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2024年3月号特集3サステナビリティ経済・社会・技術

事例で読み解くエシカル消費市場攻略 4つの鍵

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2024.3.1

政策・経済センター淺井 優汰

サステナビリティ

POINT

  • 利他と利己の価値の組み合わせが、エシカル消費市場攻略の第一歩。
  • 効果的な可視化と消費者との共創で、消費者への価格転嫁を。
  • 企業・業界の壁を越えた協調領域の拡大で、コスト抑制を実現。

エシカル消費市場攻略の鍵を探る

環境問題やフードロスをはじめ社会課題の解決を目指す「エシカル消費」。企業のエシカルな取り組みを阻む最大の要因は、エシカルな商品・サービスの提供がコスト増を招くことにある。では、「エシカル」の価値を消費者に訴求し、コスト以上の利益を生む鍵は何か。4つの道筋を示す(図)。
[図] エシカル消費市場攻略に向けた4つの道筋と成功事例
[図] エシカル消費市場攻略に向けた4つの道筋と成功事例
出所:三菱総合研究所

(1) 利他と利己の価値の組み合わせ

第1は、社会課題解決と消費者利益の両立である。特集1で示したとおり、エシカル消費を利他的な目的のみで行うことはまれであり、「地球・社会・地域のため」と「自分・家族のため」の両方を意識することが多い。

クラダシは、企業と消費者をつなぐ仕組みを作り、「フードロス削減」と「おトク」を両立させている。社会貢献型サイト「Kuradashi」はフードロス削減に賛同するメーカーから協賛価格で買い取った商品を安価で販売、売り上げの一部を社会貢献活動団体への支援に充てる。従来廃棄される可能性のあった商品に新たな「価値」を付けるアップサイクル※1で1.5次流通市場という新たなマーケットの創出に成功している。2023年6月期の売上高は約29億円に及ぶ。

(2) 効果的な可視化で「エシカル」を価値化する

第2は、エシカルな取り組みを効果的に可視化し、消費者の共感を引き出すことである。その鍵は、企業が独自のストーリーで語る「ストーリーテリング」と「社会的信頼の獲得」の2つとなる。

①ストーリーテリング
エシカルな取り組みを企業独自の言葉で語ることである。成功例に、アウトドア大手のパタゴニアがある。同社は、売り上げの1%を環境保護団体に寄付しているほか、マーケティングを人々の行動変容を促すツールと捉え、サイト上でさまざまな「製品に込めた思い」を発信。労働慣行、環境負荷などの透明性を確保し、社会・地球の持続可能性にコミットする姿勢を語ることで、消費者をパタゴニアの目指す世界観へ引き付け、価値観を共有している。

②社会的信頼の獲得
自社の社会的位置付けを変えることである。パタゴニアをはじめサステナビリティに優れる企業に与えられる「B Corp(Bコープ)※2」と呼ぶ米国発の認証を目指す動きが世界で広がっている。背景には、Bコープの取得が、ブランディングなど有形無形の恩恵をもたらすことがある。実際、日本のアパレルブランドで初めてBコープを取得したCFCLは、Bコープで得た信頼も相まって、ブランド立ち上げから3年で世界20カ国以上での販売実績を達成した※3。前出のクラダシをはじめ、すでに37社(2024年2月時点)の日本企業が認証を取得するなど、エシカルを重視する意識が国内企業にも徐々に広がっている。

(3) 消費者との共創を通じてエシカルの価値を拡大

第3は、エシカルな取り組みに消費者を巻き込むことだ。「応援消費(製品やサービスの購入を通じて、作り手の理念や思いを支える消費形態)」の普及を目指すマクアケの取り組みが注目される。同社は応援購入サービス「Makuake」を運営する。

同社のサイトには世に知られていない製品が数多く出品されており、サポーター(消費者)は製品の理念やこだわりに共感し応援したいものにお金を支払う。例えば、サステナブルブランド「ecuvo,」による「無染色オーガニックコットン100%今治タオル」の販売プロジェクトがある。「寄付する側」「される側」の上下関係が生じがちなクラウドファンディングと異なり、売り手と消費者が対等な関係を保ちながら、より良いものを生み出す点が応援消費の特徴である。Makuakeで得た声を商品開発に活かす売り手も多く、エシカル商品の共創プラットフォームとなっている。

(4) 協調領域の拡大でコスト抑制を

第4は、企業・業界横断での連携である。日清食品とサッポロは、静岡~大阪間の輸送で、即席麺(軽量物)とビール(重量物)を組み合わせた共同輸送を実施している※4。両社が個別に輸送していた時と比べ、トラックの使用台数は約20%減少、CO2排出量は年間約10t削減されたという※5


エシカル消費への関心は高まりつつあり、企業・教育機関などの啓発を通じて社会で定着する日はやってくる。企業は4つの道筋を参考に、エシカル消費市場の攻略に向け、社会や地球との共生と利益追求の両立を図るべきだ。

※1:廃棄予定だった材料に手を加えることで価値を見いだし、新たな商品に生まれ変わらせること。

※2:B Corp認証は、環境や社会へのパフォーマンス、透明性、説明責任、持続可能性において優れた会社に与えられる認証制度。

※3:東洋経済オンライン(2023年12月29日)「パタゴニアに次ぐ高得点『日本発ブランド』の正体」。

※4:従来、軽量物(即席麺)の容積積載率は100%に近いが重量積載率は50%程度、対して重量物(ビール)の重量積載率は100%に近いが容積積載率が50%程度だった。両者を掛け合わせることで、複合積載率(重量×容積)を100%に近づけた。

※5:CO2削減量は、ラウンド輸送の週2便運行により見込まれる1年間あたりのCO2排出削減量。燃費法にて実施前後のCO2排出量を算出。

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