現する「共同富裕」も優先課題としている。不動産セクター向けの規制強化は、不動産価格の高騰抑制による格差是正にもつながり、「共同富裕」にも通じる政策となっている。

このように恒大集団の問題は、中長期的な経済の持続性強化に向けた取り組みの結果として表面化したものであり、中国政府としても想定内の結果であろう。

不動産セクター以外でも、中国経済の成長をけん引してきたICTプラットフォーマーなどへの統制も強めている。習政権は、短期の経済成長よりも中長期の政治・経済の安定を重視した政策運営へと軸足をシフトさせているとみられる。

債務問題への取り組みは「諸刃の剣」

ただし、債務問題への取り組み強化は諸刃の剣である。政治・経済の安定に資する一方で、中国経済の失速要因となりかねない。これまで、借り入れを梃子にした不動産投資が経済成長の原動力の一つとなってきたことを踏まえると、債務削減による不動産投資の停滞は、短期的には経済成長の下振れ要因となる。

過剰債務は製造業などの問題でもある。製造業は不動産向け融資の1.6倍、国営鉄道会社が含まれる輸送業は同じく1.4倍の融資残高を有している。拙速な債務削減は不動産価格の急落、不動産セクター以外の健全な企業への貸し渋り発生による連鎖倒産をもたらすリスクがある。

こうしたリスクに対処するため、中国政府は日本の不良債権処理の対応をなぞるかのように、中小企業の融資支援や金融機関の管理強化など危機発生時における信用不安の伝播を防止する手だてを講じた。今後も副作用に目配りをしながら慎重に債務削減を進めていくことが想定される。

一方、2023年にかけて実質GDP成長率が3%を下回る水準まで失速する場合、不良債権比率は日本のピーク時の2002年の8.4%を上回る10%近くまで上昇する(図)。仮に、資本が劣化した銀行への公的資金注入が遅れ、大規模な貸し渋りが発生する場合などには、最悪のケースとして中国経済が長期にわたり低迷する可能性もある。
[図] 中国におけるリスクシナリオ別の不良債権比率
[図] 中国におけるリスクシナリオ別の不良債権比率
出所:Wind、中国人民銀行などのデータをもとに三菱総合研究所作成

中国経済の成長基盤を固めることができるか

習政権が世論および党内の支持を固め、2022年秋に開催される中国共産党第20回全国代表大会で3期目入りを確実にするためには、過剰債務を抱えるセクターの債務削減による経済の持続性向上とともに、その他のセクターの円滑な資金調達をサポートし、経済成長を促進する必要がある。

習政権が、「重大金融リスクの防止・解消」および「共同富裕」の実現に向け、経済全体の冷え込みを回避し、淘汰すべき企業を淘汰することで、中国経済の長期的な安定および成長基盤を固めることができるか。2022年は中国の未来を左右する重要な年になる。