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2021年2月号特集1経済・社会・技術デジタルトランスフォーメーション

未来社会を切り拓く「3Xと共領域」

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2021.2.1
経済・社会・技術

POINT

  • 「100億人・100歳時代」に向けて豊かさと持続可能性との両立を。
  • 革新技術による「3X」と未来のコミュニティ「共領域」が鍵。
  • 人と社会の自律分散が進む未来で協調による新たな価値を創出する。

1.「100億人・100歳時代」に向けて

これからの50年で世界の人口は100億人に達する※1。平均寿命も延び、先進国では「人生100年時代」が到来する。経済合理性と物質的な豊かさを優先する20世紀型の社会を続けながら「100億人・100歳時代」を成り立たせるのは難しい。50年後に、世界の全ての人が現在の日本人と同水準の暮らしを送れるようにするためには、地球3.3個分の資源が必要になると試算される※2

こうした事態を避けるためには、社会を、豊かさと持続可能性を両立させた21世紀型へと変革させなければならない。そのためには、「一人ひとりのウェルビーイング※3」と、「次世代に向けた安全安心で持続可能な社会」を同時並行的に実現させる必要がある。

一人ひとりのウェルビーイングを実現するには、健康維持・心身の潜在能力発揮、多様性の尊重とつながりの確保、新たな価値創出と自己実現の3つが必要となる。これは、未来に向けたウェルビーイング実現の重要な要素が、健康、つながり、そして自己実現であるとの考えに基づいている。

次世代に向けた安全安心で持続可能な社会を実現するには、自然災害や感染症などに対する安全安心を担保するとともに、資源の有効活用などを通じて地球環境を保全し続けることが不可欠となる。

50年後に100億人がそれぞれの人生でウェルビーイングを達成するとともに、22世紀を見据えた持続可能社会を実現するには、今から行動を始める必要がある。

2.革新技術による「3X」と未来のコミュニティ「共領域」

未来社会を構築していく上で、鍵となる要素(キーファクター)は2つある。革新技術により人と社会を変革する「3X」と、人々が協調して新たな価値を生む未来のコミュニティ「共領域」である。

3Xは、デジタル・トランスフォーメーション(DX)、バイオ・トランスフォーメーション(BX)、コミュニケーション・トランスフォーメーション(CX)である※4(図1)。BXとCXは当社による造語だ。

DXは、AIやIoTといったデジタル技術とビッグデータの活用などを通じて、社会に変革をもたらす。効率化・利便性の先にある豊かさを実現するとともに、多様な価値を可視化、定量化させて連鎖させる効用もある。

BXは、脳科学や人と機械のインターフェースなどの進化を通じて、生命体としての人間の能力を拡張させる。ゲノム解析によって一人ひとりに合わせた「テーラーメード医療」もその一つだ。培養肉やフードプリンターのように、バイオ技術などを駆使して地球環境の保全に貢献する食料の生産も促進する。

CXは、DXとBXの融合を通じて、時間や空間に制限されない新しいつながりを可能とし、コミュニケーションの量と質に大きな変革をもたらす。現在、デジタル機器を介してやりとりできるのは聴覚情報や視覚情報が中心だが、ハプティクス(触覚伝送)技術が発展すれば、圧力感覚などの情報も伝達可能になる。脳波のサンプル分析から感情を読み取るような、感情可視化ツールも発展していく。これまでアイデアでしかなかった「テレパシー」などが現実になろうとしている。
[図1] 人と社会を変革する3X
もう一つの要素である「共領域」も当社が新たに打ち出した概念である。一人ひとりの自己実現を社会全体の豊かさと持続可能性の両立につなげる上で欠かせない、未来のコミュニティである。目的を共有するさまざまな人たちが時空を超えて集まり、価値を創造し、新たな産業を生み出す場である。

現代社会では、「公(パブリック)」と「私(プライベート)」の二元論が限界に達しており、格差は拡大の一途をたどり環境問題も悪化を続けている。今後は、人々のつながり、支え合いによる「共」が未来に向けて社会と個人とをつなぐとともに、個人同士がつながることで、新しい価値を創出するのである。

人は長い歴史のほとんどの期間、食べることによって生命や生活を維持することを目的に暮らしてきた。そのために共同で農耕にいそしみ、地縁・血縁のコミュニティを育んできた。その後、産業革命が起こり、もっとモノを持ちたい、豊かになりたいという欲望が「会社」に代表される経済活動を通じたコミュニティを生み出した(図2)。

しかし、生きるために食べる、物質的に豊かになるという目的の多くが達成される中、それだけでは人のつながりを維持できなくなってきている。また、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴って人間同士の接触が大幅に制限された結果、従来のつながりは大きな制約を受け、個人の自律分散化がさまざまなレベルで急速に進んでいる。

社会の在り方が変化しないまま、3Xによる技術革新が先行してしまうと、自律分散化が孤立や分断を加速させてしまう恐れがある。そうさせないためにも、多様な目的・価値観をもった人々を結びつけ新しい価値を創出するコミュニティとして、共領域が必要となる。地縁・血縁や経済活動による従来型のコミュニティも、3Xと共領域によってアップデートする。共領域によって、一人ひとりがやりたいことを通じて自己実現し、協調、共創して価値を生み出し、その価値を共有・交換できるようになる。

限界を迎えつつある20世紀型の社会システムから、豊かさと持続可能性の両立に不可欠な「自律分散・協調」への移行は、3Xと共領域とによって完成する。
[図2] 共領域の形成

3.「3Xと共領域」による未来社会の萌芽

3Xと共領域による未来社会の萌芽(ほうが)は、すでに出てきている。例を2つ挙げる。

DX・BX・CX : 青森県弘前市の啓発型健診

青森県は日本一の短命県である※5。平均寿命延伸への県民の悲願を背景に、弘前大学が中心になって約15年間、啓発型健診を続けている。県民約1,000人について、1人あたり最大2,000項目のビッグデータを採取し、生活習慣病の予防などに取り組んでいる。

この活動を通じて健康という目的を共有する人々の新たなつながりが生まれ、地域内外のさまざまなステークホルダーが協調することで、新たなコミュニティが誕生した。健康という新しい価値観に基づいたコミュニティに加え、革新技術を活用した健康産業が創造されると期待できる。

DX・CX : 南ドイツの地域通貨キームガウアー

ドイツ南部バイエルン州の地方都市で約20年前、地元高校の教師と学生の発案で始まり、現在も発展している地域通貨プロジェクトである。元々は、彼らが通う学校の設備を更新するための資金獲得が目的であったが、地域住民との対話の中で、地域外にお金が出ていきにくい仕組みとして、地域住民全体にインセンティブが行きわたるように設計された。

ユーロからキームガウアーへの交換は等価だがユーロへの交換では手数料5%を徴収し、3%はNPOへの寄付などで地域のために充て、2%は運営経費とする。消費増に向け、キームガウアーを期限内に使わないと価値が減っていく工夫も講じた。

当初は紙幣であったが、デジタル化によってスマホなどで手軽に使えるようになり流通が加速した。価値が地域内で循環する仕組みが形成されることにより、地域の活性化や住民のつながり、気候変動に対する取り組みなどの加速につながっている。このような取り組みが多くの地域で広がっていくことで、「豊かさ」の概念が変わっていくだろう。

4.「目指す未来社会」実現のために

3Xを実現する革新技術には、人の自律性を高めると同時に、孤立や分断を加速させる反作用もある。また、進化の方向性次第では、人そのものの在り方に対する倫理的な課題も生じさせかねない。豊かさの定義が20世紀型の「量的な成長」のままにとどまり、「質的な成熟」に移行しなければ、不幸な未来社会が実現する恐れもある。

さらに、変化を柔軟に受け入れることができる社会受容性を、制度の面でも人々の意識の面でも、高めておく必要がある。個人や企業、団体や政府などの多様な主体が、望ましい未来実現の道筋についてビジョンを共有した上で、自らの価値観と行動を変革していくことが不可欠である。

今後、日本の人口は減少を続け、2070年には8,300万人※6にまで減少すると予測されている。65歳以上の高齢者世代と生産年齢世代の逆転は2050年ごろまで続き、急速な人口減少と高齢化に直面する。

これからの50年、世界に先駆けて直面するさまざまな問題に向き合いながら、新しい豊かさと持続可能性を実現することが、未来創造のフロントランナーとしての日本に求められる役割である。未来社会の目標をしっかりと定め、それをバックキャストして今からやるべきことを実践し、課題を克服して新たな社会を構築していく姿を世界に発信していく必要がある。

※1:国連の中位予測によると、2070年に104.6億人まで増える見込み。

※2:人の暮らしに必要な食料や物資を生産するための耕作地や森林など、社会・経済活動によって排出されたCO2を吸収するために必要な生態系サービスの総量を面積に換算した「エコロジカルフットプリント」に基づく試算。

※3:1948年に世界保健機関(WHO)憲章の前文に使われた言葉。「人が身体的だけでなく、精神的にも、社会的にも良好な状態」という広義の健康概念を指す。現在は、より幅広い人の幸福や生活の質を示す概念として使われている。

※4:MRIマンスリーレビュー2020年5月号 特集「人間・生命拡張技術の先に新しい人類は生まれるか」
三菱総合研究所の未来読本フロネシス22号「13番目の人類」(2020年4月発行)

※5:厚生労働省による都道府県別の平均寿命調査(5年ごと集計)によると、青森県は2015年時点で男女ともに最下位。

※6:国立社会保障・人口問題研究所による出生中位推計。

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