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2021年2月号トピックス2サステナビリティ

真の適応ビジネスで気候変動に強い企業へ

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2021.2.1

サステナビリティ本部佐々木 美奈子

サステナビリティ

POINT

  • 気候変動を逆手に取った「適応ビジネス」の新たな動きに着目。
  • 先進企業は気候以外の変動要因も見据えながら事業を検討。
  • 中長期的な社会変化を想定した適応ビジネスの創出が鍵。
気候変動を「緩和」するための対策として、菅政権は2050年カーボンニュートラルを宣言し温室効果ガスの排出を実質ゼロにするとした。さらに近年多発する気象災害のように、足元で生じつつある気候変動による影響に「適応」※1した社会の構築も進められている。こうした変化を逆に機会と捉え、気候変動への「適応ビジネス」として、既存のサービス・製品に気候変動対応の機能や価値を見いだす動きがある。

着目すべきは、気候変動やその他の社会変化を見据えながら、既存のビジネスモデルにとらわれず新事業の創出を試みる先進企業である(表)。各社は「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」※2に賛同し、気候関連リスクや機会に関する情報開示に取り組む。多くの企業が、気候変動対応による財務上のマイナス影響や既存事業の縮小への懸念から、事業戦略への反映に二の足を踏む中、先進企業はいち早く、気候変動を事業機会と捉えた対応にかじを切っている。

積水化学工業は、気温上昇が2℃に抑えられ、地方分散が進んだ社会を適応ビジネスの前提に据えた。地産地消が進むことで、電力・水・炭素など資源循環の利用を支えるインフラの需要が増加すると分析し、そこに価値を提供するとしている。

日立製作所は、モビリティ産業が大きな構造変化に見舞われるとみている。2050年に向けて気温上昇が2℃に抑えられた社会では、温室効果ガス削減に向けて新しい移動サービスの需要が拡大。同社が手がけている鉄道事業にも、デジタル技術を利活用したさらなる効率化が迫られると考えている。

先進企業には、「2030〜2050年までの中長期スパンの視野」「社会経済・ライフスタイルの変化も見据えた社会像の想定」「価値を提供する際の収益化の視点」の3点が共通している。適応ビジネスを模索する企業は、ここに自社の理念を重ね合わせて、顧客や従業員などの共感を得つつ新規事業を創出する必要があろう。丸井グループの試算では、1.5℃の目標下で同社のグリーン・ビジネスによる機会は気候変動による財務上のリスクを上回る。気候変動は多くの企業のビジネス機会を広めるだろう。

※1:気候変動による影響から人命・経済・資産などを守るため、社会システムやライフスタイルを変え、気候変動影響を低減、あるいは影響に順応していくこと。ハザードマップに基づいた気象災害の低減、熱中症や感染症への対処などがある。国内では2018年に気候変動適応法が施行された。

※2:Task Force on Climate-related Financial Disclosures(TCFD)。G20での財務大臣・中央銀行総裁会議の意向を受けて金融安定理事会(FSB)によって設立された。

[表] 適応ビジネス先進企業が描く、中長期の社会変化と事業機会