電気自動車普及に向けた普通充電時のデータ連携の必要性

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2021.9.17

サステナビリティ本部志村雄一郎

環境・エネルギートピックス

EV普及への期待とエネルギーマネジメントの必要性

脱炭素社会の実現に向けたカーボンニュートラルの推進が世界的に加速する中で、電気自動車(EV)普及への期待が高まっている。欧州では、2030年以降、化石燃料のみで走行する自動車の販売が規制される動きも出てきている。こうした社会の変化から、自動車会社各社は、脱炭素に向けて再生可能エネルギー由来の電力を用いる電動化を進め、電気自動車の販売に本腰を入れ始めている。

EVの普及は再生可能エネルギーとのセットで考えていかなければならない。その際、EVのエネルギー源となる電力を安定的に供給するためには、その時々で電力の需要と供給を常に一致させることが不可欠であり、そのための電力の適切な需給調整が求められる。

これまでは、そのような需給調整の役割は、出力調整が容易な火力発電所が担ってきた。しかし、脱炭素化の観点から火力発電所が削減されるなかで、天候などによって出力が左右され、発電量の制御が困難な風力や太陽光といった再生可能エネルギーの需給をどう調整するかは課題である。そこで、新たな需給調整機能としてEVの蓄電池に注目が集まっている。

EVユーザーは、EVをいつ充電するかといった充電の制御機能を電力会社などの系統運用者に提供することで、系統運用者側から需給調整のための対価を得ることが可能となり、それによりEVの経済性は改善され、さらにEVの販売台数が増える好循環が実現する。つまり、EVの充電を管理するエネルギーマネジメントは、需給調整機能を必要とする電力側だけでなく、EVのユーザーとメーカーも合わせた三者にとってメリットがある。

EVを活用するエネルギーマネジメントビジネスの課題

EVの蓄電池を活用したエネルギーマネジメントの実現には、電力需要が集中しないよう充電のタイミングを適切にシフトする必要がある。そのためには、普通充電(駐車時に時間をかけて実施するような通常の充電)時に適切な制御が求められる。しかし、日本では、通常の充電に用いられている普通充電器とEVの車両との間でデータのやりとりができず、搭載された蓄電池の充電量などの車両情報を充電器経由で入手できない通信機能の制約が、大きな課題となっている※1
図1 EVを活用したエネルギーマネジメントの実現に向けた日本の課題
図1 EVを活用したエネルギーマネジメントの実現に向けた日本の課題
出所:三菱総合研究所
このような課題に対応するため、日本国内でのEVの蓄電機能を活用する実証試験では、車両の通信機能(テレマティックス)を用いて、自動車会社が、電力の需給調整を担う事業者に、充電量などの情報を個別に提供している。ただし、このような方法だと、特定の自動車会社のEVの充電を管理するのは可能であるが、複数の自動車会社のEVを束ねるようなエネルギーマネジメントの実現は困難である。エネルギーサービスを提供するアグリゲーターとなる事業者は、個々の自動車会社に対してデータ提供の依頼やデータ連携を個別に進めることで、その手間が煩雑となってしまうためである。

新たなエネルギーマネジメントビジネスの実現に向けたデータ連携に関する提言

日本でこうしたEVとのデータ連携の課題を解決するためには、各社のテレマティックス経由で得られる複数の自動車会社のデータを統一的に連携させる仕組みが必要となる。
図2 EVを活用したこれからのエネルギーマネジメントの在り方
図2 EVを活用したこれからのエネルギーマネジメントの在り方
出所:三菱総合研究所
一方で、データを提供する自動車会社にとってみれば、各種のデータ提供を第三者にその都度求められても対応が困難である。そのため欧州では、既存のシステムを活用しつつ費用と手間を抑える存在として、データ連携機能を仲介するようなスタートアップ企業が複数、出てきている状況である。自動車会社は各社各様でデータを仲介企業に提供し、その仲介企業がデータを加工してデータを必要とする企業に定まった形式で提供している。

こうした動きの背景には、欧州委員会のオープンデータ化政策がある。データを1社が独占するのではなく、データを連邦型で管理することで、データ所有者のデータ主権を維持しながらデータを活用した新産業を創出できる産業戦略が確立されつつある。欧州の自動車会社も当初はデータの開示に慎重であったが、オープンデータ化の政策の流れの中で、自動車関連で公開可能なデータを、必要とする第三者に適切に提供できるような仕組みも構築しつつある。

そこで、日本においてもEVのデータ連携による新たなサービス産業の創出に向けて、データをどう第三者に安全に提供するのか、そうしたデータを提供することでどのようなメリットを関係者で享受できるのかなど、データ連携基盤の構築に向けた議論が求められる。こうした普通充電の高度化によるEVのエネルギーマネジメント実現に向けた論点については、2021年8月に開催された資源エネルギー庁が支援するERAB(エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス)フォーラムにおいて、筆者から問題提起したところである。

今後は、EVを用いたエネルギーマネジメント実現に向けて、蓄電池の充電量などの車両データを自動車会社とサービス提供事業者との間で連携させるべく、必要最低限のEVの情報に関するデータモデルの標準化などの議論を進めていくことが必要である※2。さらにはそのデータを活用して充電器を制御するために、普通充電器の通信機能の在り方についての議論も求められる※3。また、適切なデータ主権での管理実現に向けて、複数の自動車会社の車両を用いたデータ連携基盤の実証試験が必要になるかもしれない。

脱炭素社会の早期実現が求められる中で、再生可能エネルギーの主力電源化と、そのための安定した電力供給ネットワークの構築は必須である。EVを活用したエネルギーマネジメントは、発電量の変動が大きい再生可能エネルギーの活用に必要となる電力需給調整機能の追加投資を抑制できる可能性があり、電力供給ネットワークの強靭化に資する。当社では、EVを活用した新たなエネルギーマネジメントの実現に向けて主要な関係者と議論を深めていく予定である。

※1:欧米では、充電器と車両の間で多様な情報のやりとりを実現するようなISO 15118と呼ばれる通信規格の採用も検討されているが、日本で同規格を採用した場合には、既存の急速充電の通信規格の在り方にも影響する可能性がある。そのため、既存の急速充電インフラの活用を前提にすると、日本でのISO 15118導入には慎重な議論が必要である。

※2:必要最小限のデータの例としては、蓄電池の充電量、EVが系統に連系しているか否かの信号、車両の識別情報などが想定される。

※3:日本国内の普通充電器の大半は通信機能を有しておらず、遠隔での制御ができない状況にある。一方で、欧州では普通充電器に関してもIEC 63110という国際標準に従ったプロトコルでの通信機能が普及している。日本国内でも、普通充電器制御のための通信プロトコル標準化に向けた議論が必要であろう。