2023年の世界経済は物価高と金利高で大幅な成長減速が見込まれていたが、予想以上に底堅い成長となった。人手不足を背景とする賃金上昇や半導体の供給制約の緩和などの要因がプラスに働き、内需が持ちこたえた。世界主要82カ国のうち、3分の2が潜在成長率を上回る成長を達成できる見込みだ※1。
ただし、足元の景気の底堅さとは裏腹に先行きの不確実性はむしろ高まっている。背景には、3つの構造要因がある。
ただし、足元の景気の底堅さとは裏腹に先行きの不確実性はむしろ高まっている。背景には、3つの構造要因がある。
1. 国際社会の多極化
G7は1980年代に70%近くあった世界GDPシェアが50%を割り込んだほか、内政の不安定化によって自国を第一とする政策運営の傾向も強まっており、国際社会をリードする力は低下している。代わって近年存在感を強めているのが、インドやASEAN、中東などグローバルサウスと呼ばれる国々である。G7、中国・ロシアと価値観を共有せず、独自の立ち位置を確保している。これら第三の勢力は2050年に世界GDPシェアがG7に肉薄するとみられる(図1)。G7、中国・ロシア、グローバルサウスと多極化する国際社会で、国際的な課題に対する共通解を見いだすことは一段と困難になっている。
[図1] 世界主要勢力のGDPシェア
2. サプライチェーンの脆弱性の顕在化
グローバル化が進展した結果、機微技術や重要物資も含めて国家間の相互依存性が高まっている。前述のとおり国際社会が多極化する中で、政治体制や価値観の異なる国への経済的依存度は上昇している。裏を返せば、対立する相手国への輸出入を止めるなど、経済的な結びつきが一方の立場を有利にする手段として悪用されるおそれがある。実際、ロシアによる天然ガス輸出の停止によって欧州がエネルギー危機に直面したことは記憶に新しい。米国も中国の先端半導体製造に寄与する輸出・投資の規制を強めている。経済合理性に基づく既存のサプライチェーンの脆弱性が、地政学的対立の強まりによって顕在化している。
3. 債務依存度の高まり
国際決済銀行(BIS)によると、全世界の政府・民間を合わせた非金融部門の負債はGDPの約2.5倍に膨らんでいる。コロナ禍のもとで一段と拡大した政府債務に対して市場の懸念が高まっており、2022年には英国でトラスショック※2が発生したほか、2023年には12年ぶりに米国債が格下げ※3された。また、新興国も中国を中心に債務が経済成長を上回るペースで拡大している。さらに脱炭素・経済安全保障・軍事費など構造的な歳出拡大圧力も高まっている。債務返済負担の増加によって必要な投資が先送りされかねないほか、過剰債務が不良債権化すれば金融機関の損失拡大を通じて金融システムが不安定化する懸念もある。