マンスリーレビュー

2024年3月号特集2エネルギー・サステナビリティ・食農

消費者は「エシカル消費」に何を求めているのか

2024.3.1

政策・経済センター酒井 博司

エネルギー・サステナビリティ・食農

POINT

  • エシカル消費の認知度は高まるが理解浸透と実践は途上。
  • 質量ともに世代差が大きい日本のエシカル消費。
  • 市場拡大には実態に即した財・サービスの提供が不可欠。

エシカル消費の理解浸透と実践は途上

エシカル消費の認知度や関心は徐々に高まりつつある。2023年度に消費者庁が実施した「第3回消費生活意識調査」※1によれば、エシカル消費の認知度※2は29.3%であり、2019年度調査の同12.2%※3から着実に増加している。また、全国10~70代の男女を対象とした電通の「エシカル消費 意識調査2022」では、エシカル消費の名称を知っている割合は41.1%と同2020年調査から17.1%ポイント上昇した。いずれの調査もエシカル消費の認知度の上昇を示している。

ただし、エシカル消費の理解浸透はいまだ途上だ。エシカル消費という言葉を聞いたことはあっても、内容まで知っているとした回答は消費者庁調査で8.6%、電通調査では6.9%にとどまる。

実際、特集1でも触れたとおり、日本のエシカル消費の水準はまだ低く(約8.8兆円、家計消費支出の約3.1%※4)、エシカル消費先進国といわれる英国と比べると見劣りする。

世代間格差が大きいエシカル消費

当社の3万人生活者パネルのアンケート調査を詳細に見ると、日本のエシカル消費は質量両面で世代間の格差が大きいことがわかる※5。「日頃から多少高くても、環境に配慮した商品を購入する」ことへ前向きな回答者の割合からは、年代間格差、世代間格差に関連して、大きくは次の4つの特徴を挙げることができる(図)。
[図] 必ずしも高まりを見せていないエシカル消費意欲
[図] 必ずしも高まりを見せていないエシカル消費意欲
クリックして拡大する

出所:三菱総合研究所「生活者市場予測システム(mif)」アンケート調査(2011年~2023年に経年で実施、回答者は各年3万人)
第1に、若年層に比べ、子育てが終わるなどして生活にある程度ゆとりの出てきた60代以上のシニアにおいて、多少値段が高くても環境配慮型の商品の購入に前向きな回答を示す割合が高い。内訳を見ると、団塊の世代を含む70代では環境配慮消費や応援消費、60代では地元購入のウェイトが相対的※6に高くなっている。

第2に、同じシニアの中でも若い世代ほど、前出の回答割合は低下している。この点は若年期の経験差によると推察される。例えば高度成長期に20代を過ごした団塊の世代(1947~1949年生まれ)は、環境汚染問題やオイルショックを同時に経験し、環境への意識を高めた。それは、20代を大量生産・大量消費・大量廃棄のバブル期に過ごした60年代生まれとは対照的である。

第3に、消費の中心を担う30~50代の同回答割合は10~15%程度と低い。この世代は「失われた30年」を経験する中で、価格に敏感になった世代と推察される。中身を見ると、旅行やスポーツ関連などのウェイトが相対的に高く、無理なくエシカル消費を行う向きが多い。

第4に、幼少期からSDGsなどエシカルに関わる教育を受け、環境問題への意識が高いと言われるZ世代(20代前半)は前世代と比較し、多少高くても環境に配慮した商品を購入するという回答割合が高い。この世代に見られる、地域に根差した消費やクラウドファンディングを志向する割合の相対的な高さからは、意識的にエシカル消費をしている世代と見なすことができよう。このような大きな世代差の考慮は、エシカル消費市場の規模拡大に不可欠である。

エシカル消費を取り巻く課題解決に向けて

日本でもエシカル消費の認知が進みつつあるものの、新たな消費のキーワードとなるまでには至っていない。課題と示唆は大きく3つある。

1点目は、エシカルな財・サービスの選択が困難なことや効果が不透明なことに、消費者の不満がある点だ。今後の市場拡大を担うエシカル意識の高いシニアや若年層に向けて、エシカル消費の効果を積極的にアピールする企業努力は極めて重要である。その際は、世代特性に見合ったエシカルな取り組みの可視化を進めるための、各種リサーチ、分析を入念に行う必要もあろう。

2点目は、消費者のエシカル消費の現状に根差した裾野拡大策の必要性だ。特に重要なのは、無理なくエシカル消費を行う30~50代に対しては、「健康にいい」「かっこいい」などの利己的な目的を満たすと同時に環境配慮や社会課題解決にも資する、利他と利己を組み合わせる視点である。

3点目は、エシカル消費への消費者の能動的関与を引き出す仕組みづくりである。意識がとりわけ高い若年層には、企業と消費者の共創、企業を越えた協調を通じエシカル消費が社会貢献につながる道筋を明確化することが求められよう※7

企業自らがエシカル消費への取り組みを可視化し、エシカルな商品やサービスの背後にあるストーリーまで消費者へ訴求することができれば、エシカル消費のいっそうの定着につながることが期待できる。

※1:全国15歳以上の男女5,000サンプルを対象としたインターネット調査。

※2:エシカル消費という言葉を知っている、とした割合。

※3:消費者庁(2022年12月22日)「エシカル消費に関する消費者意識調査」。全国の16~65歳の男女2,803人が対象。

※4:エコノミックインサイト(2023年8月30日)「ウェルビーイング時代の消費の在り方を提言」。

※5:エシカル消費費目の量的側面は「特集1」参照。

※6:エシカル消費構成費目の全世帯平均値と比較した場合の相対的な大きさ。なお団塊の世代を含む70代は、若年期に経験した高度成長の負の側面としての環境問題が環境意識を醸成した結果、環境配慮商品のウェイトを高めたとみられる。

※7:利他・利己の組み合わせや、消費者との共創、協調の具体的事例は「特集3」参照。

著者紹介