地政学的分断や国内産業保護の強まりを背景に、保護主義的な政策を採用したり、貿易制限措置によって他国に圧力を与えたりする、「経済的威圧行為」を行う国が増加している。前編に当たる本コラムでは、日本にとって二大輸出先である米中の経済的威圧行為の現状を中心に考察する。
※1:Global Trade Alertでは、「議論の余地のない上位の動機」による貿易制限措置を集計の対象外としていることには留意が必要である。後述する日本からの水産物禁輸や台湾からの果物禁輸といった一部の経済的威圧行為は、処理水問題や害虫問題を名目にWTOに衛生植物検疫措置(SPS)として届け出られていることから、カウントされていない。
※2:本コラムではHSコード「第3類魚ならびに甲殻類、軟体動物およびその他の水棲無脊椎動物」を水産物として扱っているが、実際には水産物成分を含む品目なども輸入禁止対象となる可能性がある。なお、香港政府による輸入禁止措置は、東京、福島、千葉、栃木、茨城、群馬、宮城、新潟、長野、埼玉の10都県を対象としているのに加え、2023年10月にはロシア政府も中国に追従し、水産物の実質的な輸入禁止を公表している。
※3:中国側の輸入依存度も高かった豪州産石炭を禁輸した際には、中国国内で大規模な停電が発生した。
※4:GTAPは応用一般均衡モデルと呼ばれ、短期的な影響ではなく、中長期的な経済の均衡状態を求めるモデル。関税率の変化によって生じる経済構造調整を終えた状態とそれ以前の状態を比較して影響を算出。なお、今回用いたGTAPは2014年の経済構造を前提としている点には留意が必要。また、GTAPモデルでは輸入を途絶することのような極端な仮定は困難である。今回は輸入制限の効果を見るために、中国が日本からの関税率を30%pt上げたケースを想定している。