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データ駆動を共創し、変革をもたらす。MRI×ヤフーが考える、ビッグデータ活用の未来とは

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MRIの進めるデータ駆動経営

MRIでは、データ活用によるDXを民間企業、官公庁、自治体など、さまざまなお客さまと実践してきました。これまでに実施したプロジェクトは、2008年以降400以上にのぼります。具体的には、お客さまの保有するデータや、プロジェクトの目的に沿って新たに取得したデータを使ってコンサルティングを実施してきました。近年は、いわゆるビッグデータの活用が課題となっています。そうした取り組みの一環として、MRIではヤフー様が提供する統計化されたWeb検索データなどのコンサルティング業務などへの活用を検討し始めています。その経緯について教えてください。

中尾 MRIのデジタル・トランスフォーメーション部門では、DXを読み解く複数のテーマを掲げてDX事業を推進しています。そのテーマの1つに「データ駆動経営」があります。これは、「勘と経験」から脱却し、データに基づいて科学的に経営や社会の運営を行っていくことを後押しするものです。この「データ駆動経営」を実現するために欠かせないものがデータやそれを解析する技術です。世の中には、公的統計などをはじめとして既にさまざまなデータが存在していますが、昨今はデジタル化やテクノロジー進化に伴い、日々さまざまな場所でデータが発生し、これらを容易に利用できる環境が整いつつあります。このような背景を踏まえて、当社ではお客さまや社会の課題解決に活用できるデータの探索やこれらを保有するデータホルダーとの協働に力を入れています。
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新庄 ヤフーの公共チームがMRI様とやり取りしている中で、MRI様としてもヤフーのデータを公共領域だけではなく民間企業にも応用できるのではないだろうかということで2021年の冬頃に私にお声がけいただいたことがきっかけです。われわれとしても民間企業向けのデータ分析に関する実績がありますし、MRI様の持つ独自アセットと掛け合わせることで、互いにWin-Winな取り組みができるのではないかと考え、そこからいろいろな案件ベースで協議させてもらっています。
中尾 私たちはMRIの中でも民間企業のお客さまが多いチームになりますが、既述の「データ駆動経営」は官民問わず当てはまることだと考えています。「勘と経験に頼るのはいけない」とよく言われますが、当社も含め必ずしもそれが実践できているかというとそうではありません。その背景には、日本が低成長ながらも、ある種安定的に経済環境が推移し、前例踏襲の意志決定でも当座は乗り越えられることができたという状況があるでしょう。しかし先のコロナ禍、少し前で言えばリーマン・ショックや東日本大震災など、これまでに経験したことない事象が発生し、社会や経済の先を見通すことが難しく、前例主義では乗り越えられない局面が目立つようになりました。置かれている状況を客観的に把握し根拠ある判断をする、つまり当社が提唱している「データ駆動経営」の重要性やこれを実現するためのデータの価値がますます高まると考えています。
牛島 その「データ駆動経営」において重要になるのは「データの可視化」であり、科学的根拠に基づく経営・事業判断はデータ無しにはありえません。経済や自社の立ち位置、そして消費者の動向をデータから正確に把握し意志決定に活かす考え方は、EBPM(証拠に基づく政策立案)やナウキャスティング(近未来予測)といった概念と同様と考えられます。シンクタンクである当社はもともとデータ解析を得意としており、幅広く社会課題・事業課題に向き合ってきました。ヤフー様の提供するデータを活用することで、より多岐にわたるデータを取得できて「データ駆動経営」に役立つと考えたのです。
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シンクタンクであるMRIだからこそ蓄積されてきた豊富なデータ活用ノウハウ

MRIではデータ活用プロジェクトやデータ解析業務を多く実施してきた、とのことですが、具体的にはどのような取り組みでしょうか。

中尾 当社がシンクタンクとしてデータ活用に取り組んできた歴史は長く、その知見や経験は豊富だと自負しています。公共分野で言えば、例えば国の統計調査などを活用しながら中長期の将来予測を行い、客観的な根拠に基づき国や自治体の計画策定を支援するといった業務に多く携わってきました。民間分野でも、ビッグデータという言葉が出始める以前から、金融、運輸(航空・鉄道)、電力・エネルギー、医療、流通・小売、建設・不動産など、業界を問わず自社顧客や取引に関する膨大なデータを保有する企業に対して、これらのデータを活用した業務改善や売上向上などの支援を行ってきました。これらの業務を通じて、統計調査などのオープンデータだけでなく、民間企業が保有する各社のデータの規模や特徴、限界といった知見を蓄積してきました。データ活用は目的や解決すべき課題の設定が最初にあるべきですが、世の中にはどのようなデータがあるのか、その特徴や限界は何なのか理解していることで、アイデアの幅が広がり、取り組みの成功確率向上が期待できます。この点が当社の強みであると認識しています。
牛島 民間分野でのデータ活用というとマーケティング分野でのご支援が多いのですが、マーケティング分野でのデータ活用は、大きく2通りに分けられると捉えています。まず1つめは「世の中の大きなトレンドを見る」、あるいは「将来の見通しを立てる」こと。2つめは「足元の消費ニーズや消費者意識を細かく把握する」ことです。

1つめの大枠をつかむためには、指定統計(現:基幹統計)や国の統計調査などを主に使用します。その他、統計に限らない各種調査の結果や、MRI独自の「mif(生活者市場予測システム)」や「MROC(Marketing Research Online Communities)」などの調査分析ツールもフル活用しています。

2つめの「足元の状況をつかむ」には、最もポピュラーなものとしてはアンケート調査を活用することが多いですね。調査時点のタイミングが合えば、指定統計も活用しますが、最近では社会や経済の見通しが立てにくくなっているためか、シグナルを捉える、変曲点を捉える、といったように「変化」の兆候を捕捉したいというニーズが高まっているように感じています。リアルタイムデータもうまく活用していくことが必要で、そんなデータを取得する手段の1つとしてヤフー様の提供するWeb検索データも有効ではないかと考えています。検索データから、消費者の意識や行動の変化を詳細に把握できるだけでなく、そこから消費者の深層心理が推測できる可能性があります。検索行動は潜在需要データと見ることもでき、中短期の将来予測にも使えるのではないかと思っています。

mif(生活者市場予測システム):生活者30,000人、シニア15,000人を対象とした、2,000問からなる国内最大級のアンケートパネル。2011年より毎年実施している生活者定点調査。
MROC(Marketing Research Online Communities):ネット上のリサーチ専用のコミュニティを活用し、特定テーマに基づいて調査参加者が議論や意見交換を実施。生活者の関心を定性的に把握し、市場創造に結びつくインサイトを抽出する。

中尾 アンケート調査だと前向きな回答になりがちな、いわゆるイエステンデンシーという懸念がありますが、検索行為には自主的な行動が伴うため、Web検索データは「消費者が本当にそう思っているデータ」である点がユニークです。ただ、高齢になるに従って検索を行う人が少なくなるといった偏りはどうしても生じてしまいます。Web検索データをどういった事例、目的で活用すれば最も有効で、ミスリードを起こさないか、そこを見極めることが大切だと思っています。どんなデータもクセはあるので、そのクセを見抜いて付き合う、それができるのは幅広いデータを扱ってきた当社の強みです。

消費者の姿をよりリアルに把握するための新たなビッグデータの活用

MRIでは、ヤフー様の保有するWeb検索データを利用できるデスクリサーチツール「DS.INSIGHT」を2022年春より試験導入しました。実際に使用してみてどんな気づきがありましたか。

DS.INSIGHT:基となるデータは統計化された検索情報と位置情報。検索キーワードだけでなく、それを検索した性別・年齢、人数の推移などが見える化されている。

中尾 「DS.INSIGHT」はフレッシュな情報に満ちていると思います。最近起きた事象について、簡単にまとめてお客さまに提示できるため、提案の場でも話が盛り上がります。また、幅広い商材に対して何らかのデータが取れるため、検討の入り口で利用できるのがありがたいですね。ただ、検証・確認したい事項によってはなかなかヒットしないということもあります。どのような意図で消費者が検索しているのか、「気の利いた検索ワード」を考えなければいけない点は、少々テクニックが必要ですね。
新庄 思いついたキーワードをそのまま「DS.INSIGHT」上で検索しても意図した調査結果が出てこないことはありますね。基本的には直感的で誰にでもとても使いやすいツールですが、検索ではサジェストで出てくるキーワードも含まれるため、高度に使いこなすためには消費者の行動や意向を推測する技量は多少必要かもしれません。

「DS.INSIGHT」から導き出された中で面白いものと言えば、「献血をしている人は(そうでない人に比べて)マラソン愛好家が多い」という結果がありました、これは仮説ベースの調査では導きにくい情報の一例だと思います。

牛島 「DS.INSIGHT」のデータで検索時系列やその推移を調べてみた事例の1つですよね。検索の変遷は検索サイトならではのデータであり、そこから一般消費者の思考や情報取得経路を把握できるのがシンプルに面白いですよね。定量調査としてはもちろん、定性調査としても活用できるのが従来のマーケティング調査手法と異なる面白さであり、扱いの難しさでもありそうです。
新庄 日々検索データと向き合っていると、意外な検索単語の組み合わせや想像もしなかった検索キーワードの出現などがよくあります。だからこそ、一般消費者の本音がわかるデータだと思いますし、検索データの特性を理解しながらそこから読み取れる示唆を導き出していく、そこに対するナレッジもより多くの企業と協業して深めていきたいと考えています。
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当社のmifと「DS.INSIGHT」を組み合わせることで、さらに有用な分析もできそうです。例えば、2021年に分析した「国内旅行の需要」に関する事例をご紹介したいと思います。

牛島 mifは毎年3万人を対象に調査を実施していますが、国内旅行の需要・頻度の推移を見ると、コロナ禍(2020~2021年)を境に明らかに低下し、「旅行しない」という人が非常に増えていることがわかりました。2021年6月時点では、約25%の人が国内旅行に行かないとしており、回復には時間がかかりそうな様子がうかがえました。2022年はどのように変化するのか、興味深いところです。
宿泊を伴う国内旅行の頻度
宿泊を伴う国内旅行の頻度のグラフ
注:「旅行の頻度についてお尋ねします。 帰省、日帰りの国内旅行(出張は除く)、宿泊を伴う国内旅行、海外旅行に行く頻度はどの程度でしょうか。それぞれ1つお答えください。」に対する回答 (単回答)。
出所:三菱総合研究所「mif(生活者市場予測システム)」

mifは定点的にデータを見ていますが、「DS.INSIGHT」は違いますよね。

新庄 「DS.INSIGHT」では特定のキーワードに対し、検索者がどのくらい増減しているかが見えるので、複数の単語を組み合わせることでトレンドなどがつかめるようになります。

例えばコロナ第一波の2020年3月以降は、海外旅行に関する検索が非常に減り、国内旅行の検索数が海外旅行を上回るという逆転が生じました。ここからわかるのは、「海外には行けないが国内だったらまだ旅行に行けるのではないか」というニーズ・行動意欲ですね。一方でコロナが少し落ち着いていた2022年4~5月頃からは海外旅行の検索数が増えており、海外に行きたい意向が高まっているようです。
「国内旅行」「海外旅行」という検索ワード数の推移
「国内旅行」「海外旅行」という検索ワード数の推移の図
検索ワード数の推移によってトレンドの変化を調べられる。
出所:ヤフー・データソリューション「DS.INSIGHT」

旅行に行く手段についても、行動変容が起きているのでしょうか?

新庄 これは2つめのキーワードを見ることで、インサイトをさらに深掘りできます。コロナ後の動きとしては、交通手段よりも「キャンセル」関連のキーワードや「クーポン」「県民割」などの施策への検索数が増えており、ウィズコロナやアフターコロナの動き方を模索しているのではないかと思われます。
検索ワードの関連性によってインサイトを調べる利用画面例
検索ワードの関連性によってインサイトを調べる利用画面例
出所:ヤフー・データソリューション「DS.INSIGHT」
牛島 コロナ終焉によってどこまで消費者ニーズが戻るかは、あらゆる業種のお客さまからよく聞かれる質問の1つです。mifのような定点調査のアンケートで中長期のトレンドや全体ボリュームを把握し、Web検索データのようなリアルタイム性の強いデータから回復するタイミングも見極められると面白いですね。さらに、先ほど提示されていた検索ワードから需要を回復させるためのエッセンスを推測できれば、お客さまにとって、より価値の高い情報が提供できるようになると思っています。

データ特性をつかみ、いかに組み合わせるかでこれまでにない分析と提案を

両社で協働することで、今後どのような取り組みをしていきたいと考えていますか?

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中尾 私のチームではB to C企業のお客さまが多いので、オーソドックスには顧客像の理解、少し発展的には需要の的確な把握に向けてデータ活用を推し進めていきたいと考えています。短期スパンで需要予測をしながら、お客さまのサプライチェーンの最適化・効率化をご支援できるのが理想だと思います。そのためにもリアルタイムなデータを活用した需要の先読みは欠かせませんし、Web検索データに期待しているところです。ひいては需要の先読みに基づく、ダイナミックプライシングへの応用や商品・サービス開発にも役立てたいですね。アンケートを取る手間や時間が不要で、すぐに世の中の動きを見られる特長を活かし、状況の変化に応じて企業や行政が柔軟に対応できる仕組みづくりにも繋げていきたいと考えています。
牛島 Web検索データは課題解決に向けたインサイト、ヒントを獲得する有効な手段ですが、課題解決に向けた本格的な打ち手を検討するには、データ活用の目的を明確に設定し、どういった角度からデータを見るべきか、より高度なカスタマイズ分析が必要となります。さらに、「そのデータから何を見て取るか、どのように動けば良いか」までを緻密に提案できるのはMRIならではの強みです。

ビッグデータは蓄積するだけではダメで、いかに分析し、いかに使うかを考えなければ有効活用できません。リアルタイムで大量のデータを蓄積し、分析しやすい形で可視化できるヤフー様の技術力と、データ分析のプロ集団であり長年のナレッジを持つMRIが協働することで、最強のご提案ができるのではないかと思います。
新庄 他社と協業するメリットの1つに、ナレッジが溜まるスピードが加速度的に進むことが挙げられると考えます。「DS.INSIGHT」では契約者限定のコミュニティスペースを用意していて、他社の活用方法を知ることができます。会社や業種という枠を越えたナレッジになりつつあります。

私自身がMRI様と取り組む中で印象的だったのは、ヤフーのような外部のデータ活用に対する積極的な姿勢です。ヤフーの検索データを扱えるツールというのは、世の中では新しい領域。新しいことに対して懐疑的になる企業もある中で、MRI様は打ち合わせ初回から非常にたくさんのリコメンドやアイデアをくださったのをよく覚えています。ビジョンを共有し、データを最大限に活用する意志を強く感じました。最終的には「町のパン屋さんでもデータを扱えるように」というヤフー・データソリューションの目指したい未来像に向かって一緒に走っていけるだろう、と感じています。

私自身は普段業務の中で調査手法の設計をすることもありますが、クライアントから「最終的なアクションをどうしたら良いのか」とよく尋ねられます。MRI様はそのアクション実行も支援していらっしゃいます。データ活用によってどんなアクションを提案できるか、ヤフーのデータを使って調査を行い、その結果を基にMRI様がアクション実行の支援を行う、そういった案件を今後もどんどん増やしていきたいですね。

それはまさにMRIならではの強みですね。

中尾 リーマン・ショックやコロナ禍のように、自社の販売データだけでは予想がつかないアクシデントが起きた際、いち早くWeb検索データと自社データを掛け合わせて今後の見通しを立てられるというのは大きな武器になるはずです。協働のネクストステップは、顧客それぞれに合った形で、データコンサルティングをしていくことだと考えています。
新庄 そこは「長年の業界知見」というMRI様ならではの強みが活かせる部分ですね。今後もMRI様ならではのヤフービッグデータの使い方や、mifとの掛け合わせ方などの情報交換をしながら、データの利活用の可能性を広げるような取り組みをし、「データ活用の民主化」をともに目指していければと思います。
中尾 そうですね。おっしゃる通り、当社の強みは長年のコンサルティング実績で培った世の中のデータに関する知見や活用ノウハウだと思っています。さまざまな社会課題やお客さま課題が出てきているわけですが、同じように日々刻々と新たなデータも生まれてきているのだと思います。そのような新たなデータの中でもヤフー様のWeb検索データは適用範囲が広いデータと感じており、今後も社会やお客さま課題の解決に繋げていきたいと考えています。

併せて、引き続きいろいろなデータホルダーとの関係を強化していくことで、われわれの目指す「データ駆動経営」を具体化し、多くのお客さまの課題解決と業務高度化を実現していきます。
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PROFILEプロフィール

インタビューアー

  • DX技術本部
    デジタルコンサルティンググループ 主任研究員
    事業会社を経て三菱総合研究所に入社後、コンサルタントとして幅広い業種・分野に従事。実務経験を活かした現場起点での最適なデータ活用方法を模索し、価値ある課題解決策をご提案します。

インタビューイー

  • 新庄 匠
    新庄 匠
    ヤフー株式会社
    データソリューション事業本部 クライアントソリューション部 部長
    2014年ヤフー株式会社に新卒で入社。ヤフーのビッグデータを活用した分析ソリューションをさまざまな業界の企業に対して提供。現在はセールスチームをマネージャーとして率いる傍ら、ヤフーのビッグデータに関するセミナーに多数登壇し、DXを推進中。
  • DX技術本部
    デジタルコンサルティンググループ グループリーダー
    事業や顧客戦略の立案には、自業界の特性やデータのクセの理解に加えて、他社・他業界での取り組みも重要なヒントになります。さまざまな業種・業界でのデータ解析の経験を踏まえて戦略立案をご支援します。
  • DX技術本部
    デジタルコンサルティンググループ 主任研究員
    博士(工学)
    幅広い業種・分野でのデータ分析・コンサルティングの経験を活かし、最近ではDX戦略策定や推進支援業務に従事。使い手にとって本当に有益なデータ活用策を1つでも多くご提案し、実現していくことを目指しています。

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