マンスリーレビュー

2024年1月号特集2経済・社会・技術海外戦略・事業

「失われた30年」をなぞるのか、岐路に立つ中国経済

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2024.1.1

政策・経済センター金成 大介

経済・社会・技術

POINT

  • 成長促進と債務整理の攻守二本柱が不動産調整の鍵となる。
  • 都市化進展を活用した成長促進には、産業構造転換による雇用創出が必須。
  • 日本の二の舞回避には、成長率低下に備えた政府主導の債務整理も必要。

中国不動産バブル崩壊への懸念

中国経済の先行きに対して、楽観論と悲観論が交錯している。楽観論者は規模面での中国市場拡大の潜在性、個別分野ではAIなどの先端技術力、世界市場を席巻する電気自動車(EV)などに注目する。

一方で近年強まりつつある悲観論の最たるものが中国経済の「日本化」だ。日本経済は30年以上前のバブル崩壊を機に長期停滞に陥り、いまだデフレからの完全脱却を果たせていない。中国経済も不動産バブル崩壊を契機に、日本の「失われた30年」と同じ長期停滞の経路をたどるのだろうか。

70年代、90年代の日本の不動産調整との類似性

戦後、日本経済が最初に経験した不動産の調整局面は、1973年の石油危機に端を発した(以降「70年代型」)。日本列島改造論のもと、都市化の進展ペースを過信した過剰供給から在庫が膨らみ調整を強いられた。ただし、家計・非金融法人の債務蓄積は限定的であり、過剰在庫・債務解消の基盤となる都市化は進展途上という事情も相まって、4%程度の経済成長率のもとで不動産需要は早期に回復し5年程度で調整局面は終了した。

2回目は、90年代のバブル崩壊を契機にした不動産調整局面である(以降「90年代型」)。過剰流動性によって借入をてこにした投機が広がりバブルが発生。資産価格も上昇した。その後、バブル崩壊(資産価格下落)後に借入が不良債権化した。90年代型は、家計・非金融法人ともに債務が積み上がる一方、過剰在庫・債務解消の基盤となる都市化の伸びは鈍化し、成長率も1%程度に低下した。70年代型と異なり過剰債務の解消は、成長率の低下から緩慢なペースにとどまり、不良債権化が進み、日本経済は長期低迷に陥った。

中国の不動産問題は、都市化の進展に伴う経済成長による調整が期待できる点で70年代型、人口減少局面へ移行し高水準の債務が調整の負担となる点で90年代型と共通する(図)。
[図] 日本(70年代、90年代)と中国(現在)を取り巻く経済・社会環境の比較
[図] 日本(70年代、90年代)と中国(現在)を取り巻く経済・社会環境の比較
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出所:Macrobond、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、IIF(Institute of International Finance)より三菱総合研究所作成
家計債務は、経済成長のもとで長期に返済する住宅ローンが中心である。70年代型に共通する都市化や経済成長に伴う所得増加が、住宅ローンの返済負担を緩和すると期待できる。一方、日本で限定的だった、不動産セクターや地方政府が抱える「不動産開発債務※1」は、そもそも不動産用地・住宅販売により返済される短期債務であり時間をかけた縮小にはなじまない。

中国政府は、住宅購入支援策※2による70年代型の経済成長での調整を志向している。こういった対応は不動産の在庫調整には有効だが、不動産開発債務の抜本的整理にはつながらない。抜本的整理には、政府管理下で再生ファンドを活用することなどが考えられるが、今のところ中国政府は慎重な姿勢を崩していない。

人口大国、中国の雇用創出には課題山積

70年代型調整の実行には、都市化進展の受け皿となる雇用創出が不可欠である。中国ではコロナ危機前から賃金上昇が始まり、労働集約型産業の雇用吸収力が低下している。目前では、米欧のデリスキング※3による「海外資本・技術の流入停滞」「テック企業への規制強化」などが技術集約型産業での雇用拡大の妨げとなり、若年失業率が高止まりしている。都市部の雇用創出への逆風が強まる中、都市化進展のペースは鈍化している。

先進国と比べ、中国の都市化率に上昇余地はある。ただし先進国には前例のない14億の人口を抱える中国経済が、都市化進展を支える雇用を供給できるかは予断を許さない。さらに中央集権的な政治体制は構造改革推進の強みとなるが、民間の創意工夫を抑制する弱みにもなりかねない。

抜本的な債務整理は、成長鈍化リスクへの備え

日本では90年代型の調整局面で、抜本的な整理を先送りしていた過剰債務が、成長率低下に伴い不良債権化した。成長鈍化リスクへの備えが不足していたことが経済の長期停滞の一因となった。

中国も、雇用機会の創出が停滞し都市化が進展しない場合には、成長による負担軽減を期待した債務整理の先送りが仇(あだ)となり、不良債権が拡大するおそれがある。低採算の不動産開発債務を残すことは資本効率低下、地方政府による景気刺激策の機動性低下にもつながりかねない。

中国経済にいま求められているのは、産業構造転換と新産業分野での雇用創出による成長促進(攻め)と、日本が後手に回った成長率低下へ備えた中央政府主導での不動産開発債務の抜本的な整理(守り)の二本柱である。

中国が日本の教訓をもとに「失われた30年」を回避し、持続的な成長路線に移行できるかを見極めることが必要だ。

※1:不動産企業および不動産に関連する地方政府債務の一部。

※2:頭金の規制緩和、住宅ローン金利の引き下げなど。

※3:リスク低減を図りながら関係を維持すること。

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