マンスリーレビュー

2021年3月号特集1防災・リスクマネジメント

来る巨大災害に対して加速すべき防災の改革

技術と民間投資で人命と経済を守る

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2021.3.1

セーフティ&インダストリー本部堤 一憲

防災・リスクマネジメント

POINT

  • 次の国難災害まで残された時間はわずか。防災の日常化と加速化が必要。
  • 東日本大震災やコロナ禍での経験を踏まえて社会全体で防災改革を。
  • 民間投資の呼び込み、パーソナル防災実現などで課題解決先進国となろう。

1.防災対策「待ったなし」

日本はまごうことなき自然災害大国である。戦後に死者が1,000人を超えた地震災害だけでも、昭和南海地震(1946年)、福井地震(1948年)、阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震、1995年)、そして発生から丸10年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震、2011年)の4災害を数える。さらなる自然災害への懸念も高まっている。南海トラフ地震は今後30年での発生確率が70〜80%、首都直下地震は同70%程度とされている。日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震といった火種も存在する。気候変動に伴う気象災害の頻発も著しい。

2021年2月13日深夜、宮城、福島両県で最大震度6強を観測した地震は、巨大災害の恐怖を記憶によみがえらせた。災害は今日明日にでも発生しないとも限らず、また数十年以内に発生するかもしれない最大クラスの国難災害に対して、われわれが対策に費やせる時間は極めて限られている。過去から何を学び、どう備えるべきか—。折しもコロナ禍である。人命と経済を両立させる大切さをわれわれは知った。人々の暮らしが新常態に移行する中で技術革新などによる社会構造・価値観の変化の重要性も痛感している。

来る巨大災害への先手管理のため、新たな防災の在り方が問われている。

2.過去から学び教訓を活かす

幾度となく経験した災害の教訓を踏まえて、われわれは防災技術・対策を模索・検討・推進してきた。しかし多くの防災対策が社会実装された一方で、従前からの積み残しも多く、社会の持続可能性の議論は日夜繰り返されている。

とりわけ東日本大震災から10年の歳月は、われわれの経験値を超える巨大災害の爪痕の深さを脳裏に刻み、備えの重要性を改めて突きつけてきた。現状を踏まえると今後の巨大災害への対策は順調とはいい難い。南海トラフ地震対策では、対策推進による減災目標として「想定死者数を約33.2万人からおおむね8割減、想定全壊棟数を約250万棟からおおむね5割減」(2014年度からの10年間の目標)を掲げた。しかし、2020年時点の進捗は目標の半分に届いていない。

国の中央防災会議は、東日本大震災の教訓を踏まえ、想定外をなくし未曽有の災害への備え・対策を推進するため、以下の方針を打ち出した。数十年〜百数十年の頻度で発生する地震・津波に対しては、海岸保全施設の整備など、人命保護・住民財産保護・地域経済活動の安定化・効果的な生産拠点の確保などを実践するため「ハード対策主体※1」の方針を継続する。一方で、東日本大震災のような最大クラスの震災に対しては「財産は守り切れなくても人命は確実に守る」前提のもと、「ハード対策+ソフト対策の総合的アプローチ」へ方向性を明確に転換した。

ソフト対策では、実効的な訓練・意識啓発による津波避難対策が挙げられる。東日本大震災直後に多くの国民がもった災害に対する危機感を常に維持・醸成していくことが重要である。しかし、「学び」を活かすことが不得手な日本人の特性もあり、26年が経過した阪神・淡路大震災、発生から10年の東日本大震災を見ても、防災・危機意識および震災の記憶は徐々に薄れ、風化していっているのが現状だ。

記憶が風化する前に苦い経験を防災に活かさねばならない。このことは、すなわち「学び・教訓」の意義に通じよう。これまでの巨大災害においては、産業を守り切れず都度大きな経済的ダメージを負ってきた。技術的に予測や対策ができなかったことへの悔いもある。個々人はなぜ自己責任で動かないかの問題も残っている。

東日本大震災やコロナ禍を通じて、われわれは「人命最優先、しかし社会・経済も持続されるべき」との教訓を得た。東日本大震災では死者・行方不明者約2.2万人(2020年3月1日時点)、ストック被害額約16.9兆円(内閣府防災担当の推計)の被害となった。新型コロナウイルス感染症の影響は現在進行形である。次なる巨大災害に対し、われわれは大切な命・経済・産業を守り抜かねばならない。

3.「防災改革」に向けた3つの提言

東日本大震災などの災害教訓を踏まえて積み上げてきた活動・対策の推進を評価する一方で、残された課題を根本的に解決するには、将来的な社会動向や技術革新の道筋などを考慮した未来予測に基づく防災対策を加速させることが不可欠といえる。検討にあたっては、科学的・論理的なエビデンス(根拠)の収集と分析が求められる。

復興・防災の担い手である地域コミュニティもまた、平素からの自律性、被災時のリソース分散、自治体の広域連携をはじめとするリソース連携を実現する自律分散・協調型へと変容する※2。コロナ禍によって前例のない変化に対する社会受容性が高まっている。革新的技術がそうした動きを下支えして、加速させる。これらの諸要件がそろってこそ、社会全体が一丸となって取り組む「防災改革」(抜本的な防災対策の見直し)が実現する。

提言①:優先度を明確化した防災政策の集中展開、民間投資の呼び込み

「選択と集中」─—。最大クラスの災害に備えるために残された時間が限られる中、現在の防災政策に不足しているこの問題に対しては、科学的な分析手法をもって総合的な判断を実施する必要があるだろう。そうした客観的かつ定量的な指標があってこそ民間投資の誘導が可能となり、被災による経済損失を防ぐ礎を築く原資を確保することにつながる。「ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)」のような金融スキームの積極的な活用も望まれる。

整備進捗の遅れなどのハード対策で着手すべきは、防災政策の集中展開を行うことだ。各省庁・地方公共団体で進められている防災対策のうち最も防災・減災効果が高い対策を優先に予算を集中的に投入すべきだ。各種対策による防災・減災の効果を定量的に推計するロジックを組み込んだリスク評価分析が必要である※3。防災予算の再配分と集中的な投入に際して地域の災害危険性も考慮する必要があろう。将来的に震度7などの強震動が予想される地域※4では耐震対策に集中的に財政支援することがトータルコストの削減、ひいては人命や経済・産業を守ることにつながる。防災に関わる情報・知識(ノウハウ)・技術、さらに体制・予算などを一元化した危機管理省庁の創設も一つの方向性であろう。

もう一つの方向性として、事後の復旧・復興への対応から事前対処・減災への軸足シフトも必要である。度重なる自然災害の発生により復旧費の支出は膨張している。故に、国の防災関係予算のうち災害予防へは2割程度しか配分できない。災害予防に対する公的な「事前防災」投資のみでは、もはや限界である。民間投資の呼び込みによる対策の加速は必須だ。

民間投資を呼び込むための金融スキームのうち、SIBは新たな官民連携の仕組みとして注目されている※5。成果連動型であるSIBの特性を考えれば、科学的・客観的な事業評価指標を導入し成果を可視化することは必須要件といえる。その上で官民が同じテーブルに座れば、客観的根拠に基づく大局的な合意形成が可能となる。実現に向けた体制作りにすぐにでも着手すべきである。

提言②:新たな防災技術の結集による先端的防災社会の構築

技術面の学び・教訓に関しては、革新的技術を社会実装する挑戦が日夜続いている。10年前には不可能だったAIを用いた災害予測や災害用物資のマッチング、3Dの仮想都市空間をモデリングした「デジタルツイン」などは実用段階に入りつつある(表)。AI・IoT・ビッグデータ・デジタルツインなどのデジタル化をはじめとする新技術は次世代の防災を抜本的に変える可能性を秘めている。膨大なニーズのマッチングやリアルタイムの意思決定、リアリティ創出・知の共有など、さらなる展開が求められる。

今後の防災にとっては、日常生活とのバランスや連携も重要である。日常のさまざまな取り組みの中に、「災害時にも役立つ」といったフェーズフリー(日常と非日常という2つの状態の垣根を取り払う)のコンセプトを浸透させ、そこに新技術を組み入れることも重視されるべきだ※6。生活者のニーズを丁寧にくみ取り社会実装するためにAIの高度活用も有用であろう。
[表] 防災技術のデジタル化・高度化の例

提言③:自助力向上のためのパーソナル防災の実現

自分の身は自分で守るという「自助」意識の欠如の問題には中長期的視点をもって臨まねばならない。防災における自助の重要性は自明だが、災害の記憶は風化する。教訓から何を学び、どう活かすかは自己責任に委ねられるとはいえ、防災教育などによる支援は可能だ。個人の判断を支援する「パーソナル防災」の必要性はますます高まるだろう。とりわけ将来の防災の担い手である子どもたちへの、防災教育の徹底と投資の継続は重視されるべきである。

パーソナル防災は、個人の情報収集力・対応力の強化に有効なことから、すぐにでも社会実装されることが望ましい。例えば、「防災情報伝達のローカライズ化・パーソナライズ化」の機能が提供されることで、災害時に最適な個人行動を促すための情報コンテンツがスマホなどへ送信され、自助による判断の補助となる。

具体的な要素技術としては、AIを用いたリアルタイム被害予測情報に基づくリスク判定やGPSなどの位置情報の活用が期待されている。避難先や避難のタイミング・ルート、その際の留意事項といった情報をタイムリーかつ自動的に提供して発災時の避難行動を最適化する。今後はリアルタイムに実際の被害状況を取り込んで被害予測を見直すなど、より適切な避難誘導が促されるべきだ。技術革新によりその仕組みが社会実装される日は近い。

ただし、単にツールを提供するだけにとどめるべきではない。行動経済学の概念の一つである「ナッジ」と組み合わせて、人々の行動を予測可能なかたちに変えたり、意思決定上のバイアスを解消したりすることも今後重視されよう※7

4.次なる巨大災害に立ち向かうために

東日本大震災からの道程を振り返れば、10年間で防災対策が進んだ部分もあれば今なお課題が残っている部分もある。東北地方は震災時には既に高齢化・人口減少が進んでいたが、これからは日本全体に広がっていく。今後の防災対策を待ったなしで真剣に取り組む時期に至っている。精神論ではなく、いつまでに何をするのか今後議論を深める必要がある。過去から得た学びを通して将来像を描き、最新の科学的根拠に基づき、あるべき姿勢をどう発言し続けるかは、重要な命題である。

折しも新型コロナという想定外の禍(ハザード)に日本も見舞われた。人命だけでなく経済・産業を守ることの重要性が再認識される中、働き方も含め、価値観・考え方、行動・生活スタイルは新常態に柔軟に適応し、姿を大きく変化させた。将来においては、さらなる災害が必ず到来する。次なる巨大災害に立ち向かうためにわれわれの意識とともに社会構造そのものを変革させていこう。

東日本大震災やコロナ禍を経験したわれわれは変えられるはずだ。

※1:ハード対策の一例としては、住宅の耐震化・木造密集市街地の解消などが挙げられる。南海トラフ巨大地震の被害想定で揺れ・火災による被害は建物被害全体の8~9割を占めるが、住宅所有者の経済的負担などの理由から対策の進捗が芳しくない。

※2:MRIマンスリーレビュー2021年3月号「自律分散・協調で災害復興への備えと持続可能な地域の両立を」

※3:現在の被害想定では、一部の対策の効果しか組み込まれていない。なお推計においては、耐震化による建物被害率低減、感震ブレーカー普及による電気火災の抑制、津波からの避難迅速化による人的被害低減をはじめとして、あらゆる防災・減災対策による被害軽減効果の定量化と対策実施の優先順位付けが必要である。

※4:2021年2月13日に発生した福島県沖を震源とする地震(最大震度6強の余震)では幸いにして大きな被害が発生しなかったが、この揺れよりも震度7に近づくような強震動となった場合は急激に被害が発生しうる。

※5:防災分野でのSIBを推進するためには、地域経済・産業を守るというコンセプトのもとで地域の検討体制を組成し、重要インフラが供給停止した場合のインパクトなど、災害時における地域の脆弱性を、関係機関で認識共有することが求められる。インフラ強化などの対策によりもたらされる効果を貨幣化(事業評価指標を設定)する際には、将来の社会情勢を踏まえたリスクモデルと予測手法が重要となる。

※6:MRIマンスリーレビュー2021年3月号「日常生活に防災を無理なく実装する『フェーズフリー』」

※7:ツールとナッジとの組み合わせにより災害時の予防的避難や事前防災で効果を上げていく必要がある。コロナ禍によって人々の災害に対する心理やふるまいが変化した点も見逃してはならない。

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