マンスリーレビュー

2024年3月号トピックス1防災・リスクマネジメント

能登半島地震が浮き彫りにしたもの

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2024.3.1

社会インフラ事業本部大熊 裕輝

防災・リスクマネジメント

POINT

  • 高齢化が進み自治体職員も少ないことで災害対応が困難に。
  • 耐震化で住民の命を守り、ライフライン分散で生活維持を。
  • 現地入りした各機関がもつ情報を集約して全体像把握の迅速化を。

災害対応の難しさが改めて露呈

元日に発生した能登半島地震では、高齢化が進み自治体職員も少ない中山間地域での災害対応の難しさが改めて露呈した。震度7の揺れや大きな地盤変状※1が発生、地震発生からすぐに津波が到達した。普段からアクセスに時間がかかる地域への数少ない幹線道路が寸断して、多くの集落が孤立。避難生活も長期化し、被災者と災害対応担当者の双方にとって過酷な状況が続いている。

耐震化とライフライン分散を

奥能登地域での古い木造住宅の割合※2は、珠洲市が全国の市および人口1万5,000人以上の町村の中で最も高く、能登町や輪島市も上位5位内に入っている。これら地域の住宅の耐震化率は5割前後と、全国平均の87%を大きく下回る。さらに、ここ数年、能登半島では地震が頻発しており、古い家屋にダメージが蓄積していた可能性がある。こうした要因などから輪島市で大規模な火災が発生したほか、各地で家屋の倒壊が見られた。

今回の地震では、能登半島北部6市町のほぼ全域で、発生から約1カ月が過ぎても断水が続いた。また、石川県内の停電発生世帯のうち、1週間後で54%、3週間後でも17%で停電が続いた。阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震では1週間後にはほぼ復旧していた。

建物の耐震化や不燃化で住民の命を守るとともに、自給自足の能力を高めて停電・断水や集落孤立への耐性を強めるべきだ。そのためには蓄電池や浄水装置などを地域の実情に合わせて整備し、ライフラインを分散化しておく必要がある。

被害の全体像把握を迅速化するには

過去の震災を踏まえ構築された国や防災関係機関、自治体、業界による広域支援の初動は早かった。それでも被害の全体像把握に手間取り、避難者の所在やニーズの把握と共有が遅れた。停電や通信途絶、道路寸断、大渋滞、降雪により被災地への人員派遣が困難だったことなどが響いた。

ただ、他地域からの応援組が適切に活動できるよう事前の受け入れ準備が万全にできていれば、支援活動をさらに円滑に行えたであろう。自衛隊や消防など現地で活動した各機関がもつ貴重な情報を集約するだけでも、全体像把握の時間はかなり短縮できるはずだ。

防災DX官民共創協議会が石川県庁に入り、情報集約・共有の観点で臨時のシステムを構築するなど環境改善を支援している。デジタル庁は避難者に交通系ICカードのSuicaを配布し、名前や住所、連絡先などの情報をひも付けて、その居場所や行動を把握する仕組みの構築を進めている。これらの取り組みによってノウハウを蓄積し、今後の災害対応に活かすことは極めて重要である。

能登半島地震では30以上の地区が孤立した。南海トラフ巨大地震が起きた場合、約2,100の農業集落と約450の漁業集落が孤立する可能性がある※3。今回の震災を、これら地域の地震対策を見直すきっかけにしたい。

※1:逆断層運動によって最大4メートルの隆起が発生し、液状化に伴う側方流動で地盤が約3メートル移動するなどした。

※2:総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査」に基づく、木造住宅に占める1980年以前に建築された住宅(旧耐震基準)の割合。

※3:内閣府(2019年6月)「南海トラフ巨大地震の被害想定について(施設等の被害)」。